10-11
引き続き、
第10章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
航空母艦DH183 航空甲板
共和国の主力であるDH183とDH184を中心とした艦隊は、分遣艦隊と合流すべく、また、一刻も早く航空隊を回収すべく船足を進めていた。
航空甲板では、着艦のための準備は済んでおり、手の空いた作業員は規定に従い、空の監視を行っていた。
「あれは……」
作業員の一人が声を上げる。
それをきっかけにして、他の作業員や、本職の監視員が一点を見つめ始めた。
それは空を飛んでおり、近づくにつれてその大きさが分かる。明らかに、着艦のために戻ったF-3や頂天号ではなかった。
やがて、震える声で呟く者が現れた。
「ドラゴンだと……」
その姿は白く、太陽の光を反射していた。
そして、更には別の職務に忠実に、他の場所を監視していた監視員が声を上げた。
「更に、ドラゴンだと?」
白い羽毛に覆われたドラゴンが優雅に飛行するのに比べて、滑空する様は鋭利と言って良い、赤い皮膚のドラゴンがDH183に近づき、二体のドラゴンはDH183の上空で、旋回を始めた。
最初に降下を始めたのは白いドラゴンであった。
航空甲板上では、待避の言葉が叫ばれる中、甲板上で一度ふわりと浮き上がったドラゴンは、優しく甲板に降り立った。
そして、その首筋から降り立つ人影。
全身が白ずくめの巫女衣装の獣人、耳の形から人犬だと分かる。
獣人巫女が茶色の長い髪をなびかせて、キョロキョロと周囲を見回す中、白いドラゴンが人の形へと変わる。
人型のドラゴンと巫女姿の人犬が艦橋へと連れだって歩く中、今度は赤いドラゴンが甲板目がけて降下を始めた。
今度は先の白いドラゴンとは違って、優しさの欠片もなく、叩きつけるように甲板に降り立つ。その衝撃に、DH183は艦全体が傾くことになり、普段の訓練がなければ、振り落とされる者が出てもおかしくはないほどの状況だった。
先と同じく、ドラゴンの首筋からぽーんと人影が甲板に飛び降りた。
赤く長い髪をたなびかせ、革のジャケットにズボンの出で立ちに、手には巨大な剣を持って降り立ったのは小身の人であった。
そして、こちらのドラゴンも人型に変わり、降り立った人とともに艦橋の元へと向かった。
二組が合流を果たす頃、艦橋下の扉から姿を現したのはシオダを伴ったブルーだった。
ブルーは不満げそうな顔だが、シオダは人型のドラゴンの前で、片膝を突いて頭を垂れた。
「ご乗艦いただき感謝いたします」
そう言ったシオダは緊張の極みにあった。
勇将、猛将と呼ばれるシオダであっても、さすがに二体、いや三体のドラゴンを前にしては緊張気味だ。このDH183の艦上、航空甲板に世界に三体しか存在しない、最強と言われ、世界を滅ぼし得るドラゴンすべてが揃ったのだ。
「この船の長か?」
じろりとロッサがシオダに視線を向けて問いかける。
「左様にございます」
「我らの乗船の許可を」
「認めます」
一見、無作法に見えるロッサであっても、権威は尊重する。
「楽にしてくれ」
言い放ったのはロッサだが、相変わらずルージュがその腕にじゃれついていて、厳かな雰囲気にもなりそうにない。静かに佇むのはハクとプチィー、対照的だ。
「飛べないだろ、だから迎えに来てやったぜ」
そう言って、にやりと笑うロッサ。腕に抱きついているルージュまでが迎えに来たぞー、と空いている手に持つ大剣を空に向かって突き上げる。
「いいな」
ぽつりと言ったのはハク。周囲には、一切意味は伝わってはいないが、それに頷いたのが側に佇む人犬のプチィーだ。
「船遊びにちょうどいいかと。一隻買いますか?」
ハク様がドラゴンの姿のままで乗り降り出来るのは素晴らしいと、プチィーは屋台で果物を買うかの気安さでハクに尋ねる。
「わざわざ人を雇わなくとも良いようです」
すでに、プチィーはこのDH183にはエーテル炉が積まれている事を見抜いており、やり方次第では、艦そのものを制御出来ると言い切った。
どうやら、ハクの主従はここに来た本来の目的よりも、航空母艦が気に入った様子で、そちらに夢中のようだ。
「……迎えに来た、ってんなら感謝しよう」
「犬だもんな」
「噛むぞ!」
からかうロッサに、怒るブルー、けらけら笑うルージュ。ひたすら周囲を見回すハクに、手近にいた作業員を呼び寄せ、艦の諸元を聞き出そうとするプチィー。
その場に巻き込まれているシオダは、どう反応すれば良いのか分からず、立ち上がったのは良いものの、呆然としていた。
艦橋へと戻っていてくれと、ブルーはシオダに頼み、それを見送った後に口を開いた。
「早いんじゃないか」
呆れたように、へっと言ったロッサが顔を下げてブルーの顔を覗き込む。
「犬の態になって、鈍ったか?」
「…………」
「始まってるよ、精霊が騒がしいし、数も減ってる」
「だからといって……」
その言葉を断ち切るように、ロッサが人差し指をブルーの鼻先に突きつける。
「鈍ってる?いや、寂しいんだろ?」
身体を起こして、両腕を広げるロッサ。
それを見たハクが目蓋を閉じる。
「ロッサ、私も寂しい」
「俺だって寂しいさ!」
そして、ロッサは片足を振り上げ、甲板に踏み下ろした。重量物が叩きつけられる音とともに鋼板がへこみ、艦全体に衝撃が走った。
「だけどな……」
そう言って二体のドラゴンから顔を背けるロッサ。
沈んだ顔のハクが頭を垂れて呟いた。
「……仕方がないことなのか」
だが、ブルーはにやりと笑う。犬の顔で。
「いや、大丈夫だ」
赤毛のちびっ子:「むがー、出番が少ないゾ」
人犬巫女姫:「私なんて初登場です。名前だけだったし」
赤毛のちびっ子:「でもな、がい……」
はい、それまで。
言わせはせん。
次回、明日中の投稿になります。




