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誤字脱字、直しつつ始めて行きます。
どうか、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。
音が降ってきた。
だが、それは耳に届くものではなく、頭の中に直接聞こえてきた。
アキラには聞き覚えがあった。FAXやコンピュータ回線が、間違って音声用の電話につながった時に聞こえてくる、耳障りな電子音。
「一体どこから聞こえてくる」
周囲を見回すアキラだが、それにブルーが応えた。
「例の落下物のあたりだ」
電子音はすでに止んでいた。
ブルーがドラゴンへと形態を変えていた。すぐにでも飛び立ちそうな勢いだったが、アキラがそれを止めた。
「俺も行く!」
「私も!」
ブルーに駆け寄るアキラに、リーネが追いすがった。リーネは残るよう、言おうとしたアキラだが、ブルーに遮られた。
「背中に乗れ!ツキも乗るんだ!」
一旦、ログハウスの中に入ったツキが、荷物を手にして再び外へと飛び出してきた。アキラも、近くに置いてあった刀を手に取る。
三人が背によじ登るのを確認したブルーは、すぐさま空に飛び立った。
「どうしてツキさんまで」
「全員で行動した方が良い」
万が一を考えてだとブルーが応える。
空を飛んでいたのは、ほんの一瞬だった。ドラゴンでの飛翔スピードを考えても、ログハウスから近い。
森の一部に、直径100メートル程度の円形で木々がなぎ倒されていた。落下は垂直であったのか、中心で発生した衝撃波を受け、木の天辺はきれいな円形になっている。
落下後の跡を見たアキラは、王都で火球を観測したにも関わらず、小規模だと感じていた。地面に衝突する瞬間に、制動でもかかったのか。いや、ただの隕石ではあり得ない。
では、ただの、ではなかったら。
アキラの背に怖気が走る。
「こんな近くに落ちていたのか」
なぜ気づかなかったとブルーは自問する。
落下跡の上を、ブルーが旋回しつつ高度を落としていき、様子をうかがう。
「あれは水晶か?」
「知っているのか、アキラ」
高度が下がるにしたがい、中心にある物体がアキラの目にも見えてきた。大きさは人が抱えて持ち上げられる程度か、石英の結晶のようなものが、一本だけ横たわっていた。
「いや、似たようなものを知っているだけだ」
大気圏を通過してきた割には、摩擦で生じた高熱の跡も見られない。
もともと、地面に埋まっていたものが、隕石の落下によって露わになったのか。それでは今度は落下による衝撃跡が見受けられない。
よく見れば、水晶の周囲で、小さな物体がうごめいており、近づくにしたがって、それがサソリのようなものであることが分かった。
「周りを何かが取り囲んでいるな。何か分かるかブルー」
「いや、俺も初めて見る」
アキラはリーネとツキにも振り返ってたずねるが、二人も知らないとばかりに、首を左右に振る。
長年生きているブルーが知らないとなると、用心した方が良いと、距離を取って、落下跡の縁に降り立つ。アキラはすぐに飛び降りると、リーネとツキに手を貸して下ろしてやった。
三人が降り立ったことを確認したブルーが、すぐさま人の形をとった。
その間に、中心に向かって視線を向けていたリーネがつぶやいた。
「あの、わきわきしたのが結界を張ってる」
魔力的な結界を張って、中心から発せられる信号のようなものを防いでいるのだと。そして、外からは精霊達が見えないようにしているのだと。
「あの小さいのは、あの水晶とやらを隠しておきたいのか」
ブルーが目を細めて、水晶と小物体をじっと見る。
リーネが自分を抱きしめ、ぶるりと体を震わせた。
「すっごい、気持ち悪い」
「リーネとツキはここで待っていろ。俺とアキラで近づくぞ」
ゆっくりと、慎重になとブルーはアキラに告げる。
