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引き続き、
第9章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
エーテル炉の脇では、担架からベッドに移されたノーミーが横たわっていた。ディアナはノーミーの服を脱がし始める。他の大精霊と違って、ノーミーの服は人や獣人が作ったもので、物理的に除去する必要があったからだ。
ペノンズはノーミーに背を向けている。特に誰に命じられた訳ではないが、裸身を見ないようにしているのだろう。
「シーツを掛けたから手伝って」
研究者の口調になっているディアナに言われて、ようやくペノンズがノーミーを見る。
「エーテルの補給はどうするのじゃ。このままだと、かなり時間がかかるぞ」
「直接注入する」
その言葉にペノンズは怪訝な表情を浮かべてどうやってと尋ねた。
「直接ぶっ刺す」
ディアナはその言葉とともに、手にしていた複数の細い針を、次々とノーミーの脇腹に刺したのだった。一見無造作に刺しているように見えるが、ペノンズはその刺す位置が、精霊の体内エーテルの集中点、ツボのような点で、エーテル補充に的確な場所である事に気づき、改めてディアナのことを見直すのだった。
その光景を壁に沿って立っていたクオーツとレインが見ていた。
「無茶をする」
「うーん、そうだね。でも私も似たようなことをされたよ」
「誰だ、それは?」
その言葉の感じから、やったのがディアナではないと感じて思わずクオーツが尋ねる。
うーんとねというように、顎に指を当てたレインが言いよどむ。
何か言えぬ理由があるのかと、クオーツは思うが、とにかくレインの応えを待つことにした。まだかかると思われていたレインを元に戻す作業を、瞬く間に終えてしまったとなると、よほどの名手であるのだろうと、クオーツは知りたかったからだ。
レインが言いよどんだのは、ご老人、おじいちゃん?と呼び方に悩んだためであった。
「おじいちゃん。アモンっていう」
決まったようだ。
どうやら隠すような、大した理由はないようだと、ならばとクオーツはそのことに対して問いかける。
「腕利きのようだな」
「ディアナが、やっぱりさすがってびっくりしてた。昔の知り合いだって」
「なるほど、それで人型にもなれるようになったのか」
もともと、レインは人の形になることはなかった。そこがツキとは大きな違いだったのだ。
えへへと笑ったレインが、ディアナとアモンの見解では、一旦半身を失い、魔力と生命力を強制的に受け取った副作用で、ツクモガミであっても精霊の性質が表れているとのことだった。
もともと厳密には、この世界ではツクモガミも精霊の一種と分類されており、実際人型になるツクモガミも存在していた。
「それでは一時のことか?」
「ううん、このままだって、しばらくは」
試みに人型になったところ、戻れなくなったのだと。
もちろん刀の姿にもどることは先々可能だ。ただ、今は生命力が足りず出来ないとのことで、そのためかアモンという老人は直接操作出来ないではないかと憤慨していたとレインは語る。
直接操作と聞き、何に乗ってここに来たのだとクオーツが尋ねる。
「頂天号。すごい空を飛ぶ船。私が操縦してきたんだよ」
ずいぶん自慢げに言うレイン。
それを聞いて首を傾げるクオーツ。魔王の持つ飛行体とかF-3のようなものだろうかと想像をするが、レインが言うには、攻撃から戻ったF-3が着艦するスペースを空けるため空で待機していて、もう少ししたら戻ってくるとのことで、それを聞いたクオーツはなるほどと、それまでは楽しみにしておこうと思うのだった。
だが、それはすぐにもやって来た。
バンという大きな音を立てて、分厚い扉が開けられ、背後から羽交い締めする警備員を引きずっている、頬に傷ある老人がエーテル炉の部屋に入ってきた。それを追いかけて、あわあわと両手を前に突き出す姿でエンが駆けて来た。どうやら前進していた艦から転移で戻ってきたようだ。
「あのバカは苦戦しとるんじゃろう、バカ息子にな!」そしてノーミーを指差し「大精霊がこんな姿になっとるんじゃ。レイン、頂天号で迎えに行ってこい」
更にはじろりと視線を猫の姿のクオーツに向ける。
「お前は尊き残されし物だろう。エーテル炉の制御を計算機代わりに任すから接続されろ。レインと一緒に行ってこい」
それから、細かい調整が済んでいないから、それも任すと言う。
尊き残されし物と呼ばれ、何のことかと理解出来ないクオーツだが、視線から自分を指すものだと知った。
「繋げられれば可能だろう」
「甲板に乗せてある。行ってこい」
そう言い残して老人は警備員を後ろに引きずり外へと出て行った。それをあわあわと、なぜか腕を頭の上で振るエンが追う。泣きそうだ。
感情がないためか、ただその姿を見送るクオーツにレインが声を掛けた。
「あれがアモン。共和国の最高機密存在だって、あんなでも」大きくため息をつく「さっ、行こう。着艦のために甲板を空けてたのが戻ったんだよ」
「頂天号が?」
「そう、頂天号だよ」
行かねば分からぬかと、レインはクオーツを伴ってエーテル炉の部屋を後にするのだった。
にゃ~にゃ~:「……何も言うまい」
コズミックガールしかし胸はない:「仕方ないじゃん」
じじい:「えっ、格好いいじゃん!」
えっ!!
次回、明日中の投稿になります。




