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引き続き、
第9章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
魔王艦隊へと向かう、上下に分かれた編隊。
上空にたどり着いた編隊は、急降下爆撃を行う仕草を見せた。
出番とばかりに、対空火器のハンドルに取り付いた射手が脇の魔術師に合図を送る。別のハンドルを握った魔術師が精霊に魔力の操作を願うと、薬室にたまった魔力の爆発によって質量弾を打ち出す準備が整った。
フレイが試行錯誤をした結果、直接魔術を放ったり、魔力を放つよりも、艦のエーテル炉から生み出された、少量の魔力を爆発させて、質量弾を打ち出すのが、効率や弾数を考えると一番であった。もちろん威力は魔術や魔力弾に比べて、大いに落ちるが、弾幕を形成すると言う点においては最も効果的で効率的だったのだ。
あとは、急降下してくる敵機に向けて、引き金を絞るばかりとなったが、その敵機は時折、急降下するそぶりを見せるばかり。
射手や魔術師達の苛立ちが募り始めたころ、声が上がった。
「下方、敵機突入してくるぞ」
正規の命令や伝令ではないので、一般の射手や魔術師を動かす訳にもいかず、自分で行動の裁量を許されている対空火器の指揮官が、舷に駆け寄り地面を見た。
「一体何を……」
見たのは、揚力代わりの下方へと吹き出す魔力が、砂漠の砂を吹き上げ、限度ギリギリの低高度で向かってくる敵機の姿であった。
僅かに操縦桿を動かせば、機体の一部が地面に触れて、独楽のように回転して地面に叩きつけられる、それほどの高度であった。
じっとりと汗ばむ手。革の手袋をしていて助かったとテロンは思う。
後席では、青ざめた顔で、しきりと額を手で拭うキラの姿があった。
魔術師にはどれほどの恐怖であったであろう。耐える姿に振り向きはせずともテロンは賞賛をし、そのテロンであっても飛龍乗りであったために、様々な高度で飛んだことがあったが、今回のような飛行は初めてだ。
飛龍は滑空していても、いつかは羽ばたく必要があるため、翼の可動部分が地面を叩かぬように低高度では飛行が制限されている。
しかし、今操っているF-3は飛龍のような翼などなく、現に今でもテロンは自分の機体の腹が砂漠の表面を擦って飛んでいるような錯覚に陥っていた。もちろん、そんな事になれば、機体下部に制動がかかり、前のめりで地面に叩きつけられる事になるのだが。
操縦桿を引いて、高度を上げたい欲求と戦いながらテロンはF-3を敵艦の脇腹目がけて飛ばす。偶さか砂の動きが少ないために、地面効果で高度が下がりにくい状態になっているのだが、空力の知識がないために、懸命にテロンは操縦桿を押さえ込むことになっているとは気づかずにいた。
指揮する小隊の後続二機の様子も心配だ。自分と同じような恐怖と戦い、機体を操っている事だろう。後席の魔術師が発狂でもしないかと心配になる。
しかし、ここで高度を上げるのは自殺行為だ。
アキラのメモには、恐らく対空火器は仰角をとることはあっても、俯角はとれないだろう、とれたとしても、上空に向けているために、舷側に突っ込んでくる機体には、すぐに照準は取れないはずと書き記していた。事実、現在テロン達を狙う火器、飛んでくる弾は一発としてなく、アキラの言葉の正しさを証明している。
故に高度を上げれば、火器の水平射にやられると、懸命に高度を維持するのみ。
上空で、急降下をする振りを続けている仲間達に感謝をするテロン。
もっとも先陣を切っているのはテロンの機体だった。すでに艦隊の陣形を見て、各小隊に目標とする感は伝えている。
テロンは先頭にある艦が目標だ。
「投弾用意!」
「用意完了、タイミング待つ!」
艦の腹が、巨大な壁のように迫り来る。まるで壁に向かっての度胸試しだ。
そして、この一点とばかりに、テロンは機首を右に切り、自らの機体が砂漠に触れぬように僅かに高度を上げた。
機体の腹が敵艦に向けられた。
「今だ!」
その言葉と同時に、キラの指がボタンを押す。用意していた魔術も同時に発動。起爆と爆発効果増大だ。ただし、起爆は常と一緒ではないもの。
弧を描くF-3の腹から、くびきを解かれた爆弾が放り投げられた。
爆弾は敵艦の腹へ投げ出されたが、その自らの重量によって、地面へとひかれて落ちていった。
敵艦に背を向けることになったF-3の後席のキラは、離脱の為の操縦に懸命なテロンの代わりに、後ろを向いて爆弾の行方を目で追う。
人の背丈ほどの距離であろうか。
爆弾は敵艦には届かず、地面に落ちる。しかし、キロは視線を外さない。
柔らかい砂漠の表面に爆弾は落ちたが、その反動で爆弾は跳ねた。
メモにあった反跳爆撃だ。
水面で行えば、反跳せずに沈んでしまう恐れがあったが、ここは砂漠であり爆弾が沈んでしまうようなことも無く、魔術によって起爆が精密に行えるため、早爆の心配もない。
つまり、精密に狙わなくとも、艦の柔らかい腹に爆弾が当てられる可能性が高くなるのだ。通常は水平爆撃で行われるのだが、今回は搭乗員の練度不足を補うために採用された。
跳ねた爆弾が敵艦の腹で爆発する様を見たキロが歓声を上げた。
「命中、命中した。後続の二機も命中。敵艦被害未確認なれど、煙を上げている」
「よし、高度上げるぞ!」
キロの報告を聞き、敵艦からの距離も取れたために、テロンは高度を上げた。今度は上空で待機する機体達の出番だ。それを指揮するためにも、テロンはスノウにすでに繋がっている念話で、爆撃成功を伝え、全部隊の指揮をとる旨を伝えるのだった。
後席搭乗員(魔術師):「……お嫁に行けない(ぐす)」
前席搭乗員(操縦士):「……お婿に行けない(ぐす)」
わんわん:「早く下着変えた方が良いぞ。痒くなっちゃうぞ」
言ってやるなよ。
次回、明日中の投稿になります。