頷いたアキラが、ブルーと並んで歩を進めていく。
うごめく小物体まで、あと僅かというころまで距離を詰めた。すると小物体の尾のようなものが、一斉にアキラとブルーに向けられる。先端が瞬いたそのとき、ブルーがアキラの前に立っていた。
「下がれ!何か放ってきやがった!」
ブルーの言葉に、すぐさまアキラは後ろへと飛び下がる。見えない壁のようなもので、ブルーが光線を防いでいた。
「レーザーか!」
魔術であったとしても、アキラの目にはレーザーの照射にしか見えない。
ブルーは下がることもなく、光線を防ぎつつ、前へと進んでいく。まさしく最強種と言わんばかりだ。
やがて、ブルーは小物体達をまたぎ越えた。アキラも後方に下がったことからか、そこでピタリと光線は止む。
どこか、生物ではなく、機械的な反応を見てとれる。
「どうやら、入る事は出来たようだな」
そう言ったブルーだが、自分の声がアキラ達には届いていない事を知る。口の開閉で喋っている事は分かっているようだが、聞こえないとばかりにアキラが首を左右に振り、腕でバツ印を作っていた。
フィールドの中で戸惑う様子のブルーを見ているアキラだが、近づけば、またあの光線で攻撃されるだろう。
リーネが盛んにシールドを作る?作って守っちゃうと伝えてくる。
どうしようかと、アキラが考えているうちに、ブルーが行動に出た。
水晶の側に立ったブルーが、手をくるりと回すと、囲んでいた小物体が一斉に爆発を起こした。
「ええっ、結界が邪魔で、精霊に願うことができないんじゃ」
小物体が張っていた結界を無視したかのようなブルーの行動に、驚くアキラ。その側には、いつの間にかリーネとツキが並んでいた。
「ドラゴン自身が精霊みたいなものですから」
魔術行使を自分だけで出来るのだと、ツキがアキラに教える。
ドラゴンだし、ある意味当然かと、アキラは納得する。
「そうか、ブルーは精霊なのか」
「いいえ、みたいなものです」
厳密に言うと違うのだと。
「ブルーって、何でも出来るようで、何でも出来ないもんね」
やらないだけかも知れないけど、と出番を奪われて、少しすねたようにリーネがつぶやいた。
三人で、用心しつつ、ブルーへと近づいて行く。
出迎えたブルーへ、アキラが言葉を投げつける。
「イラッとしただろ?」
「ああ、イラッとしたからやった。反省はしていない」
気分が晴れたように笑うブルーに、アキラは苦笑いを返した。正体の分からないものを破壊してどうするんだと。もしかすると、水晶が及ぼす悪い影響を閉じ込めていたのかもしれないのだから。
再度、ログハウスの庭で聞いた電子音が聞こえてきた。どうやら、やはり破壊した小物体が張っていた結界で遮られていたようだ。では、なぜ一瞬であっても、漏れる事が出来たのであろうか。
四人で水晶を取り囲む。
「すごく頭の中で響いて、痛くなってきた」
アキラの言葉に、全員が頷く。普段、あまり表情を崩さないツキでさえ、苦々しい表情を浮かべている。リーネにいたっては、意味なく耳を手で塞ぎ、ばたばたと足踏みしていた。
「壊すか?」
あまりの頭痛に、殺気をみなぎらせたブルーがつぶやくと、なぜか電子音が止んだ。
「コミュニケーションがとれるのか。殺気に反応したみたいだ」
アキラの言葉に、しゃがんだリーネが枝を拾い上げて、水晶をつつき始めた。
慌てて止めようとしたアキラだが、リーネがにぱりと笑う。
「つん、とした時に、ピッて鳴るよ」
機械的な何かかと、アキラが首をひねる。
「ブルー、触ってみるから、何かあったときは頼む」
「ちょっと待て、大丈夫か?」
「まあ、見た目大丈夫だろ」
こいつ意外とチャレンジャーだなと、ブルーが目を見張る。
しゃがんだアキラは、ゆっくりと手の平を近づけていった。水晶の表面に届く、その一瞬に息を止め、手の平を押しつけた。
「冷たい感触、まさしくガラスみたいだ」
