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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第10章 I Just Called to Say I Love You
196/219

10-11

引き続き、

第10章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

航空母艦DH183 航空甲板

 共和国の主力であるDH183とDH184を中心とした艦隊は、分遣艦隊と合流すべく、また、一刻も早く航空隊を回収すべく船足を進めていた。

 航空甲板では、着艦のための準備は済んでおり、手の空いた作業員は規定に従い、空の監視を行っていた。

「あれは……」

 作業員の一人が声を上げる。

 それをきっかけにして、他の作業員や、本職の監視員が一点を見つめ始めた。

 それは空を飛んでおり、近づくにつれてその大きさが分かる。明らかに、着艦のために戻ったF-3や頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドではなかった。

 やがて、震える声で呟く者が現れた。

「ドラゴンだと……」

 その姿は白く、太陽の光を反射していた。

 そして、更には別の職務に忠実に、他の場所を監視していた監視員が声を上げた。

「更に、ドラゴンだと?」

 白い羽毛に覆われたドラゴンが優雅に飛行するのに比べて、滑空する様は鋭利と言って良い、赤い皮膚のドラゴンがDH183に近づき、二体のドラゴンはDH183の上空で、旋回を始めた。

 最初に降下を始めたのは白いドラゴンであった。

 航空甲板上では、待避の言葉が叫ばれる中、甲板上で一度ふわりと浮き上がったドラゴンは、優しく甲板に降り立った。

 そして、その首筋から降り立つ人影。

 全身が白ずくめの巫女衣装の獣人、耳の形から人犬だと分かる。

 獣人巫女が茶色の長い髪をなびかせて、キョロキョロと周囲を見回す中、白いドラゴンが人の形へと変わる。

 人型のドラゴンと巫女姿の人犬が艦橋へと連れだって歩く中、今度は赤いドラゴンが甲板目がけて降下を始めた。

 今度は先の白いドラゴンとは違って、優しさの欠片もなく、叩きつけるように甲板に降り立つ。その衝撃に、DH183は艦全体が傾くことになり、普段の訓練がなければ、振り落とされる者が出てもおかしくはないほどの状況だった。

 先と同じく、ドラゴンの首筋からぽーんと人影が甲板に飛び降りた。

 赤く長い髪をたなびかせ、革のジャケットにズボンの出で立ちに、手には巨大な剣を持って降り立ったのは小身の人であった。

 そして、こちらのドラゴンも人型に変わり、降り立った人とともに艦橋の元へと向かった。

 二組が合流を果たす頃、艦橋下の扉から姿を現したのはシオダを伴ったブルーだった。

 ブルーは不満げそうな顔だが、シオダは人型のドラゴンの前で、片膝を突いて頭を垂れた。

「ご乗艦いただき感謝いたします」

 そう言ったシオダは緊張の極みにあった。

 勇将、猛将と呼ばれるシオダであっても、さすがに二体、いや三体のドラゴンを前にしては緊張気味だ。このDH183の艦上、航空甲板に世界に三体しか存在しない、最強と言われ、世界を滅ぼし得るドラゴンすべてが揃ったのだ。

「この船の長か?」

 じろりとロッサがシオダに視線を向けて問いかける。

「左様にございます」

「我らの乗船の許可を」

「認めます」

 一見、無作法に見えるロッサであっても、権威は尊重する。

「楽にしてくれ」

 言い放ったのはロッサだが、相変わらずルージュがその腕にじゃれついていて、厳かな雰囲気にもなりそうにない。静かに佇むのはハクとプチィー、対照的だ。

「飛べないだろ、だから迎えに来てやったぜ」

 そう言って、にやりと笑うロッサ。腕に抱きついているルージュまでが迎えに来たぞー、と空いている手に持つ大剣を空に向かって突き上げる。

「いいな」

 ぽつりと言ったのはハク。周囲には、一切意味は伝わってはいないが、それに頷いたのが側に佇む人犬のプチィーだ。

「船遊びにちょうどいいかと。一隻買いますか?」

 ハク様がドラゴンの姿のままで乗り降り出来るのは素晴らしいと、プチィーは屋台で果物を買うかの気安さでハクに尋ねる。

「わざわざ人を雇わなくとも良いようです」

 すでに、プチィーはこのDH183にはエーテル炉が積まれている事を見抜いており、やり方次第では、艦そのものを制御出来ると言い切った。

 どうやら、ハクの主従はここに来た本来の目的よりも、航空母艦が気に入った様子で、そちらに夢中のようだ。

「……迎えに来た、ってんなら感謝しよう」

「犬だもんな」

「噛むぞ!」

 からかうロッサに、怒るブルー、けらけら笑うルージュ。ひたすら周囲を見回すハクに、手近にいた作業員を呼び寄せ、艦の諸元を聞き出そうとするプチィー。

 その場に巻き込まれているシオダは、どう反応すれば良いのか分からず、立ち上がったのは良いものの、呆然としていた。

 艦橋へと戻っていてくれと、ブルーはシオダに頼み、それを見送った後に口を開いた。

「早いんじゃないか」

 呆れたように、へっと言ったロッサが顔を下げてブルーの顔を覗き込む。

「犬の(なり)になって、鈍ったか?」

「…………」

「始まってるよ、精霊が騒がしいし、数も減ってる」

「だからといって……」

 その言葉を断ち切るように、ロッサが人差し指をブルーの鼻先に突きつける。

「鈍ってる?いや、寂しいんだろ?」

 身体を起こして、両腕を広げるロッサ。

 それを見たハクが目蓋を閉じる。

「ロッサ、私も寂しい」

「俺だって寂しいさ!」

 そして、ロッサは片足を振り上げ、甲板に踏み下ろした。重量物が叩きつけられる音とともに鋼板がへこみ、艦全体に衝撃が走った。

「だけどな……」

 そう言って二体のドラゴンから顔を背けるロッサ。

 沈んだ顔のハクが頭を垂れて呟いた。

「……仕方がないことなのか」

 だが、ブルーはにやりと笑う。犬の顔で。

「いや、大丈夫だ」


赤毛のちびっ子:「むがー、出番が少ないゾ」

人犬巫女姫:「私なんて初登場です。名前だけだったし」

赤毛のちびっ子:「でもな、がい……」

はい、それまで。

言わせはせん。


次回、明日中の投稿になります。

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