10-13
引き続き、
第10章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
ここで逃げ出せば、魔王の艦隊は完膚なきまで破壊され、人的な被害が発生するだろう。
いかに魔王が支配する地の住民、敵である兵士であっても、正体不明の第三勢力の攻撃からの被害を見捨てることは、アキラにとってはどこかにしこりを残すようで、後で後悔する事になろう。ましてや、いかに敵とはいえ、父と名乗る者が治め守っている人々なのだ。
そして、きっとこの先、円盤に乗る者達とは対峙することになると、アキラは予感めいたものを感じていた。
ゆえに、ここで戦いには勝つ必要があるだろうと。逃げ出すわけにはいかないのだと。
そして、手持ちの戦力を確認してみると、どうやら、戦闘に勝つには主砲に頼らざるを得ないようなのだ。
だが、正直のところ、アキラはリーネの様子から主砲を使うのは避けた方が良いのでは考え始めていた。
「一度仕掛けてみないと分からないか?」
これから行う、飛行体による初めての戦闘に、アキラは緊張を隠せず、乾いた唇を舌で舐めて湿らせる。
単車で、後方からの銃撃を恐れ、自分の前に乗せて覆い被さった時の、胸に感じた人の暖かい温もりの記憶が蘇る。その後に浴びせられた罵声とともに。
少なくとも、あの時とは違う。
きっと、罵声ではないだろう、得るものは。
「行こう!敵は円盤だ!」
「頂天号、突撃します!」
「余剰魔力、放出停止、バイパス開放」
「航路クリア、障害ありません」
そして最後に、リーネが叫ぶ。
「主砲展開!」
加速を開始した頂天号の機首に、幾つもの魔方陣が生まれる。それは前へ、前へと突き進む頂天号の機体より早く、その機首の前方へと進み出て、中心が繋がれて淡い光で砲身を作り上げた。
「ライフリング形成、撃針後退、シアー作動トリガーと接続」そして、リーネがアキラを見る「準備完了、いつでも撃てるよ!」
それの全ては魔術的な機構であり、じっさいに存在するわけではない。
しかし、真実それが存在する証であるかのように、アキラの目前に、計器盤から拳銃のトリガー部分だけを取りだしたかのようなアームがせり上がった。
「先ずは副砲を試す」
それを聞いたリーネが僅かに不満げな表情になるが、黙って素直に計器盤を操作すると、主砲のトリガーアームを一回り小ぶりにした、トリガーアームが二つせり上がり、それをアキラは両手で掴む。
「メインスコープ出すね」
更には、前方のメインの映像とは別に、小さな映像を映すガラス板が迫り出し、中心には照準のための円形のシンボルが映されていた。
アキラの手の中で、本体と繋がっているトリガーが震え、副砲の準備が整った事が分かり、主砲とは違って、実際の機械機構を使用した砲であることが、アキラにも感じる事ができた。
メインの映像に、頂天号が出す速度に見合って、みるみる円盤が大きくなるのが映し出されている。その小型版とも言える照準映像の中に映された円形シンボルを円盤に合わせ、アキラは二つのトリガーを引いた。
二つ打ち出された魔力弾は、確かに命中したのだが、弧を描いて上方へと弾かれる。
「円盤の曲面を利用した避弾経始か?古い戦車の砲塔みたいだ」
過去に、仕事で渡航中止勧告の出ているような地域へと赴く前に調べた知識を思い出すアキラ。それに実際、そんな地域に赴くと旧式の、かなり昔に供与された装甲車両が使用されていたものだ。
避弾経始は装甲車両や戦闘艦に用いられている、傾斜装甲のもとになったものだが、確か現代では廃れつつあるものであったはず。
なぜ廃れているのか?
アキラは懸命にその理由を思い出し、そして行き着いた。
「リーネ、副砲の魔力弾形状を変更出来るか?」
きょとんとした表情を浮かべるリーネ。
しかし、すぐに後方から声がかかる。
「それは私がやろう。形状を念話で送ってくれ」
アキラはトリガーに手をかけたまま、後方を振り返り、クオークと念話が繋がった事を感じた。
『これだ』
アキラが念話で送った形状とは、細く短い槍のような形状であった。
「これを出来るだけ高速で撃ち出してくれ。出来るか?」
「もちろん」
そして、すぐさま準備が完了したとクオークが告げる。
敵が撃ち出す光線を回避していたレインに、再び円盤へと向かうようにアキラは命じると、再び円盤を照準環の中心へと入れる。
再びの射撃に、細く槍のような魔術弾が円盤の船殻に命中。今度は弾かれることなく、船殻を貫いた。
魔術による徹甲弾の再現であった。
ただし、貫徹には至らず、船殻を抉っただけで、内部へ僅かに被害に与えるだけに留まった様子だ。事実、着弾した円盤は僅かにぐらついただけで、今も飛行を続けていた。
「すべての円盤が、船殻に纏うシールドを強化しました」
ツキの言葉に、アキラが喉の奥を鳴らす。
さすがにすぐに対策をするとは。
しかし、改めて頂天号の脅威を感じたのか、それとも数でかかれば問題はないと考えたのか、四つの円盤から放たれていた光の柱が消え、六つの円盤全てが頂天号に向かってきながら、光線を放ち始めた。
頂天号の船殻に被害を与えた稲妻は放射されておらず、全ては直線に放たれる光線ばかりである。
各所に設けられたスラスターをも利用して、レインは光線を回避するが、さすがに六つの円盤から放たれる光線全ては無理であった。
何発かの光線を受け、レインの顔が悔しさに歪む。
「レイン、無理をするな。船殻が弾いてくれている」
「しかし、いつまでも続くとは思えません」
レインの言うとおりだ。
敵が今のアキラのように、何か攻撃の手法を変えれば、あるいは稲妻が放たれれば、頂天号の船殻とて、被害が生じるかも知れないのだ。
工夫をするのは、出来るのは敵も同じなのだ。
言い返すことも出来ず、アキラは目前の主砲のトリガーに視線を落とした。
出来れば使いたくはない。それがアキラの正直な気持ちだ。
今、主砲に対してアキラにあるのは恐怖でも不安ではない。畏れであった。
「主砲の出力は制御出来るかな?」
ここに至って、アキラはリーネに尋ねた。説明書には主砲の記載がなかった。詳細を知るのは魔術の術式を改ざんしたリーネだけなのだ。
しばらくリーネはアキラの言葉を聞いて考え込んでいたが、やがてゆっくりと頷く。
「大丈夫。出来るよ」
幼女もどき:「冥○星沖○戦で弾かれたみたいな?」
違う。
次回、明日中の投稿になります。




