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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第9章 LA・LA・LA LOVE SONG
170/219

9-4

引き続き、

第9章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 甲板の上に出たクオーツが見たものは、細長い流線型をしたものだった。長さは魔王の操っていた飛行体よりも二回りほど短い。F-3よりも大きく、仰天号(アメイジング)よりも小さいといったサイズだった。F-3のように大きな翼めいたものはなく、その代わりのような小さな翼のようなものが各所に取り付けられていた。

 小さな翼に取り付けられた棒状のものが、とにかく目についた。

 機首から尾部まで視線を送ったクオーツがレインに尋ねた。

「この形、流線型の意味は?」

「速度を出すためだって。空気とかエーテルが邪魔をしないようにって、アモンが自慢げに言ってた」

 見えないものが、どうやって邪魔になるんだろうと首を傾げるレインだったが、宇宙空間に長くいたクオーツには分かった。移動する物体に対してエーテルは抵抗を生む。恐らくは速度を上げると空気も同様の性質を持つのだろうと。

 だが、それを言葉にしてレインに説明するのは難しい。クオーツは必要であれば、操縦を担当するレインに都度説明すればいいだろうと、あえてこの場では何も言わないことにする。

 こっちから乗れるからと、レインはクオーツに先立って歩き、頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドの脇腹に空いた入り口に向かう。

 機体の内部に設けられた、短い廊下を抜け、小さな部屋に入る。

 慣れたように、一番前に設けられた席ではなく、その横に備えられた席にレインは腰を下ろして、クオーツを振り返った。

「そこがエーテル炉制御体の場所だから。そこから繋がって」

 クオーツが指差す方向には、部屋の一番後部になる場所に円柱型の透明なタンクがあった。クオーツがしげしげと眺める、とはいっても猫の外装を操って、それらしい仕草をしているだけだが、上下を見てみれば、幾つものケーブルが繋がり外部へと天井と床を貫き通っていた。

「もしかして、このシリンダーに、外装を剥いだ私を放り込むつもりではなかったか?」

 少し沈黙が落ちた。

「……あはは、そんなことはないと思うよ」

 何故か、レインの顔は汗にまみれていた。

 やれやれと一言の後に、クオーツの背中の触手が伸びて、そのケーブルに突き刺さった。

「エーテル炉内部を調べればどっかにテキストがあるから。テキスト化された情報なんて簡単に把握できるクオーツなら制御の仕方は分かるでしょう」

「もちろんだ、しばらく待って欲しい」

 刀のツクモガミと水晶(クオーツ)との会話である。人や獣人には理解出来ないものでも、それがエーテルや魔力に類するものであれば、人外の共通認識で理解は簡単だ。

「この船体のエーテル炉は、ほぼ私の複製だな。知性がないのを除けばだが」

「変換効率はクオーツよりもずっと良いって。その分だけ、知性が根付かなかったんだって」

「なるほど、興味深いことだな。落ち着いたら考察をするとしよう」

 触手をケーブルに突き刺したまま、クオーツは手近の椅子に飛び上がり、そこに丸くなって寝そべった。

 レインは、前部にて両腕を操作盤らしき台に差し込んでいた。その穴の内部では、多くのコードが自らレインの腕にへばりついていた。どうやらクオーツと同様に、スイッチなどを触ることなく、この船体を操作できるようだった。

 アモンが定めた発進直前のチェックリストを一瞬で確認し終えたレインが、気配を感じて後ろを振り返る。するとそこには今しも入り口から姿を現すブルーがいた。

「俺も一緒に行くぞ」

 良いだろうなと言いつつ、ブルーもクオーツ同様に椅子の上に飛び上がって丸くなる。

「もちろんです。ご一緒、お願いいたします」

 誰がスカイドラゴンの願いを拒めるであろうか。それに、いつになく、ブルーの表情が真剣であるように、レインには見えた。

「発進します。甲板を空けてください」

 その言葉は、艦橋の伝声管へも届けられた。本来であれば、物理的に空気の振動のみで言葉を伝える役割しかない伝声管を、レインは魔術的に魔力を振動させて行って言葉を伝えたのだ。

「甲板作業者にクリアを確認させる。しばらく待て」

 これは頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドの側面の外に設けられた伝声管から伝えられた。伝声管とは言っても、ラッパ型ではなく、エーテル炉から生み出される、有り余るだけの量を誇る魔力を振動させたもの。空気の代わりを魔力がしていると考えれば理解出来るだろう。

「兵装は一門しか使えないぞ」

「あー、間に合わなかったんだって。副砲一門だけでなんとかしろって、アモンが守護地(フィールド)で言ってた」

 クオーツからの苦情を、自分の責任ではないとさらっと躱すレイン。それに、苦い表情を作ってみるクオーツ。猫の顔では少々分かりづらいが。

「兵装の操作は私がするから、クオーツはエーテル炉の制御と航法を担当して」

「分かったよ」

 そうやって、大まか部分だけでも分担を明確にしていると、再び外部から連絡が入った。

「航空甲板クリアだ」

 つまりは、甲板上には思いもよらない異物はなく、甲板作業員等の人員は待避を終えたことを知らせるもの。

 その連絡を受け、レインは言葉を発した。

「では、頂天号トップ・オブ・ザ・ワールド発進!」

 ドンという音が甲板に残されるだけだった。

 後ほど、F-3の発進を見慣れている甲板作業員の一人が語り伝える。

 風を残して消えるというのは、ああいうことなのだと。


 操縦室前方には、大きなガラス面が設けられており、外の風景を投影していた。内部では加速などによる加重の影響は受けていない。F-3や仰天号(アメイジング)とは違って、魔術的に外部からの影響を排除しているからだ。

