9-16
引き続き、
第9章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
DH183 搭乗員待機所
飛行隊全隊をテロンに加えて、スノウとクオーツ、そして会議室を抜け出した、あまり航路決定には関われない、飛龍乗り上がりの航空幕僚は複数をまとめられたメモの集まりを見つめていた。
「アキラ殿が言っておられたのは、初見では航空機への攻撃は少ないはずだが、二度目以降は撃ち上げられる対空火器での攻撃が激しくなると……」
航空幕僚が、メモをめくって読み上げる。
敵は必ず対策してくるであろう。技術的な奇襲は一度きりだと。
つまり、次の攻撃では、激しい攻撃を掻い潜っての爆撃となるはずであった。そのため、航空幕僚としては、急降下して撃ち上げられる火箭を潜っての爆撃ではなく、命中率を落としても、犠牲が生じにくい元々企図していた水平爆撃での実施を検討していた。
官制を行うスノウとしても、地上での戦いとはいえ、敵魔術で作られた弾幕を掻い潜っての突撃の経験があるため、貴重なF-3を失う訳にもいかず、航空幕僚に賛成していた。
しかし、実際に爆撃を行うテロンは大いに反対していた。
魔術による火箭を掻い潜っての攻撃は、飛龍乗りには当然のことと。
「もちろん、俺も精神論だけで言ってるわけじゃない。ここは、アキラから教えて貰った……」
テロンの案を聞き、全員が頷いた。
やってみる価値はありそうだと。
魔王支配地 隠蔽軍港 地平線向こう DH183 艦橋
まだ、太陽が昇らぬ暗闇の中、DH183の艦橋からは、DG173を先頭にして、単縦陣で進む四隻が微かな光量の中に見えた。
DG173を仮の旗艦として計四隻が分遣艦隊として、魔王の隠蔽軍港を破壊する役割を担う。しかし、それは立ちはだかる魔王艦隊と、出来れば仰天号が排除されればとの条件がつく。
排除するのは、DH183とDH184から発艦するF-3、そして頂天号の役割だ。もちろん、それが適わない場合、DG173の艦隊は、そのまま魔王艦隊に挑戦することになる。
F-3を発艦させたDH183とDH184は、左右に配したE229とE230を護衛として、この地点を遊弋する事になる。もちろん、ただこの周辺をうろつくのではなく、傷ついたF-3を収容し、新たな戦力あれば対応するためであった。
まだ、太陽も昇らぬ中、爆装した機体が暗闇の甲板に上げられ、今では出番を待って、静かに列を作っていた。
やがて、空が赤く染まり始めた。
払暁が始まる。
魔術を駆使しての夜戦襲撃も検討されたが、艦隊での殴り込みのような打撃は可能であったが、F-3の夜間飛行は無理であり、航空攻撃の手を失うならばと、払暁での攻撃となった。測位飛行が精一杯であって、やはり未だに搭乗員の練度に問題があったからだ。
『敵艦隊発見しました。砂漠海峡の前に四隻、陣形は変形の単縦陣、僅かに一隻ずつずれて、射界を確保しているようです』
シオダの脳裏に、先行して単機偵察しているスノウからの念話が響いた。前席に座るのは、ノーミーであった。
実は、ノーミーをF-3に乗せるにあたっては一悶着生じていた。
大精霊をわざわざF-3などに乗せずに、そのまま戦線に放り出せば良いだけの話しであるからだ。
しかし、それはノーミーに拒絶された。
理由は呆れたことに、スノウを連れていけないからだ。
航空管制の一件も有り、大精霊の言うこととして受け入れられはしたものの、幕僚や兵士達の内心にはきっと納得いかないものがあるだろう雰囲気だ。
クオーツから操縦の手ほどきを受けたノーミーは、たちまちすぐにクオーツ同様の機動が出来るようになり、人や獣人とは違って、夜間であっても魔術によって視界を確保して、スノウを後席に納めて先行偵察をしているのだ。
