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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第1章 天使(エンジェル)
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1-19

誤字脱字、直しつつ始めて行きます。

どうか、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

 以前見た鳥居もどきとキャリアーのある境界を通り過ぎて、ブルーの言葉どおり、一気に、さらに先の鳥居もどきがある境界まで飛んできた。

 守護地(フィールド)の外、道の端では天幕が張られ、大勢の兵士達が馬の世話をしたり、周囲を警戒したりしていた。

 鳥居もどきより、守護地(フィールド)の内側に降り立ったブルーは、アキラ達が背中から降りても、人の形とはならなかった。ドラゴンの姿で対応するようだ。

 ツキとリーネを伴って前に進む。二人は鳥居もどきの近くに座り込んだブルーの前でたたずむ。

 威厳あふれる姿のドラゴン。守護するかのように、その前に表情を消して立つ美女二人。一人は薄い水色のミニのワンピース。一人は巫女を思わせる赤と白の衣装。後ろからだが、それを見るアキラは息をのむ。映画やドラマではなく、突然現れた宗教画を目の当たりにし、膝をつき頭垂れたくなるような気持ちにおそわれた。

 兵士達の中から三人が抜けだし、鳥居もどきへと向かってくる。先頭に立つのは、キムボールのようだ。ブルーの前に立つ、リーネとツキの姿に、驚いたように目を丸くしたが、それも一瞬。なるほどというような表情を浮かべた。

 境界の外側、鳥居もどきの手前まで進んだキムボールが片膝をついて、頭を垂れた。キムボールの後ろに続いていた、従兵であろう二人が慌てる。

「殿下、お立場がございます!」

 王族が頭を下げるなどは考えられない。相手が大精霊でもあれば別だが、ドラゴンは世界に三体しか存在しない上、守護地(フィールド)から出ることもなく、人との接触もほとんどないため、礼法が国によって様々であった。

 従兵からの注意に、「俺に従え」とキムボールは意に介さない。

 しぶしぶと、従兵二人も膝をつく。

「竜の巫女姫に申し立て奉る。偉大なるスカイドラゴンにお取り次ぎ願いたい」

 竜の巫女姫、アキラはそれを聞き驚いた。一般社会では、リーネとツキはそのような立場であるとされていることに。言うなれば、ドラゴンの代弁者である。

 ツキがブルーへ振り返る。それに瞬きが答えとして返ってきた。

「ウンディーネからの願い。無碍にはできぬゆえ、スカイドラゴンは応えると申しています」

「感謝いたします」

 ここで、キムボールが顔を上げた。ふてぶてしく、にやりと笑い、今までの恭しい態度すべてがぶち壊しになるかのように。

「で、俺に会って、どうすんだ」

 上乗せして、さらにぶち壊すブルー。

 ツキがこめかみに指先をあて、苦々しげな表情を浮かべ、表情を消していたリーネがふにゃりと笑う。

「実はお願いがあってのこと。無駄は省き、要件を申します。守護地(フィールド)を軍の部隊で通り抜けることを、お許し願いたい」

 膝をついたまま、さすがに言葉まで砕ける事はなかったが、貴族的な美辞麗句を用いた前置きなしで要件を述べてきた。

 顔がドラゴンであったため、分かりにくいのだが、その直接的な物言いに、ブルーは好感を覚えた。だからといって、答えは変わらない。

 前足で顎をなでる、人間くさい仕草をしつつ応える。

「認めるわけないだろ」

 さすがに馬鹿とは言わなかったが、言葉の端に乗っていた。

 その言葉に、キムボールの後ろにいた従兵二人が立ち上がり、抜刀した。

「貴様、殿下に向かって無礼であろう!」

「殿下の手前ゆえ、控えておったが、たかがトカゲの分際で、何という物言いか!」

 二人の反応に、表情を険しくしたキムボールが、両手を広げてなだめる。

「止めろ!剣を収めろ!」

「しかし殿下、聞き捨てなりません!」

 キムボールの言葉にも収まらない様子。

 ドラゴンとはいっても、世間での認識は、亜竜の知恵ある上位種程度でしかない。学者であっても、下は亜竜であると言い、上は大精霊であると言う。

 従兵ではあるが、それなりの教育を受けている貴族、最低でも騎士爵であろう。それでも世間一般と同じ程度でしか、ドラゴンを見ていない。さらには、鍛えた専業戦士である、自分たちであれば戦えるとのプライドもあった。

 しかし、キムボールは王族であり、常に身近には大精霊がおり、その大精霊が言って聞かせるのだ。

 ドラゴンとは、災厄であると。世界そのものを滅ぼすものだと。

 事実、ブルーがその気になれば、時間は少しかかったとしても、他のドラゴン達の守護地(フィールド)を残してすべてを焼き尽くすであろう。制約があるのと、面倒が嫌いであるから、しないだけだ。

「お前達は、ドラゴンの真の姿を知らないからだ。へたをすると、俺たちばかりでなく、王国そのものが滅ぶぞ。頼むから引いてくれ!」

 キムボールのあまりに真剣な様子に、従兵二人がその言葉が真実だと感じ、顔を青ざめる。

「でだな、話は済んだのか」

 前足をひらひらと振り、立ったままで良いぞ、言葉も普段通りで良いぞと、ブルーは告げた。平状しようとしていたキムボールと、納刀してそれに続こうとしていた従兵二人は、「はぁ?」とあっけにとられていたが、ツキはこめかみを揉み、リーネはけたけたと笑っていた。完全に第三者の立場になったアキラは、シャツにくるまれた水晶(クオーツ)を抱いて、「ふーん」とばかりに見ているだけであった。

「細かい事情は知らんが、帝国と財団(ファウンデーション)の件に一枚噛みに行きたいんだろ。けどな、守護地(フィールド)に軍を通すのは許さない」

「しかし!それを曲げてお願いする!」

 食い下がるキムボールに、ため息をつくブルー。ドラゴンの姿でそれをすれば、一陣の風ともなる。

「王家の一員であるお前なら知ってるだろ。これは盟約であり、法だ。そして、俺は法を守るためのものだ。それが通っていいとは言えんよ」

 為政者の一族なら分かるはず。たとえ見逃してやる事はあっても、それは程度の問題であり、公の場では、それすらも許されんだろうと。

「これは王国と財団(ファウンデーション)との定めでもある。王国には救援へ赴く義務がある」

「そうか、そうか。人同士の決めごとなど俺は知らんが、まぁ、聞くだけ聞いてやる」

 話が長くなりそうだと、ブルーは地面に寝そべって、楽な姿勢となった。ツキはそれを呆れたような表情で振り返っており、リーネはアキラの元へと走り寄った。

「時間かかるみたいね。のんびりしてよう」

 と、アキラの腕を取って、座ることを促した。

 アキラは腰を下ろすと、抱きかかえていた水晶(クオーツ)を脇に置いた。それなりの重さであったため、腕が怠くなっていた。

 そして、リーネはさらに、ツキの持ってきた荷物から、煮炊きの道具を取り出し、お茶を入れ始めるのだった。


次回、明日中には投稿いたします。

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