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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第9章 LA・LA・LA LOVE SONG
183/219

9-17

引き続き、

第9章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 それは頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドの上に立つリーネとツキの姿。

 片膝を突き、顔は正面を見据えていた。

 頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドの魔術が飛行の衝撃を軽減しているのか、二人は身じろぎすらしない。

 魔術の影響を逃れた空気とエーテルがリーネの黒髪と黒の獣の翼を揺らしている。服はいつもの水色のワンピースであったが、いつもとは違い、その裾は赤黒く染められていた。アキラの血だった。大精霊達の世話を命じられた兵士達は、服を替えてはと言ったのだが、リーネは頑なに着替えようとはしなかった。

 その色は、リーネの戒めであった。この時以降、リーネの服、特に戦装束には赤がどこかに用いられる事となる。そして、手には赤の手袋。リーネは決意していた、アキラの手が赤で染まっているならば、自らの手も赤くし、無くなるまでそのままにしようと。

 アキラは嫌がるかも知れない、それでもリーネは赤の手袋を使うつもりであった。

 そして、リーネその後ろで、同じく片膝着いたツキは、片手で銀の髪を抑えてまとめ、もう一方の手には抜き身の自身を手にしていた。刃はいつもと違い、銀に金が混じった輝きがあった。一見、まだらに見えるが、よく見れば、銀と金の輝きは舞っているように沸き立っていた。それは交わりの喜び。

 目前にある、仰天号(アメイジング)に、すくっと立ったリーネが片手を向けた。振り返ることのないリーネに、ツキはこくりと頷く。

 轟音を上げて風切る中、リーネの腕に幾つもの魔方陣が生まれ、そして、それは赤い手袋の先で重なり、虹色光らせる黒の魔方陣一つになった。


 それを見た瞬間に、ディーチウが叫んだ。いや、絶叫である。

「回避!!回避して!!」

 瞬間的に、オベロンが横への魔力を吹かして操縦桿を捻った。考える間もなく、反射による行動だった。

 仰天号(アメイジング)のすぐ脇を、先ほどまで機体があった場所を黒く虹色輝く、野太い光線が後方へと過ぎていく。

 光線は仰天号(アメイジング)に張られたシールドを霞め、たったそれだけで消滅させていた。

 小さく悲鳴を上げたのはフレイだ。

 射撃のために映していた後方監視の映像には、仰天号(アメイジング)の後ろにあった、かなり大きい山の中腹に大穴が開き、その頂が支えを失い、地面へと崩れていく光景が映されていた。

「なんだあれは、魔力じゃなかったぞ……」

 恐らく直撃を受ければ、シールドもろとも仰天号(アメイジング)は蒸発していただろうという感覚に、オベロンは震え上がる。そして、言葉を返すディーチウの声も震えていた。

「……精霊の魔術を幾つも束ねたのでしょう。幸い、精霊は力を使い果たして脱落しました。すぐに二射目はないはず」

「常識外れもほどほどにして欲しいもんだ。二射目は確かに無いな、リーネが地団駄踏んで悔しがっているのが見えた」

 本当に地団駄って踏むものなのだと、変な方向でオベロンは内心で感心し、初めて見たと思っていた。

 オベロンばかりでなく、普段表情を露わにしないディーチウまでもが、顔面を冷や汗塗れにしており、フレイなどは身体を震わせている。

 頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドはリーネが魔術を放った瞬間、そのまま直進し、仰天号(アメイジング)の脇で機体を捻って方向を変えていた。

 そこでオベロンは気づいた。

 上部背面を見せつけるように、機体を捻って距離をとっていく頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドの上で、一人悔しげに仰天号(アメイジング)を睨むリーネ。

 リーネが一人?

「ツキノナミダが取り付いてるぞ!対人戦闘用意しろ!」

 そのオベロンの言葉を証明するかのように、機体上部に設けられた二重ハッチ両方が一気に斬り捨てられ、ゴトリと床に落下するのだった。

 斬られたハッチを追うように、白いワンピースの裾を膨らませて、銀髪広げ、その速度の割には重さを感じさせないツキが床に降り立った。

 その瞬間を狙って、ディーチウが土で作り出した魔術弾を幾つも連続して放つが、ツキはそれを手首を返して、自らの前に刃で円を描いてはじき返した、

 弾かれた魔術弾は、正確に放った元に反射されたが、その場にすでにディーチウの姿はない。

「ふん、剣如きが俺に勝つつもりか?」

 オベロンの言葉に、ツキがにこりと微笑む。

「お手前、拝見しても?」

「よかろう」

 片手に金の刃を生み出すオベロン。

 しかし、その時仰天号(アメイジング)に衝撃が襲う。

 激しく揺動する機内で、全員が足を踏ん張る中、フレイが声を上げた。

「シールドに着弾。敵、魔術で攻撃してきます」

 にらみ合う最中ではあったが、映像に視線を向けたオベロンは、そこに幾度無く反復して攻撃してくる頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドを見た。副砲ばかりで無く、機体背面に仁王立ちになるリーネが魔方陣を背後に浮かび上がらせて雷の魔術を放っていた。

 シールドは破られないものの、ディーチウは維持に懸命だ。

 フレイは急ぎ席に座り、反撃に魔力弾を放つが、すべてが交わされてしまう。

 そして、更には攻撃を受けている仰天号(アメイジング)の上下を、編隊を組んだF-3が通り過ぎていった。

「貴様の狙いはこれか!」

 喉も張り裂けよと、オベロンがツキに対して叫ぶ。

 それを浴びたツキは涼しい顔。

「さて、お手前一献いただけますか」

 言葉が終わらぬうちに、大太刀がオベロンを襲う。

 金の刃が受け止め、鍔競り合う。

 ギリギリとエーテルの削れが、虹のシャワーとなって機内に蒔かれた。

 ディーチウは機関とシールドの維持にかかりきりで、フレイは頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドへの牽制射撃に追われ、オベロンを手助けに行く事すらできなかった。

 ツキとオベロンが刃を弾き合って、後方へと飛ぶ。

「大太刀一振り、何するものぞ!」

 その言葉を合図に、オベロンの背に金色の翼が浮かび上がり、ツキがにこりと笑う。それを脇目で見たディーチウが叫んだ。

「止めて!」

 放たれたのは金色の魔力。ツキに直撃すると見えたが、放たれる瞬間さえ分かれば避けるのも容易いと、半身を幾度と回して躱すツキ。

 もちろん、オベロンとて機内だと分かっており、加減はしていたものの、操縦室後部の壁は破壊され、壁に埋め込まれた配線、配管スペースが露わになって、漏れた魔力が噴出された。

 とっさに操縦室後部にシールドをディーチウが張って、包み込むように受け止めなければ、オベロンの放った魔力は仰天号(アメイジング)後部を突き破っていたであろう。

「ばか魔王……」

 ぽつりとディーチウが呟き、それを聞いたツキがうんうんと頷くのであった。


幼女もどき2号:「馬鹿ばっかり」

わんわん:「お前が言うのは駄目!」

止めて!


次回、明日中の投稿になります。

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