もちろん、高度はかなりとっている。大精霊とその契約者ともなると、遠見の魔術も常人以上の性能を発揮できる。
「了解した。ただちに発艦させる」
念話での会話になれぬシオダは、口に言葉をだして答えを返すが、周囲にもそれが聞こえたために、発艦の準備が始められた。
『こちらは管制誘導を開始します』
ノーミーは、スノウの指示を受けて、魔王艦隊の上で旋回を始めているはずだ。これから発艦するF-3を導くためにと、敵の動向を探る役割があった。
一方、頂天号で出撃するのは、レインとクオーツ、そしてツキであった。ブルーとライラに未だ意識の戻らぬアキラは任している。
発艦準備の進められる航空甲板では、レイン達は未だ頂天号の中で待機している状態だ。前面のガラス面にはF-3の発艦風景が映し出されていた。
発艦後のF-3は、上空で編隊を組んでから行動を開始するため、速度のでる頂天号には出撃まで、まだ余裕があった。
魔王支配地 隠蔽軍港前 砂漠海峡
旗艦トロイアを失った魔王艦隊は、修理が間に合ったカルタゴを旗艦としていたが、その艦橋にオベロンやディーチウ、フレイの姿はなかった。仰天号にすでに搭乗して、空にあったからだ。
「やっかいなヤブ蚊だな」
前方のガラス面の一部に、ごまの粒ほどに見える、上空を旋回するF-3単機を映し出したオベロンが呟いた。
「撃ち落としますか?」
「いえ、無理よ。あれは大精霊が搭乗している」
フレイは魔力弾の照準をノーミーが操るF-3に合わせるが、ディーチウの返答にもあっさりと照準を外す。
命中したとしても、シールドに弾かれるだけだからである。一般の魔術師が張るシールドであれば、一撃での破壊は可能であろうが、大精霊の張るシールドでは無理だ。それは、先の戦いで嫌というほど知らされたことだ。
悠々と魔王艦隊の上空で旋回を続ける機体を、魔王艦隊の兵士達は歯がみして見上げ、毒づいていた。中にはあまりの悔しさに、哮り逸って担当の対空小火器を発砲する者もいたが、機体高度まで届かず、弾筋をみる曳光弾だけが山なりの光を残し、兵士が営倉に放り込まれただけだ。
唯一、空にあって、攻撃する術を持った仰天号であったが、静かに宙に浮かぶばかり。
操縦席のオベロンはじっと前面に投影された風景を見続けていた。
そして、それは払暁の空、地平線を越えて姿を現した。
編隊を組んだ機体達が、魔王オベロンを始めとした者達に見え始めたのだ。
「戦闘準備発令!敵見ゆ、計画通りに対応しろ」
上空にいるオベロンからの命令を受けた艦隊士官が、伝声管に口を寄せて叫ぶ。その言葉を合図にして、艦隊は戦速に上げて各所で火器の仰角が上げられた。発砲は当然まだだ。敵は攻撃のためには、必ず艦隊に近づく必要があった。その時が火器の出番であった。
しかし、ここで予想外の事態が発生した。
「なんだ、上下の二手に分かれたぞ」
全開の戦いと同様、機体を急降下にて突っ込ませてくると予想していたが、一手は確かに高度を維持して急降下の体勢をとろうとしているが、一手は砂漠表面すれすれにまで高度を落として突っ込んでくる。
その光景に、魔術でも使うつもりかと、思い考えたが為に、オベロンは気づかなかった。
だが、それを補ったのがディーチウだ。
「敵、流線型体来ます!」
まず、確認出来たのが赤、そして虹をまき散らす姿。
そして、瞬き一つでそれは目前にやって来た。
「どれほどの速度だ!」
一度は見たものの、改めて、しかも正面から迫り来る姿に、思わずオベロンが声をあげ、その機体上部背面にある二つの影を見た。
「バカな!」
わんわん:「ぽいっと、放り出す」
J○?もどき:「だからって、裸で放り出すなし!」
良く放り出される奴だな。
by妹狼
次回、明日中の投稿になります。