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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第9章 LA・LA・LA LOVE SONG
174/219

9-8

引き続き、

第9章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 魔王の軍隊を追い返したことで、連合部隊は大きく士気を上げる結果となった。

 騎兵が共に戦った馬を労り、シールドを守っていた歩兵が出迎える。戦後の興奮からか、あちらこちらで興奮した歓声が上がっていた。

 本陣としていた集会所の中にも、それらの騒ぎが聞こえてくる。

 大きな部屋の中心に置かれた机には、シルとリータが座っていた。二人とも、茶ではなく、大ぶりジョッキになみなみとしたエールを注いでいた。祝杯ではない。疲れて喉があまりに渇いていたためだ。

 椅子に胡座をかいて行儀悪く座り、一杯を一気に飲み干したリータが、ジョッキを机に叩きつけて置いて、その脇にぐだりと自分の頭を横たえた。

「びっくりするよ、疲れるんだ俺たち」

 どうやら今までになく魔力を使い続けたリータがぼそりと呟いた。

「まぁ、疲れた状態で、魔力の消耗を表現しているのでしょう」

 人を模倣しようとする弊害であった。

 答えるのは、可愛らしく、クピリとジョッキから一口二口だけエールを少しずつ飲むシルだ。シルは過去に疲れるような同様の経験があったのだろう。

「あー、あいつら、また来るんだろうな」

「それはどうかしら、共和国が追撃するでしょうから、そこで勝利出来れば来ないでしょう。後から来た流線型のは期待できそうだし」

「そっかー、元気が出たら、手伝いに行ってやるかな」

 以前として机に頭を横たえ頬を乗せたリータが呟くが、それにはシルが頭を左右に振る。

「行くのなら、早く行って。ブルーから、アキラが自分で選択したって伝えてきたわ」

「えっ、俺聞こえてなかったんだけど」

 アキラに関する事をシルに知らせるならば、同様に自分にもブルーは知らせるはずだと主張するリータ。

「聞いていなかっただけでしょ。私はここに残るから、あなた行って見守りなさい。リーネの状態が心配だから。記憶の混乱とかがないといいけれど」

 何なら私がいっても良いのよというシルの言葉で火がつき、しばらく、シルとリータは揉めていたが、それを苦笑を浮かべ、距離を置いて見ているのは、部隊を指揮していたキムボール達や守備として残ったエリオットだった。大精霊二体の会話とあって、遠慮をして距離をとっているため、会話の内容までは知るよしもなかったが。

 ちなみに、早く行けと言うシルであったが、変にリータに絡んでいた。シルとしては本当はリータに行かせるのではなく、心配で自分自身が駆け付けたかったのだが、アキラとの先の戦いが未だしこりとなっていた。

 キムボールとエリオットはフォイル達の意見も採り上げ、とりあえず、揉めている大精霊達は好きにさせておくことにして、戦った騎兵達を休ませる手はずと、歩兵の再配置について相談して整えつつあった。

「守備は獣人を主体とした歩兵と魔術師に任すとして、騎兵はとにかく休ませよう。消耗が激しすぎる。一部再編して各国から精鋭を抽出して混成部隊を作るのも、士気向上にはいいかもな」

 お飾り部隊になりかねないがとエリオットは続け、意見をキムボールに求めるのだが。

「あー、それでいいんじゃないか」

 どうやら、部隊指揮、管理、参謀と諸事ができるエリオットが主体となって、話しをまとめているようだ。戦うことに長けていても、それらの諸事が苦手なキムボールは丸投げする気満々だった。

 こいつはと、呆れたようにエリオットはキムボールを睨むが、学生時代と変わらないなと、ふと懐かしさから笑みを浮かべると、そこへディーネがサインを伴って近づいてきた。

 表情が沈痛なために、エリオットがキムボールの肩を叩き、注意を促した。

「アキラが斬られたわ、魔王に」

 その力量を知るキムボールが真っ先に反応した。

「あいつが魔王に敗れたというのか!」

 魔王とはそれほどの存在なのかと。

「魔王オベロンを侮っては駄目よ。でも、斬られたことよりも、その後の話」

「治療が上手くいってないのか」

 王子であっても騎兵として戦場に出ることもあって、戦傷慣れしており、更には治療魔術によって、外傷は治るものという甘い認識がこの世界にはあるためのエリオットの言葉。治療魔術で真に恐れるのは、効きにくい病気一般であった。

 そのエリオットの問いかけに、ディーネが眼差しを伏せる。

 その場にいる者達は言葉を発する事も出来ない。

「……ブルーが暴れてるのよ。お兄ちゃんは許しませんって」

 聞いた大精霊を除いた全員が、理解不能な表情を浮かべた。

 何だそれはと。

「リーネとツキ、可哀想、ほんとに可哀想ですわ」

 そんなディーネの横では、サインがこくこくと頷いていた。


DH183 艦内 エーテル炉室

 頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドはツキとライラを拾い上げて、DH183に戻った。拾い上げる際に、連合部隊本陣近くに着陸したのだが、本陣にいたキムボールが頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドを間近で見てしまい、珍らしがり、一緒に乗って空母へ行くと言いだして、ディーネに頭をはたかれて止められていた。

 部隊を指揮する者が、部隊を離れてどうするのだと、こんこんと説教をディーネはすることになる。

 ツキは大精霊達に一緒にと誘うが、少し様子を見て転移するから大丈夫だと言われて、結局は来た時と同じメンバーで頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドに乗り込んで戻ってきた。シルとリータは言い争いに夢中で、放っておかれたが。

