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引き続き、
第9章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
一方上空では、頂天号が仰天号の周囲を舞い踊っていた。
地上を見ていたレインがくすくす笑う。
「姉上、楽しそうですね」
「そうだな、大太刀故にな」
軽口を叩くレインだが、仰天号から放たれる質量弾をひょいとばかりに、魔力を吹かして避ける。
更には、機首を中心にして尾部を振って、一気に進行方向を真逆に向けるなどの荒技を用いている。さらにはバレルを打って質量弾を回避するわ、空力に頼っていないにもかかわらず、コブラで減速してオーバーシュートさせるわで、スプリットSなどどこ吹く風で、機体を一点に固定して、一瞬で横転、空であるのに信地旋回するなど当たり前で、好き放題に機動していた。
ダンシングとはまさにこのことであろう。
それでもだ。
「うもー、ちょっと推力弱いですよ」
自分が要求するだけの推力が供給されていないのか、先ほどからレインはしきりと文句を言い続けていた。空力ではなく、推力に機動は頼っているためだ。
「無茶を言うな。機関がまだ十全ではない。まったく、重力の精霊でもいないのか」
「いますよ、おじいちゃんに頼まれて、そこらあたりウロウロして魔術行使してます。それより兵装といい、まったく中途半端な機体ですね」
さらには、だいたい、空間仕様の機体をこんな場所で使う事がおかしいとプー垂れるレインであった。ただし、使えてしまえるのがこの機体の恐ろしさではある。
そんな言葉を聞いたとなると、どれほど制作者であるアモンが憤慨するか。
ともかく、レインとクオーツにとって、まだまだ未完成の機体で不満ばかりであった。
一方、仰天号の操縦室は荒れ狂っていた。
「なんだ、前後が一瞬で逆になったぞ!」
遠ざかっていたはずの敵が、一瞬で進行方向を逆にして、砲を放ちつつ突っ込んでくるのを見て、あわてて舵を切るオベロン。
「瞬間的に機首のバーニアを吹かして固定、後尾のバーニアを横に吹かして機体全体を回したのでしょう」
荒れるオベロンの言葉に、冷静に分析をしてみせるディーチウ。すでに砲手であるフレイは狙うことを諦めており、弾をばらまいて弾幕を作ることに専念していた。
エーテル炉や機関の様子を見ていたディーチウだが、地上の様子も見ていたようだ。
「オベロン様、地上の兵が敗走始めました」
「やはり、あれが落としたのは新戦力か」
「恐らく、拳聖ライラと巫女姫のツキノナミダでしょう。千人単位の部隊を二つ降下させるのに等しいですね」
むーと、オベロンがうなり声を上げる。
「拳聖のライラは分かるが、ツキノナミダはそれほどか?」
「鍛冶の大精霊シルバー叔母様が自分の一部を使って打った剣ですよ。それに先日、シルバー叔母様と会ってますから、張り切っているでしょう」
どうやらディーチウはしっかりとアキラとシルの戦いを覗いていたようだ。
張り切ってなんとかなるものなのかと、オベロンは考えるが、地上を映す映像では、ツキが円を描くように水平に大太刀を振るうと、白いワンピースの裾が広がり円を作り、銀色の髪がその上でたなびいて、その周辺にいた兵士達の魔力が一気に剥がれる様が分かった。
「……撤退だ」
「どこまで?」
オベロンの言葉に、どこまでも冷静なディーチウが尋ねる。フレイは不安げな表情だ。初手の戦いが負け戦では、兵士達の士気に関わる。
「本拠地までだ。艦隊を立て直す」
「分かりました」
すぐに返答するディーチウで、命令を出すために船体をオベロンは降下を始めた。
だが、そんな中でフレイだけが納得していないようだ。不満顔でオベロンに告げる。もちろん不満はあってもオベロンへの忠誠は失っていないようで、主をたしなめるのも仕える者の役割と考えてのことだ。
「残るサラミスとレパントも前に出しましょう」
「戦意旺盛は良いが、ここで先に追い払った飛行体が戻ってきたらどうする。トロイアだけではなく、艦隊すべてを失うことになるぞ」
それに、必ず本体である艦隊がまだあるはずだとオベロンは続ける。
確かに、フレイはその点を失念していた。
「……撤退いたしましょう、艦隊に対空火器を備えて試験いたします」
魔力弾を絞って連射する砲を開発していたのだが、一発の威力が弱かったために、有効性が疑問視されていたために量産にはいたらなかったが、対航空機となれば、多少照準が甘くとも、弾幕を張るなどして有効であろうと、今この場でフレイは転用を考えていた。
「戦術検討も頼む。もう、この仰天号も露出したことだし、仮想敵として利用しろ」
その言葉に、忠告をしたことで、オベロンからの信頼は失っていないことを知り、フレイは胸をなで下ろして答えた。
「分かりました、鋭意検討いたします」
うむとばかりにオベロンは頷いた。
幸いなことに、撤退作業は、未だに艦隊の内四隻が残っていたために、殿に被害を出しつつも順調に上陸した部隊を回収することができた。
ライラとツキが各々単独で追撃を仕掛けてきたものの、足場の悪い砂漠奥深くまで入ることを嫌い、それほどの被害は生じなかったが、その戦いのすさまじさに、怯える者が多数出たのはオベロンにとっては痛い被害であった。
空にあっては、頂天号の兵装が十分でなかったため、仰天号が高度を大幅に落として、地上部隊に覆い被さるようにして庇っていたので、大きな被害はなかった。
送り狼のように追尾してくるE229とE230が不気味であったが、撤退は出来たのだ。苦い感情を抱えて。
魔王:「なあ、トロイアとかサラミスとかって、どんな意味だ?」
メイド:「私も存じておりません。クソ爺様の命名ですので」
だよな。
次回、明日中の投稿になります。