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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第8章 I Still Haven't Found What I'm Looking For
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8-19

引き続き、

第8章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 爆弾を投下するボタンを押した時、スノウが発動した魔術があった。一つは命中時に発動する起爆の魔術、二つ目が爆発の効果拡大の魔術。そう、爆弾の投下時に行われる決められた魔術行使。

 だが、スノウは最上級の魔術師。しかも見た目は華奢なお嬢様であっても、軍で参謀職を勤め、更には前線部隊を指揮して戦ったことすらある歴戦(ベテラン)だ。敵の魔術を避けるのに泥水に顔から埋まり、隣で戦っていた魔術兵が倒れてその血肉を被ったこともある。命令書には書かれておらずとも死ねと命じられて笑って部隊と一緒に進撃した事もある。

 確実にシールドがある敵に対して、スノウは最上級の魔術師として最後に三つ目の魔術を行使した。

 振り絞るような、とっさの判断による呼びかけに応じた精霊を褒めても良い。

 最後の魔術は中和であった。

 するりとシールドを爆弾が抜けた瞬間、スノウは成功を確信し、前席のクオーツはやられたと思った。

 爆弾は敵に命中し、確実に一部分を破壊したが、奔流のような推力は治まらず、船から離昇を果たし、更には幾度かの射撃を行った。

 もちろん、クオーツは回避行動を取ったのだが、敵はそれを読んでいた。

 一射目、二射目はおとり。

 クオーツの操る機体を目的の場所へと回避させるもの。

 三射目は何も無い場所に放たれたように見えるが、そこにタイミングを合わせるようにクオーツは機体を操り飛び込んでいった。そこに行くしかないように。

 いわゆる優秀な敵ほどやりやすいというものだ。

 クオーツの回避の機動が読まれ、見越し射撃の罠にはまる。クオーツの戦いの経験不足による失策。

 だが、機体に張ったシールドには衝撃はなかった。

 機体の目前に、四肢を広げた人影。

 二重三重に張ったシールドが、連射されている魔力の塊を受け止めていた。

 振り返る。

「もう、あーしがいないと駄目なんだから」

 桃色のポニーテールをなびかせ、短いスカートを翻したその笑顔はノーミーだった。

 その姿はすぐにかき消え、ノーミーはスノウの膝の上へと転移してきた。浮遊の魔術が有効なのか、スノウの膝には重さが感じられなかった。

「どうしてここに?」

 スノウの疑問はもっともだ。ノーミーは守護地(フィールド)で待っている予定だった。特に役割を振ってはいないが、留守番役のはずであった。

「エンがさ、スノウがピンチになるかもー、って」

 けらけらと笑うノーミー。

 ペノンズとディアナも今は守護地(フィールド)にいないよーと続ける。

 前席のクオーツは後席の会話を無視して、懸命に魔力弾を避けていた。

 左右上下に重力がかかる中を、涼しい顔でノーミーがスノウの頭を撫でた。

「無茶はだめだし。……何としてもって思ったんでしょう」

「あれは危険です。なんとしてもここで……」

「お兄ちゃんもブルーも来てる。任せればいいさー」

 そのノーミーの言葉に、スノウが首を左右に振る。

「魔王との戦いが控えています。任せられません」

 スノウの言葉に、困ったなーというような表情を浮かべるノーミー。

「ほら、お兄ちゃんが突撃してきた」

 ノーミーが指差す方向に視線を送るスノウ。そこには艦首で砂を蹴立てて突進してくるE229と続くE230の姿があった。

 前甲板からは、魔王の船と同様に、魔力弾を発射しているが、未だ距離があるためか、それを仰天号(アメイジング)はひらりひらりと避けていた。

 やがて、共和国のF-3が攻撃を行おうとすると、仰天号(アメイジング)の表面から稲妻のような魔力が迸り、F-3を攻撃した。

 魔術師が張っていたシールドは、鞭のように連続して打ち据えられる雷光に破られ、すぐさまの二撃目三撃目で機体にダメージを与えられてしまう。

 幸い、飛行には支障が無いのか、雷光を受けた機体は後方へと下がっていき、みるみる機体の数が減っていく。

 更には魔王の艦隊で砂漠に残っていた二隻がE229とE230に向かって砲撃を開始した。エンが張ったシールドがあるため、直撃はないものの、その砲撃の勢いに前進が阻まれていた。

