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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第1章 天使(エンジェル)
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1-2

誤字脱字、直しつつ始めて行きます。

どうか、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

 髪は烏の濡れ羽色。黒の上にうっすらと虹色が浮かんでいる。干渉色というものだろうか。目はどこまでも深い黒で、髪と目だけは和風テイストながら、顔立ちは目鼻立ちくっきりとした西洋風美少女。肌は白磁のごとき。

 スタイルも和風とは言えない、いわゆる出るとこ出て、締まるとこは締まっている。ワンピースの上からも分かるボッキュボンというやつだ。東西の美点を集めた作り物めいてはいるが、生き生きとした表情がそれを打ち消している。

 ちなみに肌もつやつやの様子。

 少々あり得ない美少女を前に、ここに至って、明は自分がどうやら異世界転移ってのに巻き込まれたようだと判断した。

 美少女の背中には翼があるし。明の知る限りでは、そんなびっくりどっきりな人間は存在しない。

 ラノベとかネット小説とかの、あの異世界転移である。

 なんじゃそりゃ、と思わないでもない。

 アニメや漫画、ラノベは好きだが、40歳半ばで一社会人として暮らしている自分は「軽ーいオタクかな」くらいの自意識しかない明だ。何で自分がと思いながらも、周囲に注意を払いつつ森へと戻っていた。

「だいじょーぶだよ。もうサーベルウルフ(あのこたち)はいないよ」

 鼻歌交じりでついて来た、へっぴり腰で森を進む明を笑う少女に、何でそんなことが分かるんだよと、内心で思う。だがそれも口には出来ず、先ほどの体験からも安心できない。

 ふと明の目に入った。というか、一番目立つ。

「それ、邪魔じゃないか」

「おっと、そうだね」

 明の指摘に、少女は背中に視線を向ける。広げられた翼が時折、木に当たったり、引っかかったりしている様子だ。だが次の瞬間、シュルとした音とともに翼は背に吸い込まれた。

「なんだ、しまえるのか。最初からそうしておけよ」

「えへへ、忘れてた」

 そんな言葉にドキドキしつつ、見た物を受け入れ、開き直ったのか、明の言葉もやけくそ気味だ。

 それでも、少々間の抜けた会話を交わしつつ、荷物を放り出したところへと戻ることができた。戻れたのは奇跡に近いが。ただ、残っていたのは頑丈なスーツケースと、くくり付けていた鞄だけだ。

「あー、アタッシュケースにパン入れてたからなー」

 どうやら、中に入っていた食料目当てでなのか、何者かに持ち去られたようだ。

 周囲は昼間っぽいが、晩飯をなくし、少々空腹を覚えつつも仕方ないかと、明は鞄がくくり付けられたスーツケースを肩に持ち上げた。下生えに車輪が引っかかりそうで、持ち上げた方が楽だと思ったからだが。

「こんなに軽かったかな」

 首をひねる明の腕を少女がとった。

「あなた、これからどうするの?」

「どうするも。どうしようか?」

 首を傾げる少女に、明は事情を話す。あまり異世界転移について言いふらすのもどうかと思ったが、この世界で初めて出会った人間?だ。思い切ってすべてを打ち明けることにした。

「ふーん、世界を渡ったんだねー。珍しい体験したね」

「って、よくあることなのか?」

 ぶんぶんと首を横にふる少女。いわく、どうやらそんなこともあるという、実際に基づいたおとぎ話の類いを聞いていたらしい。

 思い切って打ち明けたというのに、情報を得られず肩を落とす明。だが、そんな明の肩を叩き、行くとこないんでしょと、少女はにっこりと笑う。

 ここは異世界と思われる。いや異世界だ。少なくとも、翼の生えている少女や、角があるオオカミは元いた世界にはいない、はず。明はうなずくしかなかった。

「じゃ、私の家においでよ。私、リーネっていうの。あなたは?」

「俺は天道明」

 リーネは続けて「テンドウアキラ?」と繰り返す。

「アキラでいいよ。じゃ、これも縁だし、世話になるかな」

 いきなり、初対面の相手の世話になるのもどうかと思ったが、右も左も何もわからない世界だ。いきなりの気安いお誘いではあるが、アキラは誘ってくれてるんだからと遠慮はしないことにした。

 まぁ、美少女のお誘いだし。

 そこで持ったままの日本刀に気づき、リーネに返そうとしたが、首を振って断られる。

「アキラが持ってて。ツキがそう言ってたから」

 ツキ?知らない言葉にアキラは首を傾げる。

「家で会えるよ。行こう!おねーさんに任せなさい!」

 どうやら、リーネには同居人がいるようだと、アキラは見当をつけたが、引っかかることがあった。そのツキとやらは、なぜアキラのことを知っていたのか。

 それからお姉さんって?

