9-11
引き続き、
第9章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
DH183 航空甲板上 頂天号内部
ツキをアキラの元に向かわせたブルーは、頂天号の内部にいた。
廊下を気配を頼りに進んでいく。
やがて、目前で廊下の壁に設けられた整備口から配線や管をはみ出させて、自身の上半身を中に突っ込んでいる人物を見つけた。
その人物の技量からして、すでにブルーの気配は知れていると、声もかけずにブルーはその脇に寝そべった。
しばらくは、工具がネジを回す音が周囲を支配していた。
やがて、作業が一段落したのか、息をついて上半身を外へと出す。
それに、ブルーは前置きもなく話しかけた。
「アキラの顔は見なくて良いのか?」
しばらくぶりだろうと言うブルーに、顔を出したアモンが苦笑いを浮かべる。
「あのバカだって、こんな爺の顔は見たくないだろうよ」
べっぴんさんが沢山ついてんだ、それでいいさと。
そうかと返したブルーが目蓋を閉じて、顎を前脚に乗せた。
「お前さんをこうして見ると、幼子を抱えて、愛花と一緒に俺ん家に飛び込んできた日を思い出す」
それにがははと豪快に笑いを返すアモン。後頭部を掻き、いやいやと笑い続けていたが、それを納める。
「バカ息子の追っ手を振り切ってな。相手するわけにも行かねーし、あいつら、守護地でもお構いなしに追って来やがって」
その時をアモンも思い出すのか、顔が上を向き、視線は遠くを見つめていた。
「まぁ、お前さんは苦労したけど、ツキは飛び上がって喜んでいたけどな」
「そりゃそうだろうな」
「準備が出来て、世界を渡る前日、あいつは泣きながら言いに来たよな。アキラを置いていってください、駄目なら自分も行くってな」
それを聞いて、犬の顔で笑顔を浮かべるブルーが思い出を語る。
「それ聞いた愛花が、なまくらが引っ込んでろって啖呵斬って、大げんかになったんだよな」
「引っ込んでろってのはないよな」
「おかげで、俺ん家の周りは、家も含めて何もなくなったけどな」
そして、ブルーとアモンは顔を見合わせて大声で笑った。
ブルーは愛花は元気にしているかと聞き、もちろんだとアモンは答える。向こうで大きな取引があるとかで、一緒には来なかったけれどと。そして、ブルーに貰った金が役立ったと礼を言った。
「向こうでも価値があったのか」
「あるも何も、大層な金額になったぜ。山一つと、それなりにデカい家と道場建てて、尚且つ結構な期間の生活費に出来た」
そうなのかと、感心した声を上げるブルーだが、アモンはお前さんの金より凄かったのは、愛花だけどなと付け加える。
何故とばかりに首を傾げるブルーに、アモンは説明をする。
「向こうでは資産の運用が盛んでな」
愛花も最初は少額であったが、運用のルールなどを理解すると、大胆に動き始めたと言うのだ。
「するとお前さんは、愛花に食わせて貰ってたのか?」
「最初はな。興味があったから、向こうの道場見て回っている内に、俺の腕前が広まってくれて、教えを請う奴がいてな。びっくりしたぜ、向こうでは技一つ教えると、凄い金になるんだぜ」
平和な世界では、実戦で研ぎ澄ました剣聖の技術も、芸術に変貌を遂げていた。
それを聞いたブルーが、ほうとばかりに目を見開いた。
「それでアキラを育てたと」
アモンの顔が、どうしてか左右に振られた。
「食わせてはやれた、剣聖を張れる程度には術理は教えてやれた。躾けや教育も影ながら愛花がしっかりしてくれた。でもな、どうなんだろうな」
そう言って、アモンは口を閉ざしてしまう。
向こうの世界では、アキラが育つ上で想定外の何かがあったのだろう。それはアモンでさえ防げぬ事だったのだろう。
口を閉ざしてしまっては、聞き出す事は適わぬと、ブルーは話題を変えることにする。
「相変わらず、オベロンはお互いどちらか死んだらそれまでとばかりに、アキラと戦うつもりでいるぞ。あいつは息子を鍛えているつもりだろうけどな」
「あれはバカだ、ニアもバカだ」
「オベロンがバカの天辺なのは同意するが、ニアは仕方ないだろう。あいつに人の機微とか心理とか理解出来るか?無理だろう。俺だって制約なけりゃ難しいのに」
そのための代行者だろうとブルーは続ける。
そのブルーの言葉に、アモンもそれはそうかと、しぶしぶのように頷くのだった。
「それで、これからどうする」
「そうそう、それじゃな。とりあえず作るものは作った。何度も世界を渡るはめになったがな。アキラも時間はかかったが、育ちきった上に介入は避けて、自ら選択できた」
