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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第9章 LA・LA・LA LOVE SONG
167/219

9-1

新しく第9章を始めさせていただきます。

どうか、よろしくお願いいたします。

砂漠 戦域外 ???

 赤茶けたローブに、付属しているフードを被った男が、炎上している魔王の船の上空、飛行体仰天号(アメイジング)を眺めていた。

 目を凝らしている様子はない。遠見の魔術を使用しているためであろう。

 しきりと顎を撫でている。

「ようやっと、重力のくびきから逃れられたようだな。全く、どれほどの時代を無駄にしていた事か。導きもせぬ精霊とは……」

 そこまで言って、おっとこれは不敬であったなと、付け足すかのように呟く。嫌味などではなく、真面目な表情から察するに、ただ単に心底から呆れている様子がうかがえる。

 その目が、ツキの介入によって仰天号(アメイジング)の上部から逃れ、宙を舞ったアキラの姿を捉えた。

「しかし、魔王程度に斬られるとは。言うほどのものではないな」

 今度は明らかに、嘲りが混ざった笑いを浮かべていた。だが、魔王程度と言ってはみたものの、自身が戦って勝てるとは思っていないようだ。事実、仰天号(アメイジング)から落ちようとしているアキラに追撃を掛けようかと考えたが、そうすれば必ず魔王は攻撃を仕掛けてくる。

 正面切って戦い、勝てる算段がない以上、ここは避けるにしかない。

 しかし、仰天号(アメイジング)には興味があるのか、視線は外さない。

 初手から戦闘艇とは、初めてにしては、出力が大きそうだとか、色々と観察して得た知見を知らずのうちにだが口に出しているあたり、周囲に聞く者などいないと考えているのだろう。実際、周囲には、探知の結界とでも言えるような魔術が仕掛けられており、警戒は厳に行われている

 だからこそであろうか。

 その背後、遙かな高みにキラリと反射した小さな光と、焼けた赤、まき散らされる虹の火花がある事に気づかなかった。

「そろそろ、我が戦力が整った頃だろう。先ずは……」

 背後の異変に気づかず、思索に入るのだった。


砂漠 仰天号(アメイジング)付近

 仰天号(アメイジング)の上空に、アキラの姿があった。

 その身体を抱きしめる力に、リーネは我に返る。

 先ずはシールドを作り、アキラの腕を解いて、その身体をシールド上に横たえ、リーネやアキラの周辺に浮遊の魔術を発動させた。だが、先ほど減速に使用した時には目的に適っていたが、アキラとリーネ、更にはシールドという足場が出来たことによって、ツキが自身でもある大太刀を持った人の形に戻っており、全員で高度を維持するほどの力はなかった。

 しかし、落下速度は落ちてくれたために、ゆっくりと砂漠に向かって高度を下げていく。

 飛行体にとっては良い的であろう。

 仰天号(アメイジング)から狙い澄まして魔力弾が放たれた。それに真っ向からツキが大太刀を振るって断ち割る。

 単発では防がれると判断したのか、仰天号(アメイジング)からの射線が増え、魔力弾の数が複数になるが、数が増えたから何だとばかりに、縦横無尽にツキが振るう大太刀がすべて迎撃してたたき落としていた。

 ツキを信頼しているために、リーネは撃ち出される魔力弾に注意も向けず、ただひたすらシールドの上で寝かされたアキラの斬られた胴を手で触り、傷を見た。

 服はもちろんのこと、腹が切り裂かれていた。

 リーネは鼻をぐすぐすと鳴らし、目には大粒の涙を浮かべている。

「アキラ……、アキラ……」

 そう呼びかけながら、アキラの傷口に手を当てて、治療の魔術を試みる。

 腹圧のために、傷から内臓がこぼれそうになり、リーネは手でそれを押し戻そうとしていた。傷口から見える内臓のおぞましさも、止めどなく流れる血も気にする様子もない。

 アキラの流す血がシールドに広がり、リーネの水色のワンピースを血に染めていく。 

 精霊との親和性が高いリーネであるが、治療の魔術は人や獣人の持つ固有の魔術だ。故にスノウなどは通常の魔術とは別に、治療の魔術も得意としていた。人でも精霊でもないリーネが、効果が低い治療魔術が使用出来るだけでも大したものであるのだ。

