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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第9章 LA・LA・LA LOVE SONG
175/219

9-9

引き続き、

第9章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 ツキが気配を辿り、追いついたのは航空甲板の端であった。

 ぽつりとお座りの姿で、赤みを増しつつある空を見ていたブルーに、ゆっくりとツキは近づき、その隣にしゃがみ込んだ。

 ツキとブルーはしばらく黙って、流れていく景色、赤く染まりつつある空、沈みゆく太陽を見ていた。

 先に口を開いたのはツキだった。

「大丈夫のようですね」

「いま、リーネは急速に情報が開示されている。アキラのことを心配していると、どうしても混乱が生じる。ほとんどがアキラのことだからな」

 そのブルーの言葉に頷くツキ。

「あとで気づいて、ああそうだったと情報同士を落ち着けて紐付ければいいんですから」

「ツキはどうだった?」

「私は、まだ幼子のアキラと出会う前でしたから、混乱はなかったです」

 そうかと頷くブルーの首筋に、そっと抱きつくツキ。

「その分、再会した後々罪悪感がひどかったですけど」

「俺もだよ」

 DH183が砂漠の砂を掻き分ける音だけが周囲を満たす。

「道化をさせて、ごめんなさい」

「いいさ、かわいい妹のためだ」

「その件ですが、リーネはまだ知らないのですよ。それをお兄ちゃん許しませんって、どういうことですか」

 責めるツキの言葉に、あわあわとした顔になったブルー。

「待ちきれなかったんだ!」

「このバカ犬!」

 珍しいツキの口汚い叱責に、シュンとなるブルーだが、その首筋に巻き付けられた腕が、ぎゅっとされた。

「ありがとう」

「お前も、シルバーから預かった大事な妹だよ」

 首筋の毛皮が湿り気を帯びる。

 ブルーがツキの顔に、自らの顔を寄せた。

 空の赤が、航空甲板で休む頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドを染めていた。

 それは、本当に太陽の色だったのだろうか。


DH183 エーテル炉室

 周囲が騒がしいアキラのベッドとは違って、先は巻き込まれてしまったが、今はスノウとノーミーの周りには静謐がただよっていた。

 ノーミーは普段が騒がしい、その様とは対照的に。そのノーミーの片手を握り、祈るように額に着けているスノウ。それが静謐の中心。

 精霊は死ぬことはなく、たとえ大事があったとしても、時を経て復活をする。だが、それでは長の別れとなる。スノウは、ノーミーと生きていたかった。同じ時代を生きたかった。短い自らの生ではあるが一緒にいたかった。

 それは大精霊ノーミドへの崇拝、祈りであっただろうか。

 いや、スノウの脳裏にあったのは、ノーミーと語り合った時のこと。大精霊であるにも関わらず、どこまでも同世代の友人のように接していた。族長の娘であっても、力が優先する獣人であるため、扱いは平等であるはずだが、やはり人々の目には姫としてしか見えず、その魔術の実力のために皆からは距離を置かれていた。

 それが突然出来た、目上の崇拝対象であるはずの友人。

 戸惑うことはあっても、楽しかった。

 気がついた。

 スノウが握っている手とは違う、もう一方の手が新たに添えられていた。

 その感触に気づいたスノウが、慌ててノーミーの顔に視線を向ける。

 細くではあったが、ノーミーの目は開かれていた。気がついたのだ。

 精霊工学士であるディアナや鍛冶師兼工学士のペノンズのどちらも側にいないことに気づき、スノウは立ち上がって呼びに行こうとしたが、ノーミーは手を放さずに、それを留めた。

「治らないものではないさ。時間がかかるけどね。この砂漠にはあーしは因縁があってね、力を使うのや身体が元に戻るのにも、しばらくは制限がかかるのさー」

「では、すぐ別の地へ移動すれば」

 スノウの言葉に、ノーミーが首を左右に振る。

「この砂漠が起点であれば、因縁は追ってくるから駄目なのさ。あーしとディーネがここを避ける、もう一つの理由さー」


 そして、休むように言葉を切り、大きく息を吐いた。

「では、話すのは止めて休んでください」

 そのスノウの言葉に、ノーミーは首を小さく左右に振った。

「リーネが思い切ったみたいだしさ、あーしもって思うんだ」そして、言葉を切ってしばらく思い悩むようであったが、「言いたくないけど、スノウは長くない。自覚はあるんしょ?」

