10-9
引き続き、
第10章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
????円盤 内部
円盤の操縦室と思しき空間の中央では、仁王立つ者がフードが外れているのも気づかずに、驚愕の表情を浮かべている。
それは計器盤の前に座っていた者達も同じ。
席を立ち、映し出された映像を驚愕の表情で見ていた。
その内の一体が振り返り、叫んだ。
「パークヒル!あれは報告になかったぞ!何だあれは!」
その言葉にも気づかぬのか、パークヒルと呼ばれた男は、ぎりりと音が鳴るほどに歯を噛みしだく。
「パークヒル!」
「私も知らない。あの姿は知っているが、構成が前とは違う。あれは……」
「あり得ないぞ!」
「あり得ようもない。生命と精霊、その両方の融合……、あり得ない!」
前に見た時は生物あるいは生命体であったはずだと、パークヒルは叫ぶが、周囲の者達は驚愕の表情を納めて、訝しげにパークヒルを振り返っていた。
「土塊から生まれたものと、エーテルから生まれたものが融合だと。あり得るはずがないだろう」
土塊とは言うが、現実には土や岩を捏ねて創造したわけではない。この世界の物質から、精霊が生命を生み出したのだ。精霊はそれがエーテルが該当する。
しかし、理がどうであれ、現実に眼前に存在し、攻撃を防がれたのならば、それは敵だ。よって、パークヒルは命じた。
「振動雷撃線の出力を上げよ!粉々にしてしまえ!」
理解の範疇の外にあるの危険だ。ならば破壊せよ、あるいはエーテルに還元せよとパークヒルは命ずるが、言葉が返される。
「炉への負担が大きい」
「この機体を放棄しても構わん、やれ!」
だが、それは果たされない。
振動雷撃線は、命じたパークヒルの目前でアキラの大太刀に斬られて消滅するからだ。
「魔術ではないのだぞ……」
呟くパークヒルには、愕然とした表情が浮かんでいた。
航空母艦DH183 エーテル炉室
時は巻き戻る。
それはエーテル炉の前に置かれたベッドに、未だにアキラが横たわっている時。
椅子に登ったブルーがアキラの顔を覗き込み、精霊工学士としてディアナがアキラの斬られた箇所に指を添えていた。距離を置いて見守るのはライラとペノンズであった。
周囲の心配げな様子にもかかわらず、目蓋は閉じてはいるが、アキラはそれを見て感じていた。
これは夢だろうかと、アキラは先ずは思う。どこかで聞いた事があった、これが明晰夢というものだろうかと。なぜなら、夢であるのに受ける感覚が異様にリアルであったからだ。
目を閉じているために、周囲の状況は分かりはしないが、後頭部に感じるのは、張りがあって柔らかい感触。頭部を撫でるかのように、髪を梳く何か。
少年時代を思い出し、何故か心が安らぐ。
ここに至るまでの状況を、アキラは思い出す。
先ずは整理をしてからだ。これが夢であるなら、少々はのんびりしたとて許されるであろうと。
自分の腹を斬り裂かれた感触を思い出し、心の中で渋面を浮かべる。しかも、父と名乗る者によってだ。そして、手に魔方陣を浮かべて、アキラを守ろうとして出来ず、驚愕の表情を浮かべるリーネ。
いくらリーネに詫びても足りはしない。
自らの不甲斐なさを思う。アキラ自身がシールドを張れていればと。もう少し体捌きができていればと。
リーネは自分を責めているだろう。もしかすると、心に傷を負ったかも知れない。
そして、剣で防げなかったツキも同じ。
斬られ、その痛みによって自ら神経を遮断したのか、一瞬にして意識が薄暗くなった。
憶えているのは、唇に触れた柔らかな感触。
更には、何かをはね除け、拒絶した感触。
アキラは、オベロンという父を名乗る者は知らない。アキラ自身が口にしたように、親とは、面倒しか思い出さない祖父と、近所に住む愛花姉と呼ぶ女性だ。
感謝はしていても、腹の立つ思い出しかない祖父の亜門は横に置いておくとして、愛花のノンビリとした、優しくて老境に達しているとは思えないような、若々しい姿を思い出し、心の中でため息をついた。