 そんなリーネの治療魔術でも効果があったのか、傷口は塞がらぬものの、アキラの顔がゆがみ、意識が戻った事が分かった。

「大丈夫、アキラ!意識をしっかり持って!今、助けるから」

 そう呼びかけるリーネの手を、しっかりとアキラの手が握った。

「……汚れた手で……ごめん」

「ううん、汚れてないよ。ちょっと血がついてるだけだよ!」

「……いや、俺の手は真っ赤だ……。洗ってもとれない汚い手だよ」

 それを聞いて、鼻をぐすぐすと鳴らし、涙を浮かべて頭を左右に振って否定するリーネ。

「そんなことないよ。アキラの手はキレイだよ」

 リーネの目には、アキラが微笑んだように見えた。

 そして、アキラが零した言葉。

「最後かも……言わなかったこと、ツキにも伝えて……二人には言えなかった事が……」

 零したのは小声であったため、傷口を押さえた手はそのままに、リーネはアキラの口元に耳を寄せていた。

「言わない……つもりだった」

「うん、うん、そんなの知ってた。ツキも知ってるよ」

 続けてリーネは頬をアキラの頬にすり寄せて、言えないんだよね、言うことが出来ないんだよねとささやく。

 更には、アキラの手が汚れていたとしても、私がキレイにしてあげるとリーネは語る。

 それを大太刀を振るいつつ耳にしたツキは、溢れる涙をぬぐうこともしない。

 ようやく得た真の主。定められた主。

 それを助けるには何が出来る。

 ただ、こうして大太刀を振るうだけしか出来ないのか。斬るために生まれてきた。斬ることが自身の証明であった。殺し、破壊のための器物、兵器。

 生かすことの真逆の存在。

 この時だけは口惜しかった。自分という存在が。

 思いは同じ。いやそれ以上だ。リーネは守り手として、自分の不甲斐なさに自らに激怒すると同時に、自分の傲慢を嘆く。

 何が守るだ、蔦たらんだ。

 詫びても詫びきれぬ。

 そんな想いが弾けた。

 その時、ツキは見た。

 リーネが目蓋を閉じたアキラに口づける姿を。ツキに嫉妬などはなく、ようやくかという思い。

 次の瞬間、リーネの背に獣の黒の羽根が広がった。それも今までになく、倍する以上の大きさの翼が。僅かに薄く黒い光さえ放っていた。

 青ざめていたアキラの顔に、僅かに朱が戻る。そして、翼はアキラばかりでなく、ツキをも守るように広げられた。包み込むように。

 ツキが大太刀を鞘に納め、アキラの脇に跪く。

 翼は強固なシールドとなって、魔力弾を弾いてくれるため、ツキが対する必要がなくなったためだ。

 アキラの首筋に手を当てて脈を診て、胸板に耳を当て鼓動を確認するツキ。

 まだ大丈夫だと、僅かに表情を緩める。

 そして耳にした。

「私の心は私のもの。命令(プログラム)なんてくそ食らえだ」

 そのリーネの言葉に、ツキが顔を綻ばせてゆっくりと頷いた。

 アキラの頬に自らの頬をすり寄せるリーネ。

「偽りなく……好きです、愛しています、だから、だからぁ!」

 それを見ているツキも、この場に相応しからぬ微笑みを浮かべ、知らず呟く。

「愛していますよ、大事な大事な主様……」


幼女もどき:「(ポッ)」

大太刀:「うんうん」

とりあえず、

わんわんはどっかに隠しておきました。


次回、明日中の投稿になります。

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