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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第1章 天使(エンジェル)
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誤字脱字、直しつつ始めて行きます。

どうか、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

 会長補佐室で、ミュール・リリスは兵士から報告を受けた。

 兵士を下がらせたミュールは、机に肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せて考えに沈んでいく。

 検問をはさんでの膠着状態。

 ミュールとしては、国境から入り込まれての戦線の膠着を予想していただけに、上出来だと考えていた。

 しかし、これが戦力の均衡からの膠着ではないと見抜いていた。

「さて、エリオットはどう動く」

 情報を得るためにも、リータからシルを通じて、連絡をすることを考える。いや、もしかすると、エリオットその者が前線に出ている可能性もある。その姿は確認されてはいないものの、あり得る話だとミュールは思い、さらに考える。

 財団(ファウンデーション)の国境でにらみ合い、帝国が何を得るのか。何を求めているのか。

 武力を背景にして、交渉を有利に運ぶためか。

 僅かばかりの土地を侵食し、それを人質として、食料の禁輸と買い占めを止めるように要求してくるか。

 ならば、なぜ国境線で止まる。先に一撃を加えた有利を、なぜ捨てる。

 ミュールは一石を投じることとする。

「まずは、キムに救援要請ですね」

 ミュールは秘書長を呼び、庭園へ向かう旨を伝えた。


ブセファランドラ王国 王都パリス郊外

 王都郊外に設けられた練兵場。その一角にある建物。キムボールは一室に置かれたソファに座っていた。前には流れる水のような翼を背に持つ、大精霊ウンディーネが座っていた。

 小国ではあっても、帝国以上の歴史を誇る王国。他国からは恐れられ、うらやましがられるほど、複数の大精霊が住んでいた。そのうち、王家と盟約を結んでいるのがウンディーネ、王族からは親しみを込めて、ディーネ様と呼ばれている。

「国境線で戦線は膠着か……」

「リータが言ってきたのは、それだけよ」

「すぐに、向かう」

 リータを通じての救援要請を受け、すぐに行動を起こそうとするキムボール。

「どうやって?」

 王国と財団(ファウンデーション)は国境を接していない。守護地(フィールド)を抜けるか、帝国との国境を突破して、回り込むしか道はない。

 財団(ファウンデーション)の要請は明らかに無茶なものだ。

 しかし、故に狙いは分かる。

 おそらく、ミュールは攪乱を狙っている。キムボールが戦場まで、救援に駆けつける必要はなく、それを実行しようとするだけで、いや、実行できれば、なお良いが、帝国はそれに対応せざるを得ない。

 帝国の動きを受けて、帝国との国境へ大部隊を送っているが、それは守備のためだ。いかに王子であるキムボールであっても、軍権を持つ王の指示を無視するわけにもいかない。

 国境で指揮を執るのは、カロニア伯爵であった。王子のお目付役を自任しており、キムボールは下手に絡むと、ろくでもないことになるなと感じていた。

 自由に動かせる兵力を思い浮かべる。

 近衛の一部。百にも満たない。

 国境を突破することも、スカイドラゴンの目を盗んで、抜けていくことも不可能だ。

「シル様には連絡をしたのか?」

「シルお姉様には、無視されました。無視ですわ」

 表情はあまり変わらないものの、ディーネがちょっと怒っている事がキムボールには分かった。生まれたときからの付き合いで、表情には出なくとも、気に掛けてくれていることは分かっている。微妙な表情くらいは読み取れる。

 少し苦笑を浮かべ、帝国から情報を得るのは無理だと、キムボールは判断した。

 背後に立つ従者に、出陣の用意を命じたキムボール。

 そして、改めてディーネに向かい合う。

「それじゃ、スカイドラゴンへ連絡してくれないか。境界でお会いしたいと」

「また無茶を言いますね。絶対に無視されますわ。無視ですよ」

「ディー、頼むよ」

 最後の手を使う事にしたキムボール。

 ため息つくディーネ。

「また、その手を使いますか」

 しかし、仕方がないとばかりに立ち上がったディーネ。顔がわずかに綻んでいる。

「少しばかり、時間をください」

 手を尽くしてみましょうと告げる。

 すまないとばかりに、頷くキムボールだった。

 そのキムボールの顔をみたディーネは、ため息つきつつ、ブルーのところへ直接出向くことも一案かと思う。あの子に会う、言い訳になるだろうし。そう考えると、煩わしい願い事も、楽しい用事に思えてきた。


蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールド ログハウス

 ログハウスの庭で、アキラは一枚の平板を、手で抑えていた。その横ではのこぎりで平板を切るブルーがいた。

 趣味である。

 朝食後、ブルーはアキラの部屋に据え付ける、タンスを作ることを宣言した。今切っている平板はそのためのもので、製材もブルー自身が行い、乾燥させていたものだ。

 住んでいるログハウスも、ブルーがスクラップ・アンド・ビルドを繰り返したもので、DIYの趣味から大きく外れていた。

 図面はブルーの頭の中にあるのか、スケール代わりのひもを使い、長さと幅を測って板をすでに何枚も切り出していた。

 その側では、椅子を持ち出したリーネが座っており、膝に乗せたかごで、豆のへたを取り除いていた。時折、嬉しそうな視線をアキラとブルーに送ってくる。

 小鳥のさえずりが聞こえ、合間に獣の吠え声が混じる。

 いたって平穏な景色であった。

「日差しが強くなってきたな。もうすぐ暑くなるな」

 体力は、おそらく人を遙かにしのぐであろう、ドラゴンのブルーが、妙に人間くさい仕草で額の汗を腕で拭う。

「季節があるのか」

「もちろん。照りつける強い日差しの時期もあれば、雪が積もる時もある。森では葉が落ち、新緑に満ちる時もある」

 この世界、いや、この地域では明確な四季が存在する。アキラが転移してきたのは、春の半ばであった。

「冷えたエールが、さらにうまい季節がくるな」

 ローダンに頼んで、50樽ほど取り寄せるかとブルーが言う。

「いいな、それは」

 普段は酒の類いは口にしないアキラだったが、暑い日の仕事終わりに飲むビールのうまさは知っていた。

「あー、またツキに怒られるよ」

 どうやら、リーネによれば、やはりツキはログハウスに酒類を持ち込ませたくないようだ。

「それより、暑くなったら泳ぎに行こうね!大きな湖があるんだから」

 それを聞き、アキラは想像する。もちろんリーネとツキの水着姿を。二人とも規格外のスタイルだ。健康的なリーネのビキニ。シックなビキニを着こなすツキ。

 いや、そも水着が存在するのか。そしてアキラに思い浮かぶのは、文明開化にて、海水浴の文化が広まりし頃の、長袖長ズボンの、極力肌の露出を抑えた女性用縞々水着。

 あれに色気はあるのだろうか。見る人によっては魅力的かも知れないが。

「今年は、私ビキニにするんだ」

 宣言するリーネ。それにブルーが「ローダンに、かわいいのを見繕ってもらえ」と応えていた。

 あるんだ、ビキニ。胸をなで下ろし、期待に胸弾ませるアキラだった。

 台所から出てきたツキが、「何やら不穏な話を……」と眉をひそめる。それでも、暑い日に、泳ぐのは楽しみだとも言っていた。

 次の瞬間、全員が一斉に空を見上げた。

 視線の先には何もない。青い空に白い雲がひたすら流れていく。

次回、明日中には投稿いたします。

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