「あらら」

 ノーミーは期待が外れたかのように、肩を落とす。

「お兄ちゃん、しっかりしてよー」

 E229とE230の前進艦隊はアキラが指揮を執っている訳ではないが、その艦にアキラが乗っている限り、ノーミーには関係ないようだった。乗っているならば何か手を打てと。

 ノーミーが肩を落としたように、仰天号(アメイジング)が離昇してからは、一挙に形勢は逆転した。瞬く間に魔王側が有利となったのだ。


 町中の本陣としていた建物の屋上では、キムボールとフォイル、そしてバスが意見を交わしていた。

 何を悠長なと、横目でシルとリータがシールドを張りつつ見ているが、口を挟むことは無かった。兵を動かすならば、人が、獣人が自分達で決断するべきだと考えていたからだ。

「船を放棄した事で、敵兵は増しています。砲撃は弱まりましたが、局所で魔術師達がシールドの中和を開始しています。このままではいつかは敵兵がなだれ込んできますぞ」

「バス殿の言うとおりだ。騎兵を投入しよう王子」

 そこまではキムボールも同意した。しかし次の言葉に、バスとフォイルは反対をしたのだ。

「先頭は俺が立つ」

 シールドを真っ先にキムボールが超えるというのだ。全軍の指揮官が斬り込むなど前代未聞の出来事だ。

「剣聖の斬り込み、なるほど有効でしょうが、その後の全軍の指揮は誰が執るのですか。私バスですか、フォイル殿ですか」

「俺が指揮を執るのはやぶさかでは無いが、後ほど絶対に揉めるぞ」

 キムボールが危険だからと反対している訳ではない。剣聖であるキムボールは常人ならざるほどの量の魔力を纏っている。容易に剥がすことなど出来ないであろう。一撃で剥がせるアキラが異常なのだ。

「おい、そろそろ決めろ。やばいことになってきたぞ」

 焦れたように、リータがさすがに言葉を挟んできた。

 リータが指し示す方向には仰天号(アメイジング)が雷光を発しながら飛び回っている。すでに共和国のF-3は数えるほどしか残っていない。

 それを見たキムボール達は苦い表情を浮かべる。こんな場で押し問答のような評定をしている場合ではないのだ。

「突撃しろよ、キムボール」

 その言葉に、全員が振り返った。

「エリオット、ようやく来たか」

 その姿をみとめて、キムボールがエリオットに駆け寄り、二人は硬く握手を交わす。

「後方は俺が見ているから、前線へ行け。このままでは、何もせぬまま負けだぞ」

「そうだ、そんな負け戦は俺は嫌だ。負けるにしても、もっと堂々と負けたい」

「バカを言うな。魔王なんぞに負けてなるものか」

 どや顔を晒して負けを語るキムボールに、エリオットが顔をしかめてたしなめる。

 未だ命令は出ていないが、周囲では出撃の準備に騒がしさが増していた。キムボールとエリオットが語り合う後ろには、命令を伝えるための伝令がすでに控えている。

 そんな様子を見ていたフォイルが側に立っているバスに声を掛けた。

「若いな」

「すまないな、教育が行き届いてなくて」

「いや、若いってのは良いことだな、てな」

 フォイルは後ろ頭を掻きながら、昔の戦で孤立無援で籠城したことを思い出すと語る。

「フォイル殿もか。俺は倍する敵に囲まれた時を思い出していた」

「そうか……。お互い年をとったものだな」

 そう言いながら、二人は苦笑いを浮かべていた。

 これからは、今は語り合うのは止めて、伝令に命令を伝えているキムボールとエリオットのような若い者達の時代になるのだと、フォイルとバスは思いを馳せる。

 そして、魔王の襲来という、この難事を乗り越えてバトンを渡すのだと。

J○?もどき:「駄目じゃん」

幼女もどき:「駄目じゃん」

わんわん:「駄目じゃん」

にゃ~にゃ~:「駄目ではないか」

大太刀:「だ、駄目じゃんです」

社畜男:「……うがー」

駄目じゃん。


次回、明日中の投稿になります。

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