「いつから、剣聖が鍛冶師になったのやら」
「孫とこの星の将来のためなら、鍛冶でも魔術でも、何でもするわい。バカ息子程度、いくらでも騙してやるわい」
それが命を磨かれたわしらの責任じゃと言い放って、アモンは豪快に笑うのだった。
そして、それを聞きながらため息を突いたブルーは、またもや突然、俺ん家に飛び込んで来やがって、また家が潰れたじゃないかと愚痴るのだった。もちろん、再度家が潰れたのはアモンの取り巻きの仕業ではないのだが。
DH183 艦内会議室
会議室の机にて、首座にいるのはシオダであった。本来はエンが座るべきではあるが、内容が艦隊に関することであるため、決断を下すシオダが座っている。
参加しているのはエンはもちろん、シオダとその幕僚、そしてツキとスノウ、ライラであった。ツキ達はアキラの代理としての参加であり、意見を述べる立場にはない。
そして、本来いるはずの、他の大精霊達の姿はない。
集まったその数と偉容から、ここで多国間外交でも始めるのかと、艦内を預かる警備兵が任務の重大さで震え上がらせている大精霊達は、アキラの様子を見守るために、この場への参加を辞退していた。
辞退を伝える際には、リータがアキラが優先と言い出しそうになり、それを殴って止めたディーネが、穏便に共和国への介入になるので辞退すると告げて、本心を隠して事なきを得ている。
もちろんリーネとレインはアキラの側だ。ツキが出るのならば、自分達は必要はないと任せきりだ。
そして、ノーミーの初期治療に活躍したディアナとペノンズは、その役割を解かれて、今ではエーテル炉関連の設備や計器に夢中となっており、担当している精霊工学士達に質問攻めをしていた。本来ならば、迷惑がられても良いようなものだが、的確な質問と正鵠を得た賛辞に、共和国の工学士達も喜んでおり、気分良く対応をされていた。
絶賛妹が一番で何が悪いのブルーと爺バカ全開のアモンといえば、頂天号の内部で、調整を実施しつつ昔話に花を咲かせて、大笑いをしていたので、そっとそのままにされていた。搭乗口にエンによって入るべからずの掲示がされていたが、機密を守るためと皆は信じようとしていた。けっしてバカによる汚染を防ぐためではないと。
まず冒頭から、エンが魔王艦隊の状況を話し始めた。一度送り狼と化しているE229とE230に転移して、状況を確認してきた報告であった。
「恐らく、現状では欺瞞航路をとっているため、泊地まで連れて行ってくれるかどうか」
エンの報告を受けて、幕僚達が活発に意見を交わし、シオダはそれに耳を傾けている。
「魔王艦隊の内二隻は損傷しており、敵性能は判明しておりませんがE229とE230を振り切るのは不可能でしょう」
「ならば、どこかで仕掛けてくるか?」
「泊地へ行くまでもなく、叩きましょう」
その言葉に、幕僚達の目が航空参謀へと向けられる。
「全力出撃は無理だが攻撃は可能。しかし、敵にも航空兵力が存在すると分かった今、どれほどの損害がでるか不明だ」
ならばと、今度はシオダも含めた全員の目がツキに向けられる。
答えぬ訳にはいかないと、失望を与えることにためらいつつもツキが口を開く。
「正式に頂天号の所有権はアモン殿から我が主に譲渡されました。しかし、我が主は現在は意識不明、そして、アモン殿は頂天号は未完であり、出撃したとして、牽制程度しか出来ぬとのことです」
ツキがアモンの名前を出すと、エンがしきりに大きく両腕を上げて、左右に振り始めたが、共和国の内情に興味を持たないツキは知らん顔だ。
先に、エンはあたふたしながらアモンを追っていたが、あれは艦内をアモンに見せたくないのではなく、アモンを皆の目に触れさせたくないためであった。元は魔王に協力していた経緯があれど、現在では共和国最高の頭脳で剣士である、最高機密であったからだ。
そして、会議は打つ手はなしと、では無謀な攻撃をするかと、いや、戦いは始まったばかり、兵力は大事にせねばならないと堂々巡りを始めた。
これは時間がかかりそうだと、ツキが考え始めたが、この主力艦隊が合流を目指して速度を上げ、E229とE230を追っている今、僅かであっても時間はあるのだと自分に言い聞かせた。
クソ爺:「でだ、技を伝授するのに流派名が要ったんだが……」
わんわん:「ほう、どんな名にしたんだ?」
クソ爺:「ボソボソ……」
わんわん:「えっ、その年で厨二病!」
クソ爺:「てか、なんでお前が厨二病とか知ってんだよ!」
そりゃ、教えるってのは一人だけですよね。
次回、明日中の投稿になります。