 しかし、その速度は機首を赤熱させ、空気の中のエーテルを破壊して虹の火花を生んでいた。

 シールドなど張っている様子はないが、船殻だけでそれらの衝撃を防いでいるのだ。アモンは魔術を用いた鍛冶で、単一分子で構成された物質の精製に成功していた。その単一分子で作られた物質は、この世界で最も硬いものであったが、ほんの僅かな可能性であっても反物質分子との接触により対消滅の可能性があり、それを防ぐため、性質の違う分子を幾重にも重ねて船殻を作り上げている。

 赤熱も船殻が赤くなっているのではない、圧縮された余剰のため放出された魔力が赤くなっているのだ。

 前部の映像の一点を指し示す矢印が現れた。クオーツが映したものだ。

「これが魔王の飛行体だ」

 それに向かうために、レインが機首を僅かに動かして進行方向を変化させると、やがて黒点であったそれは、みるみる大きくなっていく。

「なにか、落下している……」

 レインがそう呟いた後、更に加速される。

「何かあったみたい、主様達が落下してる!」

「敵の飛行体に牽制をかけつつ、減速しろ。アキラの下部に潜り込んで回収するんだ」

「分かった!」

 後方へと噴出されていた魔力が弱められ、代わって前方へ向けて魔力が噴出される。さらには、機首から仰天号(アメイジング)へ牽制のための魔力弾が発射された。精密に照準する暇がないためだ。

「上部ハッチを開放しろ。俺が出て誘導する」

 そう言ってから、ブルーが椅子を飛び降り、後部の入り口から出ていく。


 短い廊下を駆け、開けられたハッチにたどり着いたブルーは、器用に床と壁を蹴ってハッチを潜り、外へと出た。

 レインの操縦は的確で、みるみるブルーへとアキラ達が向かってきた。いや、現実には向かっているのは頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドの方なのだが、加速の影響をキャンセルされている今、ブルーの感覚ではアキラ達がこちらへと向かってくるように感じられるのだ。

 頭上にやって来たアキラ達が乗るシールドに、ブルーは飛び乗った。そして先ず目にしたのは、腹から大量の血を流し、内臓を見せているアキラの姿。

「あのハッチから中に入れ!」

 ブルーがリーネに命じる。

 アキラの傷口を手で押さえたリーネが、浮遊の魔術を操作して、シールドをハッチへと向け、飛び込むようにして中に入った。

「ハッチ閉めろ!回収した!」

 ハッチが閉まったことも確認せずに、ブルーは操縦室には戻らず、リーネ達を別の部屋へと案内した。

 部屋にはベッドがあり、簡易の医務室になっているようで、すぐにリーネとツキは、アキラの身体をベッドに横たえる。

「手ひどくやられたようだな」

 大きな黒の羽根を広げたリーネが、グスグスと泣きながらも状況を気丈にも説明した。特に語るべき事は、リーネの幾重にも重ねられたシールドが何もないかのようにスルーされ、さらにはアキラを本来覆っている魔力までもがスルーされたこと。

 黙って聞いていたブルーだが、視線はリーネの背にある翼に向けられていた。

「……、DH183に戻る」

 そう一言残し、ブルーは部屋を出ようとするが、それにリーネが言葉を投げつける。

「アキラは大丈夫だよね」

「大丈夫だ」

 気楽にもすぐに答えるブルーに、理不尽極まりないことに鋭い視線をリーネが投げつけ、更にはブルーの背中に掴みかかろうとするが、それはツキによって止められた。

 ツキを腹に抱きつけたまま、リーネが吠える。

「何故そう言い切れるの」

 激情混じったその言葉に、ブルーは背を向けたまま応えた。

「大丈夫なんだよ」

 ブルーの顔は下を向いており、声色には悲しみが混じっていた。そして、小さくリーネには聞こえない声で、お前もすぐ分かる。情報制限が一部解除されるはずだと。

 部屋を後にしたブルーは、短い廊下をとぼとぼと歩いて、操縦室に戻った。その気配を感じてすぐさま、レインが振り返った。

 頂天号トップ・オブ・ザ・ワールド仰天号(アメイジング)の攻撃を避けているが、レインは前を向いていない。すでに船体と一体化しており、各所のセンサーを利用しているため、目視に頼ることはないのだろう。それに魔力弾をたまに受けたとしても船殻が弾いている。しかし、それがどれほど保つかは分からないため信用するわけにはいかなかったための回避。

「主様はどう……」

「お前、腹斬られて死ぬか?」

 質問に質問で返したブルーに、レインがきょとんとした表情になる。

「いえ、魔力とかエーテルを持って行かれると厳しいですが、物理的に斬られた程度では問題ありません。戦闘には支障がでるかもしれませんが」

 椅子に飛び乗ったブルーが、苦い表情で顎を、前に地面に落とした前脚に乗せた。

「そういうことだ」

 そして、くそったれと呟くのだった。

 それを聞いたレインは、首を少し傾げた後、一言帰投しますと告げ、機首をDH183に向けるのだった。


コズミックガールしかし胸はない:「頂天号トップ・オブ・ザ・ワールド発進!」

わんわん:「えーと、実際にやると、衝撃波で甲板上にいた人、何人か死にます」

社畜男:「戦艦大○の主砲砲撃実験で、甲板に置いといたネ○ミが爆散したみたいに?」

みたいなものです。


次回、明日中の投稿になります。

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