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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第9章 LA・LA・LA LOVE SONG
180/219

9-14

引き続き、

第9章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールド 道

 一度として人の手が入った事がないと言われる原生林、その中に何故か存在する道。ミュールは知識として、王国との伝書使が使用する道である事は知っている。

 実際にその道を自らを通ることになるなどは、思いもよらなかったのだが。

 精霊が作り、管理していることも聞いていたが、魔獣などの襲撃もあって危険だと言うが、駒を並べて進むローダンは気にする様子もなかった。

 ならば大丈夫なのだろうと、ここ幾日かの野営を経て、今では興味深げに周囲を見回す余裕は出来ていた。しかし、唯一同行を許されたベイタは今でも注意を怠らず、周囲を馬上で警戒していた。

 ここ、蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールドまでの道のりは、財団(ファウンデーション)の護衛部隊とローダン商会が用意した護衛部隊に守られてやって来たが、それらの部隊は境界をまたぐことを許されず、守護地(フィールド)の外に留め置かれていた。

 財団(ファウンデーション)に近衛は存在しないと、外部へは喧伝されていたが、事実として、会長などの首脳部を守るための部隊は存在していた。もちろん傭兵であるが、深く財団(ファウンデーション)に忠誠を誓っている精兵部隊がそれに当たる。

 今回、ミュールに同行した護衛部隊も、その部隊から更に精鋭を抽出した部隊であり、留め置かれると知って、その忠誠が故にローダンに抗議したが、はね除けられ、ローダン商会の護衛部隊と一触即発の事態となったが、ミュールの懸命な説得に折れる形になっていた。

 自分を思うが故の不満を聞きながら、ミュールは当然ながら、初めて守護地(フィールド)に足を踏み入れることになった。

 頭上を覆う樹冠を見上げたミュールが、並んでいたローダンに問う。

「これほどの地があろうとは。本当に人の手が入っていないのですね」

「あるがままに、それがドラゴンの意志なので」

 実際には、ブルーもそう命じられているに過ぎないが、それをローダンは明かすつもりはなかった。

 ミュールに知られぬように巡らせた、魔獣避けの結界を調べながら、ローダンは目的地が近い事を告げていた。

 やがて、ミュールの前に木々が作るトンネルの出口が、光増して見えてきた。

 そこには何があるのか。

 知らず、ミュールは馬の足を速めていた。

 遮られる事を知っているローダンは注意もせずに、馬足を速めてミュールを見送るが、主を一人先に行かせる訳にもいかないベイタが、慌ててその後を追った。

 出口を抜けたミールが見たのは、広大な草原であった。そして、彼方には建築物群が見える。

 手つかずの自然なままの原生林とは違い、真逆の整備された草原に、ミュールは驚きながら馬を進めるが、やがてそれは柔らかい膜のような物に阻まれた。

 最初は何事かと、馬上から手を伸ばして、膜に触れてみたミュールだが、それに慌てたのがベイタであった。

「リリス会長補佐いけません!得体の知れぬものに触れるのは!」

「いや、これは結界だよ」

 その正体に気づいたミュールが、ベイタに落ち着くようにと命じた。

 すると、追いついたローダンが、そのままミュールの脇を通り過ぎ、着いてくるように告げた。

 何事もなく結界を通り過ぎるローダンに、おずおずと言うように、ミュールとベイタが続く。すると、先の反発はなかったように、二人は結界を通り過ぎるのだった。

「これで、結界を張る精霊は覚えたから、次からはすぐに入れますよ」

「試しましたね?」

 そのミュールの言葉が分からぬのか、笑みを浮かべたままローダンは首を傾げて見せる。

「私たちに悪意の有無、ドラゴンへの反抗心などが無いか」

「感じられましたか。あなたは大丈夫だと思っていましたけれど、同行の方は、一応、ですね」

 ベイトは自分が試されたと知って、微妙な気分が表情に表れていた。

 結界は初見の者は、先ずは弾く。そして、既知の者と同行していれば、ブルー達に悪意がなければ通す仕様になっていた。特にローダンは大精霊である。精霊に働きかけて、すでにミュールとベイタは既知の者として認識するようにしていたが、それを二人は知るよしも無い。

「さて、進みましょう」

 そう告げたローダンが、今度は先に立って馬を進めていくのだった。


 やって来たのは、いわゆるブルーのログハウスの周辺なのだが、以前にあったのどかな面影はどこへやら、今や大規模な工房や研究室に加え、事務棟、宿舎や倉庫など、ノーミーがやり遂げた結果が乱立していた。さらにはスノウ達が丹精込めて耕した田畑があった。