そう、アキラが感想をつぶやいたとき、手の平から波のようなものが伝わってきた。表面が震えているような感じではなく、水晶の中から音の波が直接手の平に伝わるようなものだった。
慌てて、アキラは手を離す。
「何か分かったか」
「……これ、生きてるかもしれない」
「石みたいなもんだろ。生きてるって、どういう意味だ」
どう返せばいいのか、考え込むアキラ。
「分かるような気がします。どう言えば良いかわからないのですが」
意外にも、ツキが口を開いた。そして、さらに意外だったのが、ブルーとリーネがそれに納得したことだ。一人納得のいかないアキラが首をひねり、口を開いた。
「……そういえば、昔本で読んだことがあったな。俺たちみたいな世界もあれば、ケイ素とか、まぁ石だけど、そんなのが生物になった世界もあるかもしれないって」
「じゃ、この子もアキラみたいに転移してきたの?」
リーネの言葉に、アキラは首を左右に振る。分からないと。アキラは意図的に世界と言ったが、知識にあるのは他の星での出来事だということだ。書物でも僅かながら可能性があると述べている程度だが。
「ちょっと、無視は止めてくださる」
突然の言葉。一斉に振り返った先に、いつの間にか、王国に住まうはずのディーネが現れていた。
「ずっと呼びかけているのに、何も返事をしてくれないなんて」
背には水が流れるような翼。それを見たアキラは大精霊だと分かったが、誰かは分からない。そばにいたリーネの耳に口を寄せて「誰?」とたずねた。それに、今度はリーネがアキラの耳に口を寄せて「王国のディーネだよ」と応えた。
「そこ、いちゃいちゃしないでください」
なぜか、頬を膨らませて、不機嫌そうに指摘するディーネに、アキラとリーネは顔を真っ赤にして「べ、別にいちゃいちゃとは」と口をもごもごさせていた。
「二人をからかうのはよして、何の用事か教えろ」
わざわざ来るのは珍しいがと、ブルーは要件をたずねる。
「そうでした。キムボール王子が境界で待つそうです」
さらに詳しい位置をディーネが伝えるが、ブルーは眉をひそめる。
「その王子様が会いたいって事は、例の帝国と財団の件か」
「まさしくその通りです。詳しくは聞いておりませんが、会ってあげてください」
あごに手をあて、しばらく考えるブルー。その間に、水晶に興味を引かれたのか、ディーネが視線をそちらへ向けていた。さらにちらちらと合間にアキラへと視線を向けている。
「よし、ディーネが直接来てくれたことに免じて、会ってやる」
「えらそうだこと……」
「なんだ、会わなくても良いのか」
「駄目です。無視は駄目です。無視は」
すでにキムボールは境界へ向かっており、すでに到着しているだろうと。そういうことならば、すぐに行くから、ディーネは帰れとブルーは促す。
「何やら、そこにあるのですが……。それと……」
「いいから、帰れよ」
ブルーの強い言葉に、ぶつぶつと文句をいいながらも、未練がましいながらも、ディーネは姿を消した。
「正体の分からんものを、詮索されてもな」
「そうだな。それじゃ、触った俺が抱えるから、行こうか」
一度触ったことによって、思い切る事ができたのか、アキラが水晶を持ち上げ、抱きかかえた。皮膚が触れた部分から、波動が伝わってくるが、なんとか我慢をする。
ドラゴンの姿になったブルーの背に、両手が塞がっていたアキラは、リーネとツキの力を借りてなんとかよじ登ることができた。
「その水晶やらは、そのまま持って行くぞ」
呼び名が水晶で定着してきたそれを、どこかに置いておくのも不安はあるが、しかし、出来るだけ人の目にはさらすなと、ブルーはアキラに注意した。わかったと頷くアキラは、シャツを脱いで水晶をくるむ。
「一気に行く!」
再びドラゴンは、三人を乗せ、空へと舞い上がった。
次回、明日中には投稿いたします。




