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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第8章 I Still Haven't Found What I'm Looking For
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8-20

引き続き、

第8章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 気配を感じたフォイルが地面に膝を突き、頭を下げた。バスが怪訝な表情でそれを見るが、現れた姿を見て自身もそれ倣う。

「ゴサイン様、ここは前線ですぞ」

「……フォイル、無理を考えてる」

 少し責めるようなフォイルの問いかけには答えず、質問を返すサインにお見通しかと、フォイルは嬉しくもあり、困りもした。顔を伏せて苦笑を隠す。

「せっかく生まれた唯一の若き剣聖、他国の王子と言えど、失う訳にはいきますまい。私にはライラという受け継ぐ者がおりますゆえ」

 他国であれど、手助けするのが獣人の道かと答えるフォイル。

 その答えを聞いて、むぅーというような表情を浮かべるサイン。普段は表情が乏しいが故に、珍しいと言えるが、顔を伏せているために見逃してしまうフォイルだった。

 しっかり顔を上げていたバスは見る事が出来て、そのあどけない表情に、どこか胸の内が暖かくなっていた。

「……着いていく、心配」

 そのサインの言葉に、えっというようにフォイルが顔を上げる。普段は豪放な様子からは想像も出来ないような魂消た表情を浮かべている。

「戦いですぞ!いかに精霊は死なぬとは言え、万が一の時は姿をお隠しなさることになる。そうなれば、このフォイル!どう民に申し開きするというのです!」

 そっと足を踏み出したサインが、いつもの頭ではなくてフォイルの頬に手を添えた。ざらざらとした髭のそり残しがサインの手の平を刺激する。

「民も大事です。でも、民を守るフォイルも大事」

 地に膝を突いたフォイルを、潤むような目で見下ろすサイン。

 その目を見たフォイルは、サインの意志は覆せないのだと知る。

「ありがとうございます、我が王子をそこまで大事に思って、思っていただいて」

 その声を聞いたバスの頭が更に低くなった。

 更には、伝令に指示を与えていたキムボールが声を聞きつけた。

「ゴサイン様ばかりか、ディーも来てくれたのか」

 伝令に行くように指示を出して、小走りにディーネに駆け寄ってくるキムボール。

 それを見たディーネがため息を零す。

「まったく、もう少し威厳を保ちなさいな」

 その小言にキムボールは頬を指先で掻いた。一応は反省はしているようだが、ディーネの姿を見たうれしさを隠しきれていない。ディーネにとってはそれが在りし日を思い出せて、また愛おしい気持ちを蘇らせていた。

「砂漠に来るなんて、どうした」

 避けていたのでは無いかとキムボールがディーネに尋ねると、それに顔を左右に振って応えを返してきた。

「王子の出陣、しかも大事な場面での。来ずにはいられないでしょう」

「見送りにか?」

「いいえ、同行します」

 ディーネもサインと似たようなことを言い始める。

 さすがに顔を引き締めるキムボール。

「戦うと言うのか、ディーが、大精霊が」

 その質問に、ディーネは顎に人差し指をあてて、顔をこてんと傾げてにこりと笑う。

「いいえ、あなたを守りに」

「おまっ、それって子の試験に親が着いてくるようなもんだぞ!」

「まさしく、そうではありませんか」

 そのディーネの返しに、キムボールは言葉を失い、フォイルとバスは苦笑いを浮かべる。サインはこくこくと頷いている。

「なんだったら、馬になってあげましょうか、あの人の時みたいに」

 そんな事が出来るわけないだろうと、叫ぶキムボールに、良いことを思いついたと言わんばかりに、胸の前で一つ手の平を叩くディーネ。

 それを見ていたバスが呟いた。

「まさか、神話のことを本人から聞くはめになるとは……」

「王国の建国神話だったか、侵入者を討つ王、跨がるは恐れ多くも大精霊が変化した精霊馬!だろう」

「子供が目を輝かせて聞き入るシーンだ。きらびやかに変化するウンディーネ様、それに号令を掛けて颯爽と跨がる建国王」

「多分、神話の裏側では、ああやって揉めたんだろうな」

「ああ、きついな」

 バスの肩を落とす様子に、他人事のようなフォイルだが、ディーネがサインにフォイルの馬にならないかと問いかけ、それにこくこくと頷くサインを見て、慌てて止めに入るのだった。

 その脇では敵の砲撃を防ぐために、シールドを張っては張り直していたシルとリータがいた。

「なんか、馬鹿馬鹿しくなってきた」

「エリオットが蚊帳の外で、助かるわ」

 シルとリータ、二体あわせてため息をつくのだった。


 結局、馬に変化するのは、キムボールとフォイルに止められたディーネとサインは、自分の馬に乗せた方がましだと、妥協して各々自分の前に座らされていた。

 もちろん、斬り込みを行うキムボールは部隊の先頭で馬に跨がっている。ただし、鞍の前部にはシルが横座りでいたため、これからデートですか、どこまで遠乗りですか、いや、スタイルも良く、美人をお乗せになられて羨ましいですな、と言われてもおかしくない状況であった。

 そんな斬り込む部隊の左右を守る、バスとフォイルのうち、フォイルの前にはサインがちょこんと跨がっていた。身体が大きく、顔がどう見たって悪人面のフォイルである。どこでさらってきたと、瞬く間に衛士に咎められる、いや有無を言わさず連行されてもおかしくない姿であった。

 それらの二人の様子を見ていたバスは、近衛騎士筆頭であっても平民で良かったと思うのであった。

 鞘からすらりと両手持ち剣(ツヴァイヘンダー)を抜き払い、頭上に掲げるキムボール。それを合図に前方のシールドの一部が失われる。

「突撃!続け!」

 角を振りかざし、ホーンホースの蹄が力強く地面を叩く。砂塵舞上げ、キムボールがシールドを潜り、それに続くのは王国の近衛騎馬部隊。更にはフォイルが率いる協同国の獣人騎馬部隊、更にはバスが一時預かり率いる帝国騎馬部隊。

 三国連合の騎馬部隊が砂塵を後ろに駆け始めた。

 向かうはシールドに取り付いている魔王の兵士、魔術師達。騎馬の集団が向かってくるのを見て、すぐさま魔術師の前面に出て密集隊形をとり、長槍を突き出す兵士達。

 三つの矢となった部隊が斬り込んだ。

 駆けて抜け刃を振るうバスは、チラリと大精霊のシールドに守られつつ刃を振るうキムボールを見て、先とは違って少し羨ましいと思うのだった。

 大事に思うが故の盾。

 気持ちがこもっているのだろうと。


社畜男:「なんで、あんなに懐いているんだ」

悪人面:「それは、俺が良い奴だからだろう」

幼女もどき:「不良が、捨て犬助けたら、良い人に見える現象?」

幼女もどき2号:「私、捨て犬?」

大太刀:「その現象は嘘です。虚像です(きっぱり)」

ですよね~


次回、明日中の投稿になります。

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