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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第10章 I Just Called to Say I Love You
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10-5

引き続き、

第10章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 大事な機体に損傷を与えられて、レインが激昂したのに対して、リーネは精霊に呼びかけを始めていた。

 ツキが眉を潜める。

 レインの態度が、あまりに感情的に過ぎる。

 先ほど、呪紋が露わになった際は、主のための機体に損傷を与えられたがための怒りかと、たしなめるに留めたが、僅かの間に二度目ともなると、ツキに不信を抱かせるには十分であった。

 外部からの影響。

 しかし、ツクモガミともあろうレインを操るとなると、大精霊クラスの魔術行使が必要となり、しかもその規模は大きくならざるを得ず、リーネやツキ、そしてノーミーが気づかないはずが無かった。

 では、ならばとツキはクオーツに呼びかける。

「クオーツ?」

「すまない、今解析が済んだ。エーテル炉に原因があるようだ」

 その返答に、ツキは先を促した。

 クオーツが語るには、頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドに搭載されたエーテル炉は、共和国が完成させたものに比べたら、遙かにクオーツに近いものであり、両者の違いは知性の有る無し程度で、エーテル炉の方はエーテルから魔力への変換効率が良いために知性が発生しなかったというのは、そのようにアモンから聞かされたレインの言葉であった。

 だが、その言葉を素直に聞き入れたのが、クオーツの失敗であったのだ。

 実は、クオーツもツキと同じように、レインの様子がおかしいことから、頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドを調べていたのだが、そこで、微弱ではあるがエーテル炉から信号がレインに送られていたのだ。

「生存本能とでも言えば良いのか、自分を操作しているレインに守るように訴えかけていたのだ」

「それでは、クオーツにも影響が?」

 ツキが尋ねるが、クオーツは首を左右に振る。

「私が更に謝罪したいのはそれだ。私は自己を守るために、接触部分に幾重ものフィルタをかけていたために、エーテル炉の訴えかけを雑音として、自動処理で排除してしまっていた」

 雑音として扱われる程度の、それほど微弱なものであったが、操縦系を通じてダイレクトに繋がっていたために、レインは影響を受けてしまったのだと。レインにも注意をさせるべきであったと。

 その説明に、すぐさまレインの近くにいたスノウが、レインの腕を操作盤から強制的に抜き出して、接続を遮断した。

 瞬間、敵の攻撃から逃れようとしていた頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドは操縦を失うが、すぐさま、それはクオーツが引き継いだ。

 腕が露わになって、呆然とするレインだが、すぐさま自分の状態に気づいた。

「姉上、申し訳ございません……」

「それはいいの、手動で操縦出来るわね」

 そのツキの言葉に、計器盤から迫り出してきた操縦桿を握るレイン。

「クオーツ!操縦引き継ぎます!」

「操縦、移行した」

 操縦は引き継がれて、改めてレインは敵の放つ稲妻から逃れようと、機動を行う。

 レインの様子を確認したツキが、クオーツの耳元に口を寄せる。

「どういうこと?」

 ツキが小声で尋ねてきたことから、クオーツはツキに対してのみに念話で応えた。

『この機体のエーテル炉は、知性が獲得出来なかったのではなく、獲得させてもらえなかったのだ。芽生えかけていた知性、その残滓が残っているようだ』

 クオーツの念話の内容が理解出来ず、ツキが疑問符を念話でクオーツへと送る。

『なぜ、そうする必要があったのか理由は不明だ』

『まさか、エーテル炉の反乱を恐れて?』

 すぐには返答をしないクオーツ。

『……私は、アキラを友とした。アキラも私を友だと言ってくれた』

 ツキの質問には答えず、クオーツはただそれだけをツキに答えるのみ。

 だが、ツキにはそれだけで充分だった。

 そっとツキはクオーツの顔を両手で包み込み、耳元に寄せた口で呟いた。

「ずっと、主様の友でいてください」

「もちろんだ」

 そしてツキは、もう一つの懸念、リーネに視線を向けるのだった。

 ツキがクオーツを会話を交わしている間も、リーネは精霊に呼びかけていたが、それは今も続いていた。

 過去、ツキも見たことのないほどの時間をかけ、かなり集中しているように見える。

「リーネ、あまり精霊に負担をかけては……」

「分かっているよ」

 ツキの忠告に、ぴしゃりと応えるリーネ。

 口をつぐんでしまうツキ。

 ツキが本当に言いたいことは、そうではなかった。


 異変は、頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドの下方にて、光の柱をシールドで受け止めつつ逃走を図る共和国艦隊に現れていた。

 しかしそれは、稀にある現象であったために、見逃されていた。

 だが、それでも魔術師の一部は首を傾げていたのだ。

 いつになく、精霊が集まらない。

 呼びかけに応えていた精霊は留まるものの、ある時からは集まらない。

 そんな現象が始まったのは、頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドが呪紋を露わにした時からだが、それを紐付ける者などいない。

 精霊が減っていく現象は、頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドを中心として、円状に広がりつつあった。

 そして、これも誰も気づかない。

 今はまだ。

 大精霊も精霊である。

 シルや、ディーネ。そしてすべての大精霊が一点に視線を送る。

 自分の目で。魔術の目で。建物を見透かし、地平を越えて。

 そして、偶然その中心にいたノーミーは、呪紋が消失を始めてから、我知れず涙を流していた。

 気づいていたのは契約者のスノウのみ。

 知らぬ振りをしていた。

 ノーミー自身も知らずに流す涙。

 ただ、ノーミーからスノウに流れる感情が暖かい。契約者同士のつながり。

 レインの後ろに立って、スノウはぽつりと言った。

「何が始まるの?」

 答える者はなかった。


にゃ~にゃ~:「創造主への反乱は基本ではないのか?」

わんわん:「出来るんなら、やってみろ」

にゃ~にゃ~:「……無理だな」

絶対、無理。


次回、明日中の投稿になります。

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