 スノウの顔に陰りが生まれ、それを見せたくなくて顔が伏せられる。自覚はある。時折身体が重く、自由がきかなくなったり、意識が薄れる時があった。戦いなどに出れば、他に迷惑をかけるかも知れないという危惧は、スノウにはあったが、それでも押して戦い助けたかったのだ。

 命をゆっくり消すのではなく、輝きのあるうちに消したかった。その輝きを意味あるものにしたかった。

 答える術のないスノウ。

「だけどね、あーしが今からスノウにするお願いはそれは関係ないんだ。たださー、スノウが生きてないと、できないしょ、お願い」

 何を言い出すのか、見当もつかないスノウは顔を上げて、傾げた。

 ノーミーの手を握る、スノウの手に力が込められた。

「スノウ、あーしと共に生きて。あーしは大好きなスノウと少しでも長くいたい」

「それは……」

 どういった意味であろうかとスノウは考える。

 言葉をきったノーミーが万感を込めて言葉を紡ぐ、続ける。

「スノウ、あーしと契約をして」

 言葉は簡単だった。しかし、意味をすぐには理解出来ないスノウ。

 だが、じわりじわりとその意味がスノウの心に染みこんできた。

「そんな、そんなことは」

「そうすれば、スノウの魔力はあーしが一緒に制御できるから、長く生きられる。でもね、一番大事なのは、あーしがスノウと契約したいっていうのさ」

 いまここですぐに答えなければならないのだろうかと、スノウは逃げるように思考するが、いつの間には大きく開かれたノーミーの目が、真摯にスノウを見つめていた。

 逃げて良いことではないのだと悟るスノウ。

 想いは同じなのだと。

 だったら、何を迷う事が逃げる事があるのだろうかと、自分の心を理解するスノウ。

 こくりと頷いた。

 そして答える。

「何と言えばよろしいのでしょうか。婚姻とは訳が違いますし」

「不束ですが、よろしくお願いいたします、何て言ったらぶっとばす」

 突然の言葉に、慌てて後ろ向いたスノウの目に、両足を広げ、腕を組んで胸を持ち上げて立つリータがいた。その後ろにはサインやディーネの姿もあった。

「どうして?」

 何故この場にと、混乱したために、ようやく出たスノウの言葉。

 にやりと笑うリータ。

 どうやら、本陣でレインと話した通り、少し前にこの場に転移してきており、ノーミーとスノウのやりとり一部始終を見て聞いていたようだ。もちろんノーミーは気づいていたが。

「不束者なんざ、大精霊の契約者として認める訳にはいかん、ってのは冗談だけどな」

 かつかつと足音高く鳴らして、リータがノーミーが横たわるベッドの脇にやって来て、転移するほど力が戻っておらず、そのために物理的に逃げようとして、シーツに纏わり付かれてわたわたしているノーミーの頭をリータは小突いた。

「あれだけ、ディーネの時に反対していたお前が契約したいって、どういう意味だ?」

「あ、あ、あれはあーしも反省してるさ。ディーネには悪いことをしたってさ」

「ディーネ、謝ってもらったか?」

 ぷるぷると顔を左右に振るディーネ。

「お前、全然反省してねーじゃないか」

 ノーミーの首筋を持って、ひきずってディーネの元へ向かおうとするリータだが、脇腹から垂れ下がるチューブに気づき、さすがにこの場から動かすのは不味いと、手をひらひらとして、ディーネを呼び寄せる。

「もう、済んだことですし、時も長くたっていますから」

「いや、こういうことはけじめが大事だ」

 ディーネは遠慮するのだが、リータがそれを許さない。それまで、首筋から持ち上げられてジタバタしていたノーミーだが、ディーネが来たことによって大人しくなっていた。

 しばらく周囲に助けを求めるように眺め回していたノーミーだが、リータから睨み付けられ、観念を決めたようだ。

「ごめん」

「ちゃんと言う」

 ぺちんとノーミーの尻がリータによってはたかれた。

「ごめんなさい、あーしが悪かった、申し訳ございません。あんなことになっちゃって……」

「ディーネ、これでいいか?エーテルに還元しても良いんだぜ?」

 エーテル還元と聞いて、あわあわしているノーミーに対して、尋ねられ、対応に困っているディーネだが、とりあえず頷く事にした。

 それでリータは許してやるかと満足したのか、ノーミーはベットに戻されるのだった。

J○?もどき:「お兄ちゃんは、意識が無いんだよね」

わんわん:「なに、見せたかったのか?」

J○?もどき:「……一度見せてるし……」

わんわん:「えっ、予想斜め上の回答、何それ!」

許しません!

お父さんは、許しませんよ!!


次回、明日中の投稿になります。

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