 もう自分、40歳半ば超えてるおっさんなんだけど、まだ10代半ばにしか見えないリーネに首を傾げる。なんかの言葉の綾かなと無理に自分を納得させるアキラだが、ツキとやらが言った言葉は聞き捨てならない。

 リーネに手を引かれつつ、アキラは確かめようとしたが、リーネは知らないの一点張り。ただ、散歩に出ようとしたら、刀を持たされ、一言「誰かに出会ったら渡しなさい」と言われたと、説明するばかり。

「出会うはずもないのに、何を言うのかなーって思ってたら、アキラがいてびっくりしたよ」

 と、また何か引っかかることを言うが、聞いても要領が得ないだろうと、アキラは諦めのため息をつきつつやめておいた。どうやら、家で待つツキとやらに聞く方が手っ取り早い。

 自然と口数が減ってきたアキラに、前で手を引くリーネが振り返った。

 疲れた?と聞いてくるリーネに、アキラは大丈夫と首を振る。

「もう少しだから、頑張ってね」

 そういえば、リーネに言われて気づいたが、結構な距離を歩いているのに、身体に疲れはない。

 アキラが首をひねる。何か首ばっかりひねってるなと考えていると、リーネにぐいっと手を引かれた。

 駆けだしたリーネの先には家があった。小高い丘の上にある、いわゆるログハウスだった。

「思ってたよりでかい」

 アキラの想像では、某カ○ピ○まんが劇場のハ○ジの家くらいかなーだったが、あれの二から三倍以上の、いやそれ以上かもしれない大きさだった。

 煙突が見えたが煙は上がっておらず、気温は寒くはないため、それもそうかと思う。

 歩いた結果、汗ばむくらいの陽気であった。

 ただいまー、と玄関に向かって駆けつつリーネが声を上げた。

 少し大きめの両開きのドアの一方が開けられ、人影が姿を現す。おそらく、リーネの言うツキという人物なのだろう。

 少し距離があったが、日本にいるころは、高い高いと言われる180センチはあるアキラと比べて、拳一つ分程度低い身長だと見て取れた。

「巫女さん?」

 遠目に見える、上は白で下は赤の、スカートぽい衣装は巫女装束に似ていた。落ち着きを感じさせる立ち姿は、大人だと思わせる。

 大人のボッキュボンというやつだ。

 野暮ったい、会社の事務の制服を着てるの見てみたいと、あさっての方向に思考が向かうアキラだった。

 細い髪質なのだろう。さらさらと銀色の髪が、かすかな風になびいていた。近づくにつれ、アキラは自分に向けられている瞳が青いことに気づいた。

 アキラから手を放したリーネが、巫女っぽい衣装に飛び込んだ。

「連れてきたよー。テンドーアキラだって!」

 転移してきたんだってー、と無邪気に言うリーネ。

 リーネとは違うドキドキを感じつつ、アキラは二人に近づいた。

 美女に抱きつく美少女。

 少々あり得ないシチュエーションに向かって、アキラは口を開いた。

「アキラって呼んでください。リーネに言われてついて来ましたが、お邪魔ではないですか?」

「いいえ、大丈夫ですよ。私はツキ、ツキノナミダです。ナミダと言われたりもしますが、お好きにお呼びください」

「では、ツキさんと」

「ツキでいいですよ」

 にっこりと笑い、ドアを開けて中に入るように促され、遠慮気味に足を進めるアキラ。そんなに簡単に受け入れて良いのかと。見ず知らずの人間だぞと。

 こういう時に、気の利いた言葉をかけられたら、少しはモテるんだろうなと思いつつも、出来るわけないだろうと諦め気分のアキラだった。

次は、今日の夜中か明日か明後日になりそうです。

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