9-17
引き続き、
第9章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
それは頂天号の上に立つリーネとツキの姿。
片膝を突き、顔は正面を見据えていた。
頂天号の魔術が飛行の衝撃を軽減しているのか、二人は身じろぎすらしない。
魔術の影響を逃れた空気とエーテルがリーネの黒髪と黒の獣の翼を揺らしている。服はいつもの水色のワンピースであったが、いつもとは違い、その裾は赤黒く染められていた。アキラの血だった。大精霊達の世話を命じられた兵士達は、服を替えてはと言ったのだが、リーネは頑なに着替えようとはしなかった。
その色は、リーネの戒めであった。この時以降、リーネの服、特に戦装束には赤がどこかに用いられる事となる。そして、手には赤の手袋。リーネは決意していた、アキラの手が赤で染まっているならば、自らの手も赤くし、無くなるまでそのままにしようと。
アキラは嫌がるかも知れない、それでもリーネは赤の手袋を使うつもりであった。
そして、リーネその後ろで、同じく片膝着いたツキは、片手で銀の髪を抑えてまとめ、もう一方の手には抜き身の自身を手にしていた。刃はいつもと違い、銀に金が混じった輝きがあった。一見、まだらに見えるが、よく見れば、銀と金の輝きは舞っているように沸き立っていた。それは交わりの喜び。
目前にある、仰天号に、すくっと立ったリーネが片手を向けた。振り返ることのないリーネに、ツキはこくりと頷く。
轟音を上げて風切る中、リーネの腕に幾つもの魔方陣が生まれ、そして、それは赤い手袋の先で重なり、虹色光らせる黒の魔方陣一つになった。
それを見た瞬間に、ディーチウが叫んだ。いや、絶叫である。
「回避!!回避して!!」
瞬間的に、オベロンが横への魔力を吹かして操縦桿を捻った。考える間もなく、反射による行動だった。
仰天号のすぐ脇を、先ほどまで機体があった場所を黒く虹色輝く、野太い光線が後方へと過ぎていく。
光線は仰天号に張られたシールドを霞め、たったそれだけで消滅させていた。
小さく悲鳴を上げたのはフレイだ。
射撃のために映していた後方監視の映像には、仰天号の後ろにあった、かなり大きい山の中腹に大穴が開き、その頂が支えを失い、地面へと崩れていく光景が映されていた。
「なんだあれは、魔力じゃなかったぞ……」
恐らく直撃を受ければ、シールドもろとも仰天号は蒸発していただろうという感覚に、オベロンは震え上がる。そして、言葉を返すディーチウの声も震えていた。
「……精霊の魔術を幾つも束ねたのでしょう。幸い、精霊は力を使い果たして脱落しました。すぐに二射目はないはず」
「常識外れもほどほどにして欲しいもんだ。二射目は確かに無いな、リーネが地団駄踏んで悔しがっているのが見えた」
本当に地団駄って踏むものなのだと、変な方向でオベロンは内心で感心し、初めて見たと思っていた。
オベロンばかりでなく、普段表情を露わにしないディーチウまでもが、顔面を冷や汗塗れにしており、フレイなどは身体を震わせている。
頂天号はリーネが魔術を放った瞬間、そのまま直進し、仰天号の脇で機体を捻って方向を変えていた。
そこでオベロンは気づいた。
上部背面を見せつけるように、機体を捻って距離をとっていく頂天号の上で、一人悔しげに仰天号を睨むリーネ。
リーネが一人?
「ツキノナミダが取り付いてるぞ!対人戦闘用意しろ!」
そのオベロンの言葉を証明するかのように、機体上部に設けられた二重ハッチ両方が一気に斬り捨てられ、ゴトリと床に落下するのだった。
斬られたハッチを追うように、白いワンピースの裾を膨らませて、銀髪広げ、その速度の割には重さを感じさせないツキが床に降り立った。
その瞬間を狙って、ディーチウが土で作り出した魔術弾を幾つも連続して放つが、ツキはそれを手首を返して、自らの前に刃で円を描いてはじき返した、
弾かれた魔術弾は、正確に放った元に反射されたが、その場にすでにディーチウの姿はない。
「ふん、剣如きが俺に勝つつもりか?」
オベロンの言葉に、ツキがにこりと微笑む。
「お手前、拝見しても?」
「よかろう」
片手に金の刃を生み出すオベロン。
しかし、その時仰天号に衝撃が襲う。
激しく揺動する機内で、全員が足を踏ん張る中、フレイが声を上げた。
「シールドに着弾。敵、魔術で攻撃してきます」
にらみ合う最中ではあったが、映像に視線を向けたオベロンは、そこに幾度無く反復して攻撃してくる頂天号を見た。副砲ばかりで無く、機体背面に仁王立ちになるリーネが魔方陣を背後に浮かび上がらせて雷の魔術を放っていた。
シールドは破られないものの、ディーチウは維持に懸命だ。
フレイは急ぎ席に座り、反撃に魔力弾を放つが、すべてが交わされてしまう。
そして、更には攻撃を受けている仰天号の上下を、編隊を組んだF-3が通り過ぎていった。
「貴様の狙いはこれか!」
喉も張り裂けよと、オベロンがツキに対して叫ぶ。
それを浴びたツキは涼しい顔。
「さて、お手前一献いただけますか」
言葉が終わらぬうちに、大太刀がオベロンを襲う。
金の刃が受け止め、鍔競り合う。
ギリギリとエーテルの削れが、虹のシャワーとなって機内に蒔かれた。
ディーチウは機関とシールドの維持にかかりきりで、フレイは頂天号への牽制射撃に追われ、オベロンを手助けに行く事すらできなかった。
ツキとオベロンが刃を弾き合って、後方へと飛ぶ。
「大太刀一振り、何するものぞ!」
その言葉を合図に、オベロンの背に金色の翼が浮かび上がり、ツキがにこりと笑う。それを脇目で見たディーチウが叫んだ。
「止めて!」
放たれたのは金色の魔力。ツキに直撃すると見えたが、放たれる瞬間さえ分かれば避けるのも容易いと、半身を幾度と回して躱すツキ。
もちろん、オベロンとて機内だと分かっており、加減はしていたものの、操縦室後部の壁は破壊され、壁に埋め込まれた配線、配管スペースが露わになって、漏れた魔力が噴出された。
とっさに操縦室後部にシールドをディーチウが張って、包み込むように受け止めなければ、オベロンの放った魔力は仰天号後部を突き破っていたであろう。
「ばか魔王……」
ぽつりとディーチウが呟き、それを聞いたツキがうんうんと頷くのであった。
幼女もどき2号:「馬鹿ばっかり」
わんわん:「お前が言うのは駄目!」
止めて!
次回、明日中の投稿になります。