元気だろうかと。
「元気ですよ」
その言葉に、アキラは慌てて目蓋を開けた。
視界の先にあるのは、上から覗き込む愛花の顔。背景はどこまでも白く現実感がなかった。
かがみ込んで、アキラの顔を覗き込んでいるために、胸の双丘がアキラの顔に押しつけられそうに近い。
だが、その顔は、アキラの幼い頃に見た、若かりし頃のものであり、アキラは混乱してしまう。
「明は世界を渡って、いえ戻って若い姿になったのね。たぶん、この世界に戻った時に自らの精霊の力が強く作用したのよ」
「俺はそうなのかと、納得はできないけど、納得するしかないけれど」
若干、混乱気味なアキラ。
「愛花姉、だよな?」
まさか耳を隠し、毛色を黒く染め、目に黒のカラーコンタクトを入れたディアナではないかと、一応は疑うアキラだ。
その質問に、愛花はころころと笑い、力を込めてアキラの頭を殴りつけた。
「痛って-」
頭を手で押さえて、アキラは愛花の膝枕から逃れる。
少しでも痛みを緩和しようと、懸命に頭を撫で、心の中で明晰夢にしてもリアル過ぎると苦情を申し立てる。
しかし、これで分かった。
「この所業、愛花姉だ」
そう、愛花とはのんびりとした性格、顔をしているが、すぐに笑いながら力任せで殴り、蹴りつけてくる凶状持ちであった。剣士として、人並み外れて大した腕前の祖父でも犠牲になるほどであった。
アキラは愛花によって道場でぼこぼこにされている祖父を、幾度か目撃していた。そして、その笑顔に騙されることなく、決して逆らってはならないのだと自らを言い聞かせていた。
「なんで愛花姉まで若返っているんだ」
夢か、夢だからなのかとアキラはたずねる。
「いいえ、これが本来の私ですよ」
大体、かき集めた魔力で老いていく姿を擬装しても、ぜんぜんおばあちゃんにならないし、老人メイクをしても、全然駄目だし、もう特殊メイクの世界だったと愛花はため息をついた。
「掻き集めたのか」
「ええ、エーテルと魔力が否定されてるのを知って、目の前が真っ暗になりましたよ」
改めてのため息をつく愛花。
「……それで、愛花姉は何者なんだ?」
それを聞くのはアキラは怖かった。しかし、問わねばならない。
恐る恐るという態のアキラに対して、愛花はけろりと答える。
「あなたのお母さんの代行、代理かな。いや、お乳はあげてないけど乳母かな?さらにはお姉さんでもあります、まじで」
そう言ってころころと笑う。
それを聞いて、アキラは頭を抱える。
ここに至って、父の登場に続いて、母の関係者、しかも姉と思い育っていたが、本当の姉だと言う者の登場であった。無理もない。
「それで、母親ってのは?」
アキラには想像は出来ているが、問わずにはいられない。
「内緒。口止めされているから、って言っても分かるでしょ?」
あっ、口に出したら駄目だよと愛花は続ける。多分、凄い罰則を受ける事になるよと。女の子の一人や二人くらい持って行かれるよと。この星のことだったらちょちょいのちょいだから、とほぼ答えてしまっているが。
なぜか、アキラと愛花は共にため息をつく。
ややこしい存在だと。マガツカミかよと。
「じゃ、質問を変えよう。何で俺はこんなに実の父と母にいじめられなきゃいかんのだ。家庭内暴力どころではないぞ」
実の父親は刃物もって斬りかかるし、いや、斬られたし。祖父は祖父で幼子を抱えて逃げ出すし。
それを聞いた愛花の顔が真剣なものに変わる。
「命を磨くため。何世代にもわたる、研磨の仕上げ」
「分からんな?」
「まっ、分かんなくてもいいから、さっさと目を覚まして、やることやって来なさい」
そう言われて、過去の経験から、アキラは防御の姿勢をとるが、剣聖や魔王と互角以上に戦った、このアキラの腕をくぐり抜けて愛花は拳をアキラの顔に叩きつけた。
鼻血をまき散らして吹っ飛ぶアキラ。
そこで意識が戻った。
近所のお姉さん:「老境?ぶっとばす!!」
社畜男:「あんたが原点か……」
残念、違う。
次回、明日中の投稿になります。




