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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第1章 天使(エンジェル)
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誤字脱字、直しつつ始めて行きます。

どうか、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

 音が降ってきた。

 だが、それは耳に届くものではなく、頭の中に直接聞こえてきた。

 アキラには聞き覚えがあった。FAXやコンピュータ回線が、間違って音声用の電話につながった時に聞こえてくる、耳障りな電子音。

「一体どこから聞こえてくる」

 周囲を見回すアキラだが、それにブルーが応えた。

「例の落下物のあたりだ」

 電子音はすでに止んでいた。

 ブルーがドラゴンへと形態を変えていた。すぐにでも飛び立ちそうな勢いだったが、アキラがそれを止めた。

「俺も行く!」

「私も!」

 ブルーに駆け寄るアキラに、リーネが追いすがった。リーネは残るよう、言おうとしたアキラだが、ブルーに遮られた。

「背中に乗れ!ツキも乗るんだ!」

 一旦、ログハウスの中に入ったツキが、荷物を手にして再び外へと飛び出してきた。アキラも、近くに置いてあった刀を手に取る。

 三人が背によじ登るのを確認したブルーは、すぐさま空に飛び立った。

「どうしてツキさんまで」

「全員で行動した方が良い」

 万が一を考えてだとブルーが応える。

 空を飛んでいたのは、ほんの一瞬だった。ドラゴンでの飛翔スピードを考えても、ログハウスから近い。

 森の一部に、直径100メートル程度の円形で木々がなぎ倒されていた。落下は垂直であったのか、中心で発生した衝撃波を受け、木の天辺はきれいな円形になっている。

 落下後の跡を見たアキラは、王都で火球を観測したにも関わらず、小規模だと感じていた。地面に衝突する瞬間に、制動でもかかったのか。いや、ただの隕石ではあり得ない。

 では、ただの、ではなかったら。

 アキラの背に怖気が走る。

「こんな近くに落ちていたのか」

 なぜ気づかなかったとブルーは自問する。

 落下跡の上を、ブルーが旋回しつつ高度を落としていき、様子をうかがう。

「あれは水晶(クオーツ)か?」

「知っているのか、アキラ」

 高度が下がるにしたがい、中心にある物体がアキラの目にも見えてきた。大きさは人が抱えて持ち上げられる程度か、石英の結晶のようなものが、一本だけ横たわっていた。

「いや、似たようなものを知っているだけだ」

 大気圏を通過してきた割には、摩擦で生じた高熱の跡も見られない。

 もともと、地面に埋まっていたものが、隕石の落下によって露わになったのか。それでは今度は落下による衝撃跡が見受けられない。

 よく見れば、水晶(クオーツ)の周囲で、小さな物体がうごめいており、近づくにしたがって、それがサソリのようなものであることが分かった。

「周りを何かが取り囲んでいるな。何か分かるかブルー」

「いや、俺も初めて見る」

 アキラはリーネとツキにも振り返ってたずねるが、二人も知らないとばかりに、首を左右に振る。

 長年生きているブルーが知らないとなると、用心した方が良いと、距離を取って、落下跡の縁に降り立つ。アキラはすぐに飛び降りると、リーネとツキに手を貸して下ろしてやった。

 三人が降り立ったことを確認したブルーが、すぐさま人の形をとった。

 その間に、中心に向かって視線を向けていたリーネがつぶやいた。

「あの、わきわきしたのが結界を張ってる」

 魔力的な結界を張って、中心から発せられる信号のようなものを防いでいるのだと。そして、外からは精霊達が見えないようにしているのだと。

「あの小さいのは、あの水晶(クオーツ)とやらを隠しておきたいのか」

 ブルーが目を細めて、水晶(クオーツ)と小物体をじっと見る。

 リーネが自分を抱きしめ、ぶるりと体を震わせた。

「すっごい、気持ち悪い」

「リーネとツキはここで待っていろ。俺とアキラで近づくぞ」

 ゆっくりと、慎重になとブルーはアキラに告げる。

 頷いたアキラが、ブルーと並んで歩を進めていく。

 うごめく小物体まで、あと僅かというころまで距離を詰めた。すると小物体の尾のようなものが、一斉にアキラとブルーに向けられる。先端が瞬いたそのとき、ブルーがアキラの前に立っていた。

