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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第9章 LA・LA・LA LOVE SONG
185/219

9-19

引き続き、

第9章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 F-3の編隊を無傷で通したことによって、すでに一つ目の目的を達しているツキは、オベロンと刃を交わすことはない。オベロンも、後方を映し出す映像に目をやっていた。

 魔王の艦隊は、すべて同じ方向から爆撃を受けたが為に、傾き始めていた。すぐに横倒しになることは無いだろうが、恐らくは魔術弾の正確な射撃は不可能であろう。

 さらに、上空にあった編隊が、高度をとったまま爆弾を落としている。それは傾き上に晒している艦の腹を標的にしているようだ。幸い、水平爆撃であるため、命中率が悪いのだが、至近弾でも衝撃波による被害が出ているであろう。

 追い打ちをかける報告がディーチウから成された。

「……敵艦隊、高速でこちらに向かってきます」

「迎撃に向かえ」

 その言葉を聞き、ツキが刃を煌めかせる。

「させるとでも?」

「もちろんだ」

 機体後部から魔力の奔流が吠え、仰天号(アメイジング)が共和国艦隊へ向かって加速するのがツキには体感出来た。

「さあ、かかってこい」

 オベロンが片手をツキに向かって差し出し、手の平を上にして指をくいっと振る。

 挑発めいたその仕草に、ツキが顔を左右に振った。

「では、ご自由に」

 そう言って、ツキは後方へと大きく飛び下がった。だが、それは一度だけでは無い。何度も飛んで、最後には入ってきた、切り刻まれたハッチまで下がってしまう。

「おい、まさか……」

「ご自由にと、申し上げました」

 その言葉と共に、ツキは上へと跳ね、その姿を隠すのだった。

 呆然とするオベロンに、ディーチウが声をかけた。

「敵流線型体とすれ違いました。ツキノナミダは飛び移ったようです」

「逃げられたか」

「予定通りの行動なのでしょう。それより、敵艦隊への攻撃を」

 その言葉に、我に返ったのか、オベロンは操縦席に戻る。

「まだ負けてはおらん。敵艦隊撃滅するぞ!」

 ツキには逃げられたものの、新たな獲物を前にして、オベロンは獰猛な笑みを浮かべるのだった。


頂天号トップ・オブ・ザ・ワールド 操縦室

 仰天号(アメイジング)からすれ違う頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドに跳躍して移ったツキが操縦席に入ってきた。

 もっとも前方真ん中の席を中心として、レインとは反対の席に座っていたリーネがくるりと席を回してツキに顔を向けた。

「何か、席決まってるんだって」

 どうやら、レインに言われて、機体上部背面から戻ってすぐに、席を指定されたらしいリーネは少し不満げだ。

「主様の隣ですよ。不満ですか?」

「えっ、そうなの」

 もちろんとレインが頷く。

「それでは、私の席は?」

「クオーツ、空けて」

 そのレインの言葉に、席の上で丸くなっていたクオーツが床に飛び降りた。

 どうやらそこがレインが指定する、ツキの席のようだ。

 空けさせてごめんなさいと、ツキは脇の床に座ったクオーツの頭を一撫でしてから席に着いた。

「第二目標は排除できましたね」

 レインの言葉に、ため息をつくツキ。

「第一目標ですが、オベロンがもっと内部を破壊してくれるかと思ったのですが。存外、考えているようですね」

「オベロンって、バカなの?」

「ブルーは、バカの天辺って言ってましたよ」

 尋ねるリーネに、けらけら笑ってレインが答えた。

 すでに頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドの機体は、共和国艦隊の上で旋回をしている状態だ。

 猛然とした勢いで迫ってくる仰天号(アメイジング)と正対した頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドは軽く推進のために、後部の魔力を吹かす。

 頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドがディーチウの張ったシールドに、正確に真正面からぶつかる。魔術に守られた頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドではピクリとも衝撃は伝わってこないが、正面からぶつけられ、尚且つ勢いが脇に逸らされたために、進路が変わってしまった仰天号(アメイジング)内部では、いかほどの衝撃が発生している事か。

 事実、予想外の体当たりに、ベルトや衝撃緩和をする装置が設置されていない、仰天号(アメイジング)の操縦室では、オベロンが思わず操縦桿から手を滑らせて放しており、フレイは席から転がり落ち、頭部を強打して、一瞬ではあったが気を失い、今は頭を振っている。かろうじてディーチウだけが席に踏ん張り耐えていた。

 進路が変わったものの、仰天号(アメイジング)がすぐに進路が戻る事がなかったのも、その操縦室が惨劇に見舞われているからだ。

 しかし、そんな中、ディーチウの反撃により、魔力弾が放たれて頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドの機体を直撃するが、船殻はそれを防ぎ、弾かれた魔力が虹色になって霧散をする。

「んもう、命中しちゃいました」

 レインが一つ舌打ちをするが、表情は涼しいままだ。

 ぶつけて退かせた仰天号(アメイジング)の脇を、頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドは通り過ぎ、各所に設けられた姿勢制御のバーニアを吹かせて、再び仰天号(アメイジング)へと向かう。

 その仰天号(アメイジング)の機首の先には、共和国艦隊が単縦陣で突撃する様が見える。

 制御を回復した仰天号(アメイジング)が機体を立て直す。

 このままでは、共和国艦隊に魔力弾を撃ち込まれることとなるが、それを頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドが回り込んで、機体そのものを盾とした。

 二つの機体がもつれ合う様子に、砂漠の艦隊は速度を上げ、黒煙を噴き上げている魔王艦隊に向かう。

 仰天号(アメイジング)の操縦室から呪詛が届きそうではあったが、頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドの操縦室は明るかった。

「リーネ、最初の魔術をもう一度出来ないの?」

 前も見ずに、頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドを操るレインが、一つ席を隔てて座るリーネに尋ねる。

 その質問に、リーネが天井を見上げ、顎に人差し指を添えて答えた。

「うーんと、無理ね。精霊の集まりが悪いわ」

「力を使い果たして、この場を離れているのでしょう」

 精霊に負荷を与え続けるのは、良くないですよと続けてツキはリーネをたしなめる。

 そうやってリーネの言葉を、自分の目前に用意された制御盤を調べつつツキが補足した。

「仕方ないですね、このまま機体をぶつけて……」

 その時、リーネ達は敵艦隊へ向かう共和国艦隊に刺さる光の柱を見た。


これで第9章が終了いたしました。

次回からは第10章となります。

どうか引き続き、

よろしくお願いいたします。


次回、明日中の投稿になります。

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