9-19
引き続き、
第9章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
F-3の編隊を無傷で通したことによって、すでに一つ目の目的を達しているツキは、オベロンと刃を交わすことはない。オベロンも、後方を映し出す映像に目をやっていた。
魔王の艦隊は、すべて同じ方向から爆撃を受けたが為に、傾き始めていた。すぐに横倒しになることは無いだろうが、恐らくは魔術弾の正確な射撃は不可能であろう。
さらに、上空にあった編隊が、高度をとったまま爆弾を落としている。それは傾き上に晒している艦の腹を標的にしているようだ。幸い、水平爆撃であるため、命中率が悪いのだが、至近弾でも衝撃波による被害が出ているであろう。
追い打ちをかける報告がディーチウから成された。
「……敵艦隊、高速でこちらに向かってきます」
「迎撃に向かえ」
その言葉を聞き、ツキが刃を煌めかせる。
「させるとでも?」
「もちろんだ」
機体後部から魔力の奔流が吠え、仰天号が共和国艦隊へ向かって加速するのがツキには体感出来た。
「さあ、かかってこい」
オベロンが片手をツキに向かって差し出し、手の平を上にして指をくいっと振る。
挑発めいたその仕草に、ツキが顔を左右に振った。
「では、ご自由に」
そう言って、ツキは後方へと大きく飛び下がった。だが、それは一度だけでは無い。何度も飛んで、最後には入ってきた、切り刻まれたハッチまで下がってしまう。
「おい、まさか……」
「ご自由にと、申し上げました」
その言葉と共に、ツキは上へと跳ね、その姿を隠すのだった。
呆然とするオベロンに、ディーチウが声をかけた。
「敵流線型体とすれ違いました。ツキノナミダは飛び移ったようです」
「逃げられたか」
「予定通りの行動なのでしょう。それより、敵艦隊への攻撃を」
その言葉に、我に返ったのか、オベロンは操縦席に戻る。
「まだ負けてはおらん。敵艦隊撃滅するぞ!」
ツキには逃げられたものの、新たな獲物を前にして、オベロンは獰猛な笑みを浮かべるのだった。
頂天号 操縦室
仰天号からすれ違う頂天号に跳躍して移ったツキが操縦席に入ってきた。
もっとも前方真ん中の席を中心として、レインとは反対の席に座っていたリーネがくるりと席を回してツキに顔を向けた。
「何か、席決まってるんだって」
どうやら、レインに言われて、機体上部背面から戻ってすぐに、席を指定されたらしいリーネは少し不満げだ。
「主様の隣ですよ。不満ですか?」
「えっ、そうなの」
もちろんとレインが頷く。
「それでは、私の席は?」
「クオーツ、空けて」
そのレインの言葉に、席の上で丸くなっていたクオーツが床に飛び降りた。
どうやらそこがレインが指定する、ツキの席のようだ。
空けさせてごめんなさいと、ツキは脇の床に座ったクオーツの頭を一撫でしてから席に着いた。
「第二目標は排除できましたね」
レインの言葉に、ため息をつくツキ。
「第一目標ですが、オベロンがもっと内部を破壊してくれるかと思ったのですが。存外、考えているようですね」
「オベロンって、バカなの?」
「ブルーは、バカの天辺って言ってましたよ」
尋ねるリーネに、けらけら笑ってレインが答えた。
すでに頂天号の機体は、共和国艦隊の上で旋回をしている状態だ。
猛然とした勢いで迫ってくる仰天号と正対した頂天号は軽く推進のために、後部の魔力を吹かす。
頂天号がディーチウの張ったシールドに、正確に真正面からぶつかる。魔術に守られた頂天号ではピクリとも衝撃は伝わってこないが、正面からぶつけられ、尚且つ勢いが脇に逸らされたために、進路が変わってしまった仰天号内部では、いかほどの衝撃が発生している事か。
事実、予想外の体当たりに、ベルトや衝撃緩和をする装置が設置されていない、仰天号の操縦室では、オベロンが思わず操縦桿から手を滑らせて放しており、フレイは席から転がり落ち、頭部を強打して、一瞬ではあったが気を失い、今は頭を振っている。かろうじてディーチウだけが席に踏ん張り耐えていた。
進路が変わったものの、仰天号がすぐに進路が戻る事がなかったのも、その操縦室が惨劇に見舞われているからだ。
しかし、そんな中、ディーチウの反撃により、魔力弾が放たれて頂天号の機体を直撃するが、船殻はそれを防ぎ、弾かれた魔力が虹色になって霧散をする。
「んもう、命中しちゃいました」
レインが一つ舌打ちをするが、表情は涼しいままだ。
ぶつけて退かせた仰天号の脇を、頂天号は通り過ぎ、各所に設けられた姿勢制御のバーニアを吹かせて、再び仰天号へと向かう。
その仰天号の機首の先には、共和国艦隊が単縦陣で突撃する様が見える。
制御を回復した仰天号が機体を立て直す。
このままでは、共和国艦隊に魔力弾を撃ち込まれることとなるが、それを頂天号が回り込んで、機体そのものを盾とした。
二つの機体がもつれ合う様子に、砂漠の艦隊は速度を上げ、黒煙を噴き上げている魔王艦隊に向かう。
仰天号の操縦室から呪詛が届きそうではあったが、頂天号の操縦室は明るかった。
「リーネ、最初の魔術をもう一度出来ないの?」
前も見ずに、頂天号を操るレインが、一つ席を隔てて座るリーネに尋ねる。
その質問に、リーネが天井を見上げ、顎に人差し指を添えて答えた。
「うーんと、無理ね。精霊の集まりが悪いわ」
「力を使い果たして、この場を離れているのでしょう」
精霊に負荷を与え続けるのは、良くないですよと続けてツキはリーネをたしなめる。
そうやってリーネの言葉を、自分の目前に用意された制御盤を調べつつツキが補足した。
「仕方ないですね、このまま機体をぶつけて……」
その時、リーネ達は敵艦隊へ向かう共和国艦隊に刺さる光の柱を見た。
これで第9章が終了いたしました。
次回からは第10章となります。
どうか引き続き、
よろしくお願いいたします。
次回、明日中の投稿になります。