「下がれ!何か放ってきやがった!」

 ブルーの言葉に、すぐさまアキラは後ろへと飛び下がる。見えない壁のようなもので、ブルーが光線を防いでいた。

「レーザーか!」

 魔術であったとしても、アキラの目にはレーザーの照射にしか見えない。

 ブルーは下がることもなく、光線を防ぎつつ、前へと進んでいく。まさしく最強種と言わんばかりだ。

 やがて、ブルーは小物体達をまたぎ越えた。アキラも後方に下がったことからか、そこでピタリと光線は止む。

 どこか、生物ではなく、機械的な反応を見てとれる。

「どうやら、入る事は出来たようだな」

 そう言ったブルーだが、自分の声がアキラ達には届いていない事を知る。口の開閉で喋っている事は分かっているようだが、聞こえないとばかりにアキラが首を左右に振り、腕でバツ印を作っていた。

 フィールドの中で戸惑う様子のブルーを見ているアキラだが、近づけば、またあの光線で攻撃されるだろう。

 リーネが盛んにシールドを作る?作って守っちゃうと伝えてくる。

 どうしようかと、アキラが考えているうちに、ブルーが行動に出た。

 水晶(クオーツ)の側に立ったブルーが、手をくるりと回すと、囲んでいた小物体が一斉に爆発を起こした。

「ええっ、結界が邪魔で、精霊に願うことができないんじゃ」

 小物体が張っていた結界を無視したかのようなブルーの行動に、驚くアキラ。その側には、いつの間にかリーネとツキが並んでいた。

「ドラゴン自身が精霊みたいなものですから」

 魔術行使を自分だけで出来るのだと、ツキがアキラに教える。

 ドラゴンだし、ある意味当然かと、アキラは納得する。

「そうか、ブルーは精霊なのか」

「いいえ、みたいなものです」

 厳密に言うと違うのだと。

「ブルーって、何でも出来るようで、何でも出来ないもんね」

 やらないだけかも知れないけど、と出番を奪われて、少しすねたようにリーネがつぶやいた。

 三人で、用心しつつ、ブルーへと近づいて行く。

 出迎えたブルーへ、アキラが言葉を投げつける。

「イラッとしただろ?」

「ああ、イラッとしたからやった。反省はしていない」

 気分が晴れたように笑うブルーに、アキラは苦笑いを返した。正体の分からないものを破壊してどうするんだと。もしかすると、水晶(クオーツ)が及ぼす悪い影響を閉じ込めていたのかもしれないのだから。

 再度、ログハウスの庭で聞いた電子音が聞こえてきた。どうやら、やはり破壊した小物体が張っていた結界で遮られていたようだ。では、なぜ一瞬であっても、漏れる事が出来たのであろうか。

 四人で水晶(クオーツ)を取り囲む。

「すごく頭の中で響いて、痛くなってきた」

 アキラの言葉に、全員が頷く。普段、あまり表情を崩さないツキでさえ、苦々しい表情を浮かべている。リーネにいたっては、意味なく耳を手で塞ぎ、ばたばたと足踏みしていた。

「壊すか?」

 あまりの頭痛に、殺気をみなぎらせたブルーがつぶやくと、なぜか電子音が止んだ。

「コミュニケーションがとれるのか。殺気に反応したみたいだ」

 アキラの言葉に、しゃがんだリーネが枝を拾い上げて、水晶(クオーツ)をつつき始めた。

 慌てて止めようとしたアキラだが、リーネがにぱりと笑う。

「つん、とした時に、ピッて鳴るよ」

 機械的な何かかと、アキラが首をひねる。

「ブルー、触ってみるから、何かあったときは頼む」

「ちょっと待て、大丈夫か?」

「まあ、見た目大丈夫だろ」

 こいつ意外とチャレンジャーだなと、ブルーが目を見張る。

 しゃがんだアキラは、ゆっくりと手の平を近づけていった。水晶(クオーツ)の表面に届く、その一瞬に息を止め、手の平を押しつけた。

「冷たい感触、まさしくガラスみたいだ」

 そう、アキラが感想をつぶやいたとき、手の平から波のようなものが伝わってきた。表面が震えているような感じではなく、水晶(クオーツ)の中から音の波が直接手の平に伝わるようなものだった。