 戻って、すぐさまエーテル炉のある部屋に行くのだが、警備兵の許しを得て中に入って真っ先に目にしたのは、言い争うリーネとブルーの姿であった。

「お兄ちゃんは許しません!こんなどこの馬の骨とも分からない奴のお嫁さんになるのは!」

「だ、だ、誰がお嫁さんになると言ったの!だいたい、いつからブルーが私のお兄ちゃんになったのよ、妹キャラはノーミー一人で充分でしょ!」

 いま話題になっているアキラとノーミーは意識がなく、完全に蚊帳の外にある。

 事の発端はこうだ。

 顔に赤みが戻り、傷が金色の光に覆われ、どうやら何らかの現象が起きており、傷によりアキラが死ぬことはないと分かっても、リーネは顔を濡れタオルで拭ってやったり、することがなければ手を握り、励ましの言葉をかけたりをしていたのだが、最初は黙って見ていたブルーだったが、やがて、あんまり構ってやるなとか言い始め、それがだんだんと嫌味に変わり、ひいては当てこするような言葉に変わってきたあたりから、リーネが反論するようになったのだ。

 そして、ブルーの嫁か、嫁に行くつもりかとの言葉をきっかけにして爆発した。

 そもそもからして、リーネは敢えてこの場で口にはしないものの、アキラがやって来て以来、リーネは常にアキラにべったりだったし、それをブルーはたしなめるどころか、温かい目で見ていたはず。それを何をいまさらという感がリーネには強い。

 とにかく、嫁に行くというのは横に置いておくとして、リーネはこの犬は今更何を言っているのか、バカなのか、バカなのだろうと非難する。ただ、妹扱いされて嬉しい部分があるのは、けっして表には出さないが。リーネにも意地がある。

「何を揉めているの?」

 部屋に入って、いきなりの喧嘩を見せられて、レインがきょとんとした顔で、ノーミーの脇で椅子に腰掛けていたスノウの耳に口寄せ尋ねた。

 答えを聞かせるのに、さすがに憚れたのか、スノウはレインの耳に口を寄せ、音が漏れぬように手をかざして、事の経緯を説明する。

 すべてを聞き終えて、レインが華やぐように声を上げた。

「主様とリーネ?とうとう進展がありましたか?いや、私は意識がない時が長かったので、その間に何かありましたか?めでたいことですよね」

 そのレインの言葉を聞き、ツキが口を開く。

「進展があったのは、つい先ほどよ。やっとリーネがアキラに口づけたの」

 何の遠慮もなく、ただそれが普通で当たり前のように話すツキ。

 大きな声で言葉を交わすツキとレインに、極めて常識人のスノウが、あわあわと手を振って声を潜めるようにと願う。

 そして、それらの様子と会話は当然リーネとブルーの耳目にも届く。

「……!……!」

 真っ赤になるリーネ。

「許さん、許さんぞ!アキラ!」

 口づけたのはリーネなのに、何故か怒りの矛先をアキラに向けるブルー。

 アキラは絶賛意識不明中である。反論のしようもない。

 しかし、しかしだ、意識のある皆が、認めてやれよとのじっとりとした視線をブルーに向ける。それに気づいたブルーが、だっと扉に向けて駆けだした。

「許してやるもんかー。みんなけつの穴噛んで死んじまえ!」

 極めて下品な捨て台詞。ドラゴンの威厳とやらはどこへ行ったのであろうか。

 とにかく捨て台詞は定石通り残して、犬のくせに、器用に扉を開けて外へと駆けだしてしまった。

 分厚いドアは開いたまま。

 それを全員で呆れた表情で見るなか、レインがぽつりとつぶやいた。

「ブルーって、けつの穴が小さいですよね」

 すると、すぐに扉からブルーがひょっこりと顔を覗かせた。

「ちっちゃいよ!小さいよ!しかもむき出しだ!ドラゴンの姿の時はでかいんだぞ!」

 言うだけ言うと、ブルーはさっと顔を引っ込め、今度こそ本当に遠ざかっていくのが気配で感じられた。

 皆が、けつの穴云々を言い出したのはブルーだろうと、顔を見合わせる中、ツキが口を開いた。

「様子、見てきます」

「そうしてください」

 少し言い過ぎたかと、僅かに反省の色を見せるレインが、ブルーをなだめてくれるようにツキに頼む。

 それに頷いたツキが、開いた扉を抜けてブルーを追った。


わんわん:「ズボンを履こうかと思う」

社畜男:「トイレに行く時、自分で脱げるのか?」

++++++++++++++

幼女もどきの場合

わんわん:「トイレに行きたいんだけど」

幼女もどき:「はいはい、脱がせば良いんだよね(面倒くさいな~)」

++++++++++++++

大太刀の場合

わんわん:「トイレに行きたいんだけど」

大太刀:「脱がしますね(面倒ですね)」

++++++++++++++

社畜男の場合

わんわん:「トイレに行きたいんだけど」

社畜男:「何故、俺が男のパンツを脱がさないといけないのか?」

わんわん:「……それもそうか」

いや、他の二人も駄目だろう。

とにかく、ズボンなど履くな。

履くならオムツでも履いてろ。


次回、明日中の投稿になります。

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