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引き続き、
第10章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
顔をツキに固定されていたクオークは、その手から開放されてしばらく後、敵からの光線を剥がそうと機動する機体に、精霊が群がり始めていることに気づいた。
操縦室前方の左側の席に座るリーネが、後方のツキの脇に座ったクオークにも集中している姿が見えた。
以前、クオークは精霊についてツキに教えを乞うた時に、聞いた話を思い出していた。いや、クオークなりの言い方では、データを再生あるいは読むと表現すれば良いか。
ツキはリーネがアキラと出会う以前、いやしばらくの間にも、魔術を発動させる時には口頭で精霊に呼びかけていたものだが、今は心の中でしているようだと。
それは進歩と言えば良いのか、それとも変化といえば良いのか、ツキはクオークの質問には答えを返さずにいた。
そして、この現在、リーネは精霊に対して確かに何かを呼びかけていた。それは魔力の流れとしてクオークには観測出来ていた。
だが、その内容は分からない。
複雑に過ぎる。
複数の呼びかけが入り交じっている様子に、クオークはそれを分けることが出来なかった。
だが、その内の一つはすぐに明らかになった。
「魔力、推力に集中して!」
レインがクオークに指示を送る。
すかさず、エーテル炉が返還して貯蔵してあった魔力を、バイパスをも使用して推力へと回すクオーク。
常には打ち消されている加速感が感じられるほど、頂天号が推力を増して、リーネが魔術によって剥がした敵の稲妻を振り切った。
敵の手を逃れて、ツキとクオークは受けたダメージを確認した。
「機体表面の呪紋がほとんど消えているわ……」
「エーテル炉は、振動の影響を受け、一部損傷しているが、現在は自己修復中だ。すぐに済む」
その報告を受けつつ、レインは頂天号を操り、円盤からの距離を置く。操縦系への直接の接続を止めているため、前方を映し出している映像を注視し、操縦桿とペダルを操っている。
完全に自由を取り戻した頂天号だが、それを行ったリーネの集中が止まない。
そして、余裕を得た頂天号の操縦室の皆は、そのリーネの席、背面にすがりつくようにしているノーミーの異常に気づいた。
ぽたりぽたりと雫が床にこぼれている。
その尋常ではない様子に、慌ててスノウが走り寄り、その肩を抱く。ノーミーの目蓋が濡れていた。
しかし、今はその理由を聞く時間はなかった。
「後方の部屋へ」
ツキの言葉に頷いたスノウは、ノーミーの肩を抱いて、寄り添い、操縦室を後にした。
ツキ達が心配そうに出て行くスノウとノーミーを見送るが、そんな時にもリーネは目蓋を閉じて、何かに集中していた。
元へと振り返ってそれに気づいたツキの顔が険しい。
『リーネに注意していて』
『分かった』
ツキの念話に、クオークは頷く。
何にとは問わない。
問うても答えがあるとは思えなかったからだ。
しかし、ツキは友の大事な共同体だと、応えが得られずとも良いと、クオークはそんな機微も理解始めていた。
そして、ツキは同じ事をレインにも頼み、それを頷きでもって応えを得ていた。
頼み事をしつつも、ツキは自分の計器盤に映し出される周囲情報を見ることは止めてはいない。
そして気づく。
「円盤からの光の柱が無くなりました」
更には、頂天号を攻撃していた円盤も、元の位置へと戻っていく様子が分かった。
機首を共和国艦隊上空へと向けるにつれ、円盤が移動を開始する様が前方のガラス面に映されていた。
「一体、何を……」
その先を言おうとしたレインだが、すぐさまその答えを得ることになった。
「魔王艦隊に向かっている!」
仰天号 操縦室
操縦室内部は苛立ちの雰囲気が漂っていた。
先ほどから、円盤に魔力弾で攻撃を浴びせているのだが、毛ほどにも損害を与える事すらできないでいたのだ。ただし、敵から放たれる光線も、ディーチウの張るシールドが有効で、仰天号も毛ほども損害を受けていない。
だが、それでもだ、頂天号が円盤に向かった時に、円盤六つの内の一つが、対応の為に動いたのを見た瞬間、なんとも言い知れぬ感情が操縦室を支配した。
確かに、この仰天号はオベロン達が建造したものではない。アモンが頂天号を建造する為のテストベッドとして建造されたものではあったが、場所を提供し、武装を施し、運用していたのは魔王達であった。
それが、円盤からは歯牙にもかけられず、頂天号には防戦のために一つが差し向けられるとは、はっきりと言って悔しかったのだ。
眼下では、共和国艦隊が転回して撤退を行っている。すでに、魔王艦隊への攻撃は諦めているだろう。
だからといって、オベロンは円盤への攻撃は止めようとはしなかった。
先ほどまでは、散開して集中しての攻撃を避けていた共和国艦隊だが、今は違う。
大精霊でも転移したのか、ディーチウが張るシールドにも負けない強度のシールドを二重に張って、共和国艦隊すべてが光の柱から守られていた。
頂天号を追って、共和国艦隊の上空から離れた一つが、戻ってきた。その後方彼方には追って来るトップの姿があった。
「また、全部揃いやがった」
やれやれとばかりにオベロンが呟くが、元の位置に円盤の一つが戻ると、光の柱が止んだ。
「ようやく諦めやがったか?」
「いえ、回転が速まり、移動するようです」
「どこへ?」
オベロンの問いかけに、ディーチウが自分の計器盤を素早く操作する。
「ベクトルが我が艦隊に向いています」
円盤という形状、しかも推力としての魔力の噴射が見当たらないために、目標物の少ない空では、向かっている方角が判明しづらかったからか、しっかりと調べてからディーチウは答えを返した。
それを聞いたオベロンの顔に、嫌悪の感情が浮かぶ。
「大精霊のシールドが破れねーから、俺たちの艦隊を先にってか」
嫌悪の感情が突き抜けたのか、オベロンの表情が獰猛な笑みへと変わっていた。
「割り込むぞ!」
オベロンは仰天号の機首を、円盤と魔王艦隊の中間へと向ける。それを受けたディーチウは自らの魔力に集中する。
しかし、自分の眼から滴るものに気づき、優しく口角を上げるのだった。
大太刀:「やばい」
コズミックガールしかし胸はない:「やばい」
にゃ~にゃ~:「やばい」
幼女もどき:「やばい」
最後のお前がやばいんだよ!
次回、明日中の投稿になります。