 慌てて、アキラは手を離す。

「何か分かったか」

「……これ、生きてるかもしれない」

「石みたいなもんだろ。生きてるって、どういう意味だ」

 どう返せばいいのか、考え込むアキラ。

「分かるような気がします。どう言えば良いかわからないのですが」

 意外にも、ツキが口を開いた。そして、さらに意外だったのが、ブルーとリーネがそれに納得したことだ。一人納得のいかないアキラが首をひねり、口を開いた。

「……そういえば、昔本で読んだことがあったな。俺たちみたいな世界もあれば、ケイ素とか、まぁ石だけど、そんなのが生物になった世界もあるかもしれないって」

「じゃ、この子もアキラみたいに転移してきたの?」

 リーネの言葉に、アキラは首を左右に振る。分からないと。アキラは意図的に世界と言ったが、知識にあるのは他の星での出来事だということだ。書物でも僅かながら可能性があると述べている程度だが。

「ちょっと、無視は止めてくださる」

 突然の言葉。一斉に振り返った先に、いつの間にか、王国に住まうはずのディーネが現れていた。

「ずっと呼びかけているのに、何も返事をしてくれないなんて」

 背には水が流れるような翼。それを見たアキラは大精霊だと分かったが、誰かは分からない。そばにいたリーネの耳に口を寄せて「誰?」とたずねた。それに、今度はリーネがアキラの耳に口を寄せて「王国のディーネだよ」と応えた。

「そこ、いちゃいちゃしないでください」

 なぜか、頬を膨らませて、不機嫌そうに指摘するディーネに、アキラとリーネは顔を真っ赤にして「べ、別にいちゃいちゃとは」と口をもごもごさせていた。

「二人をからかうのはよして、何の用事か教えろ」

 わざわざ来るのは珍しいがと、ブルーは要件をたずねる。

「そうでした。キムボール王子が境界で待つそうです」

 さらに詳しい位置をディーネが伝えるが、ブルーは眉をひそめる。

「その王子様が会いたいって事は、例の帝国と財団(ファウンデーション)の件か」

「まさしくその通りです。詳しくは聞いておりませんが、会ってあげてください」

 あごに手をあて、しばらく考えるブルー。その間に、水晶(クオーツ)に興味を引かれたのか、ディーネが視線をそちらへ向けていた。さらにちらちらと合間にアキラへと視線を向けている。

「よし、ディーネが直接来てくれたことに免じて、会ってやる」

「えらそうだこと……」

「なんだ、会わなくても良いのか」

「駄目です。無視は駄目です。無視は」

 すでにキムボールは境界へ向かっており、すでに到着しているだろうと。そういうことならば、すぐに行くから、ディーネは帰れとブルーは促す。

「何やら、そこにあるのですが……。それと……」

「いいから、帰れよ」

 ブルーの強い言葉に、ぶつぶつと文句をいいながらも、未練がましいながらも、ディーネは姿を消した。

「正体の分からんものを、詮索されてもな」

「そうだな。それじゃ、触った俺が抱えるから、行こうか」

 一度触ったことによって、思い切る事ができたのか、アキラが水晶(クオーツ)を持ち上げ、抱きかかえた。皮膚が触れた部分から、波動が伝わってくるが、なんとか我慢をする。

 ドラゴンの姿になったブルーの背に、両手が塞がっていたアキラは、リーネとツキの力を借りてなんとかよじ登ることができた。

「その水晶(クオーツ)やらは、そのまま持って行くぞ」

 呼び名が水晶(クオーツ)で定着してきたそれを、どこかに置いておくのも不安はあるが、しかし、出来るだけ人の目にはさらすなと、ブルーはアキラに注意した。わかったと頷くアキラは、シャツを脱いで水晶(クオーツ)をくるむ。

「一気に行く!」

 再びドラゴンは、三人を乗せ、空へと舞い上がった。


次回、明日中には投稿いたします。

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