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引き続き、
第9章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
リータがノーミーの首筋つかんで持ち上げられてから、シーツは剥がれ、終始裸身を晒すことになったが、幸い、その場には男性がいなかったのがノーミーにとって救いであった。唯一の男性であるアキラは意識がなかったし、一度しっかりと見ているので数に入れる必要はないだろう。
「それでね契約なんだけど」
ノーミーとしては、交わしても大丈夫だろうかと、おずおずながら尋ねたつもりであった。しかし、相手はリータである。
「ああ、俺がやってやる」
言うや否や、リータはノーミーの頭を掴み、スノウの頭を掴んで、額を打ち合わせた。
硬質な音が、部屋に響き渡り、ノーミーはベッドの上で、スノウは椅子の上から床へと転がり落ちて、一体と一人が痛みのあまりのたうち回っていた。声も上げることが出来ず、無言の苦悶をまき散らしていた。
「これ、人や獣人がやっても意味ないんだぜ。大精霊がしなきゃな契約成立しない」
聞かれてもいないのに、しでかしたことの意味を説明するリータ。
額を手で押さえたスノウが、涙目でリータを見上げる。涙の奥には恨めしげなものがあったが、仕出かしたのが大精霊であるリータでは文句も言えない。そこへサインがちょこちょこと駆けよって来て、頭を撫でてやっているが、痛みと恨みが治まる様子はない。
同じように、額を手で押さえたノーミーはさすがに同格の相手であって、食ってかかった。
「それあーしも知ってる!協同国でしたことあるし!それに力任せにするバカがいるか!そんでもって荘厳な儀式とかしないのかー!」
せめて大精霊扱いしろー、と叫ぶ。
まさか、力任せじゃないぞ、そうなりゃスノウの額は割れてるぞと答えたリータが続ける。
「儀式なんてーのは後で、協同国で適当にすればいいじゃねーか。それより、ノーミーは手っ取り早く魔力が回復したろ。スノウは能力同調できたみたいだしな」
そういえばと、何故か自分が動けるようになっていることに気づいたノーミーと、背中にはノーミーと同様の羽が生えていることをスノウも知ることになる。
その上、大精霊と契約したことによって得た新しい能力についての情報がスノウの中に流れ込んでいるのが、額の痛みとは別のめまいを証拠として感じるスノウ。
痛みとめまいを堪えながらも物珍しげに、ぱたぱたと突然生じた羽を動かしてみたスノウは、ふと気づく。
父の筆頭族長サイモンと、連なるシャープス家の、族長の家臣団とも言える親戚達に何ら相談せずに決めてしまったが、良かったのだろうか。
相手は、いかに軽々しそうに見えても、ノーミーは歴とした大精霊。しかも一応、協同国のサインと並ぶ崇拝対象の大精霊。
習い覚えた歴史でも、一例としてない。もちろん世に知られぬ例はあろうが、族長の娘が大精霊と契約したとなると、先ず間違いなく歴史上に残る出来事になろう。神話となって残されても不思議ではない。
そこで、やっと自分のしでかしたことで、顔を真っ青にするスノウの姿があった。延命の件など、すっかり頭から抜け落ち、知らずに改めて背中の羽をぱたぱたしていた。
そんな大精霊達の騒ぎをアキラの脇で眺めていたレインが、先ほど一人で戻って来たツキに尋ねる。何やら、レインに見せたくはないのか、ツキは懸命に顔を背けているのだが。
「あの騒ぎはどうなっているのですか?」
「そうですね、歴史に記された大精霊がした契約はないのですが」
見ずとも、状況で察したのか、顎に手を当てて説明を始めるツキ。
契約とは、精霊の専属化、優先使用権というか、真っ先に言うことを聞いてもらう権利を言う。一般に男性と精霊の場合は結婚に例えられる場合が多いが、女性が契約を結ぶ際には姉妹化と捉えられている。
一応は性別は考慮されているのだ。一般には姿が見えずとも、精霊が男性化しての契約は禁忌とされている。
精霊との契約は腕利きである証明で、一流の魔術師としては必須であり、結構頻繁に実施されていて、各国の大精霊の仕事の一環となっているほどなのだが、これが希少な大精霊では例を見ない。
では、リーネやスノウなどの魔術師は、何故今まで契約していなかったのか。リーネは人でも精霊でもないために例外として、ただの獣人であるスノウは何故か。
簡単な話、必要なかったのである。スノウが獣人魔術師として桁外れであったためだ。
そして大精霊との契約例として、王国の建国王がディーネと一歩手前まで行ったのが有名な一例となっているだけである。
その建国王も、契約直前に死んでしまい、果たせずにいるのだが。王国では悲劇として伝えられている。
一時、守護地近郊では、キムボールとディーネ、ミュールとリータが噂として流布されたが、ディーネは建国王が未だ忘れられず、王国の守護に身を捧げると態度で示しており、尚且つキムボールの嫁探しに熱心であり、リータはミュールを息子、あるいは良くて弟扱いしていために、噂は霧散することとなった。ちなみにエリオットは上手く立ち回っていた。
そう言った意味では、スノウとノーミーの契約は予想外で、各国に衝撃をもたらすことは間違いない。
「それじゃ、今の出来事は凄いことなのですね」
そう言いつつも、あまり凄いとは思っていないレインに、ツキが苦笑いを返す。そも当然。レインの存在が知られれば、吟遊詩人どもは飛びついて、歌って回るであろうほどのものなのだ。そして、神話として語られる事柄が周囲でゴロゴロいるのも感覚を鈍くしている。
「協同国は大騒ぎになるでしょうし、大々的に宣伝するでしょう。近隣諸国は警戒するでしょうしね」
単純に言えば、協同国の戦力が増大したことになるが政治的な影響は計り知れない。それはシルがした、帝国での宣言以上の騒ぎになるやもしれなかった。
それよりも、ツキとレインの興味はベッドにて意識のないアキラにあった。
以前としてアキラの傷口は金色に包まれていたが、まだ、シーツに隠されてはいたものの塞がる様子はなかった。
ただし、ツキとレイン、そしてさらにはアキラの手を握って頬に寄せているリーネには、感じる事が出来た。
その内部の変様を。
姉様一応大精霊:「むかーし、むかし、国家建国を夢見る若者がいました……」
バカ王子ただし子供ん時:「昔話ってか、神話?いや、惚気じゃん?」
姉様一応大精霊:「惚気で何が悪い、悪いか!」
バカ王子ただし子供ん時:「……神話の登場人物が開き直るな……」
ちなみに、最新の神話は『大精霊、尻をはたかれる』です。
J○?もどき:「こっちに振るなし!!」
いいじゃん、事実に基づいた神話だし。
てか、神話?精霊話?
神話で良いか……
次回、明日中の投稿になります。