 一部、田畑は手入れが出来ていないために、萎れた作物があったが、水利を考えてある立派なものであった。

「ここが、ドラゴンの住まい……」

 ただの居住地であるはずもなく、ミュールはここがブルー達が住む場所だと、すぐに理解した。アキラ達と交流をしたことのあるミュールには、こんなものだろうという予測はあったのだが、ベイタは城でもあるのかと思っていたのか、予想と現実の乖離に戸惑っていた。

 人の身でありながら、この地に足を踏み入れる感慨に捕らわれていたミュールだが、すぐさま、ここに来た理由をローダンに尋ねるのだった。

 道中、その真意を探ろうとしていたミュールであったが、ローダンは頑として語ろうとはしなかった。

 それほどの隠し事なのかと、だからこそ何事かと期待するものがあった。

「ここで何を?」

「港を作ります」

 よほど虚を突かれ、呆けた表情になっていたのだろう、ミュールは我慢しきれずに笑うローダンを見て、すぐに顔を引き締めた。

 もちろん、ミュールとて港とは何かを知っている。しかし、港とは、海や大きな湖や川、さらには砂漠などに作るものである。目前には建物と田畑を除けば草原が広がるばかりだ。

 ローダンの一声から、さっそく理解出来ないミュールを置いてきぼりにして、ローダンは続けた。

「そして、一万人程度の軍勢が駐留できるだけの都市を作ります」

 さらに、訳の分からない言葉が続くが、一万人程度の軍勢というのはミュールには理解出来た。

「バカな、ここに十万人規模の町、都市を造るというのですか」

 一万人規模の兵を養うのであれば、それを倍する、いや十倍の住民が必要だ。直接関与する者達がいれば、その家族だっている。更には、その人々の為に必要なこともあるのだ。

 そのために必要な費用等を素早く考え巡らせるミュールだが、何よりもここが禁足地である事が頭にあったが、それらをローダンが一蹴した。

「必要な金、資材は三体のドラゴンが用意いたします。蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールドであることは変わりませんが、スカイドラゴンは一部開放すると、内々に宣言していますから、安心してください。そして、ドラゴン達は自らが手伝うと意思表示しています」

 いまローダンが告げた言葉は、国家規模予算並の資産が用意され、最高級の資材が準備されるということだ。ドラゴン各々が様々な商人を通じて財を増やし、国家予算規模で貯めている事は、少し名の知れた商人であれば、誰もが知っていることだ。経済が回らぬと嘆く政財界の人がいるほどなのだ。

 更にはブルーが建築、ロッサが鉱物に詳しいことから分かるように、技術や物資についても、ドラゴン達は世界の最先端の知識を有している。

 そして、恐らくは人材、特に計画、図面をつくるのに必要な頭脳は、最高峰の者達、いやドラゴンや巫女姫そのものが投入されることだろう。

 帝都、王都、商都、協都、ここ周辺国家の首都を上回る規模の都市が出来上がることになろう。人口については及ばぬものの、先進性ではとてつもないものが予測され、ミュールは頭が揺すぶられるような思いであった。

「……私に何をしろと?」

「国家の所属は財団(ファウンデーション)のままで結構です。私と一緒にプロデュースしてみませんか、この都市の」

 ローダンの語る都市開発には、どれほどの技術が開示されるのか、どれほど財団(ファウンデーション)が利用出来るのか。それらを思い、ミュールは懸命に考えた。

 そして、何より、ここに軍勢を置く意味。

 ドラゴンはとうとう世界を滅ぼすか、支配する決意でも固めたのか。

 ミュールにとっては、目前のローダンが商人では無く、世界への反逆を勧める伝説の破壊者のように思える。

 だが、それには軍勢の数が微妙ではあった。

 手始めとして集められる軍勢にしては少ない。魔王であっても、今回の出兵した数より、後背には十倍する兵力を養っていると聞く。

 何のためにと聞くのが怖かった。

 だから、ミュールは尋ねた。

「最初の、港とは?」

 それを聞くかと、呆れられてしまうと思われたが、ローダンの顔はどこまでも優しげだ。

 片手大きく差し上げ、天を指先で示すローダン。

「空へ、いえ宇宙(そら)への港です」


会長補佐:「誰が、こんな道を……」

男装精霊:「スカイドラゴンが、丹精込めて作りました」

会長補佐:「なるほど」

わんわん:「……納得するのか」

するだろ。

やりかねん、土木好きなドラゴンが。


次回、明日中の投稿になります。

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