8-21
引き続き、
第8章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
空を見上げる。
DH183とDH184から発艦していたF-3はすでに残り一機になっていた。
残っているF-3を操るのはクオーツ、後席に座って各々魔術を発動しているのはスノウとノーミーであった。
実はクオーツが操る機体は、帰還可能な行動限界時間はすでに超えていた。ならば、不時着覚悟で戦っているのかというと、そうではなかった。
機動しつつ、クオーツは機体に備えられているエーテル炉を分析していた。
そして気づいたのだ。クオーツ自身のエーテル転換を使用すれば、行動時間の延長できると。もちろん、延長であって無尽蔵では無い。
すぐさまスノウにそれを伝えると、当然のように戦闘の継続が返答された。
だが、スノウとノーミーの魔術は、巨大なエーテル炉を利用出来るディーチウが張るシールドを破ることも、一度はできた中和も対応されてする事も出来ない。逆に仰天号からの攻撃を避ける事が今まで出来ていた、クオーツの機動が賞賛されるべきであろう。
ただ、感情のない、いや乏しいクオーツにして、そろそろ不味いと思われる事態になっていた。
敵の射撃を行う搭乗員フレイが、クオーツの機動を読み始めていた。
出来るだけランダムに回避しているつもりであっても、先に逃げる先を限定されて、見越し射撃に飛び込むしかない局面が増えていた。つまりは追い込まれつつあった。
幸い、ノーミーが張るシールドによって機体そのものに被弾、被害は生じていないものの、この先二連、三連、四連と続けて撃ち込まれては厳しいであろう。
そして、それが実現してしまう。
一射、二射でノーミーのシールドが破綻した。
三射で機体に被害が生じた。しかもあろうことか、被害は操縦席近く。
そして、四射目が操縦席後部に命中した。
素早くクオーツが自らの触手を断たれたケーブルの代わりとし、最低限の飛行が行えるように修復した。
しかし、機体そのものでは、被害は乗っている者に生じていた。
ノーミーがスノウを庇ったのである。
被弾した瞬間、ノーミーは四肢を広げてスノウに覆い被さった。爆発からスノウと自らを守るために、反射行動でシールドが張られたが、敵の魔力弾はそれを貫き、スノウの身体を直撃した。
幸い、スノウの身体は覆い被さってきたノーミーを支えきり、受け止める事ができたため、スノウに被害は生じていない。搭乗席の側面が破壊されたにすぎないが、シールドを張るための反射行動は、ノーミーの身体のエーテルまでも使用することになり、意識を失わせることになった。
「ノーミド様!」
ぐったりとスノウに寄りかかるノーミー。
素早くノーミーの各所をまさぐり、傷が無いことを確認するスノウだが、もともと精霊の状態を確認する知識や術など持たない。
考えに沈んだが、それは一瞬のこと。
スノウはノーミーを機体の外に押し出した。
それは捨てたのでは無い。
事実、スノウの身体には隠蔽と浮遊の魔術が掛けられており、ゆっくりとノーミーの身体は地面へと向かっていく。
魔術を発動する精霊にあとは任せて、その姿を見送ったスノウが命じた。
「機体を敵の胴に向けて」
「それはぶつけるということか」
「その通り」
スノウの言葉に、クオーツはためらいも無く機首を仰天号へと向ける。スノウはスノウで、シールドを機首に集中させる。
仰天号から発せられる魔力弾が数を増す。スノウの意図に気づいているのだが、投影断面積が最小となり、それを集中したシールドが守っている。
一部の魔力弾がシールドから外れている翼に命中するが、F-3が飛ぶのに支障がある部分ではない。あくまでも翼は兵装ラックのためのものでしかない。
翼を破壊され、構造体がもぎ取られても、クオーツは仰天号を目指す。回避も最小限に留める。推力を全開にしようとした時、ひょっこりと言うように、搭乗席を覗き込む姿があった。
「ノーミーを落としちゃ駄目だよ」
何故この場所に。空を飛んでいる事を忘れていないスノウが、引いて逆方向に逃げだすほど驚き、目を見開いていた。
「ここ、空なんですが」
「知ってる。リーネがシールドで足場を作ってくれた」
今は、機体に掴まっているけれどとアキラは続ける。どうやら、リーネが作ったシールドの足場を、階段のようにして駆け上がってきたようだ。左腕にはリーネを抱いており、そのリーネはその高度にも恐れず、ニコニコと笑っていた。
そして、アキラは途中で拾い上げたであろう、右腕で抱いていたノーミーの身体をスノウの膝の上に投げた。
「身体が所々透けている。維持できていないから、すぐにDH183に戻ってエーテル炉の側に寝かしておくんだ」
しかし、そうアキラは指示をしつつも、何故自分にそんな知識があるのか不思議であった。どうしてか、ノーミーの消耗具合を見て、その知識が頭をよぎったのだ。恐らく、ノーミーはエーテルが不足しており、エーテル炉であればそれが補充出来る事を。
「しかし!」
「スノウとクオーツは良くやってくれた。恐らく敵の切り札を引きずり出してくれたのだから」
ここから先は俺が引き継ぐとアキラはニッコリと笑う。左腕に抱かれているリーネも笑う。
「そうそう、あとは任せて!」
「でも、それでも……」
「体当たりなんて許さない。今はノーミーのためにも戻ってくれ。そして、次に備えるんだ」
アキラは次があると言う。
そう言われれば、スノウとて引き下がざるを得ない。
「……分かりました」
ノーミーの身体を抱きやすいように、スノウの膝の上で直したアキラは言葉を返す。
「戻って部隊を再編しているテロンを助けてやってくれ」そして、アキラは視線を地上に向けた「どうやら向こうはキムボールが頑張ってくれているようだ。剣聖になって張り切っているのか、ツキにアピールしたいのか?」
腰に携えた大太刀がガチャガチャと騒がしい。
『主様、あんまりお遊びが過ぎますと……」
「ごめん、冗談が過ぎた」
アキラが自分の腰に向かって頭を下げる姿をおかしかったのか、ようやくスノウの表情が柔らかくなった。
「いい顔になった。それじゃシオダ提督にもよろしくと」
その言葉と共に、アキラは手を離して、身体を機体から遠ざける。一時、慣性の力で機体に追随したものの、みるみる大気の抵抗によって後方へとアキラの身体は流され、下方へと向かう。
それを薄れるノーミーの身体を抱きしめたスノウが機外に顔を覗かせて見た。
やがてリーネがシールドを張り、そこにアキラは降り立つ。
アキラは左腕に抱き上げているリーネと一緒に手を振っている。
「帰還します。全力で」
にこやかに笑い手を振るアキラとリーネの姿を網膜に焼き付けて、スノウは命じるのだった。
機体が滑り、機首の方向が変わり、高度が上がり始める。それを全身で感じ取ったスノウが呟いた。
「ご武運を。その定めに打ち勝ちますよう」
F-3の発する魔力の轟音が、それを吸い取っていた。
J○?もどき:「あーし、捨てられたー」
わんわん:「仕方がないな、J○だし」
社畜男:「そうそう、J○だし」
幼女もどき:「捨てるもんだよね、J○は」
J○?もどき「えっ……」
いや、君は頑張っているよ。
自分で動くキャラ№1だよ。
いや、けっして面倒くさいなんて思ってないよ。
次回、明日中の投稿になります。




