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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第8章 I Still Haven't Found What I'm Looking For
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8-18

引き続き、

第8章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 未だ繋がっている伝声管から命令が幾度と無く叫ばれていた。

「総員退艦!トロイアは擱座する。仰天号(アメイジング)発進のため、トロイアは使用不能となる!総員退艦!退艦せよ!地上戦闘へ移行せよ!」

 幸い、砲撃を受けたカルタゴとイリュリアは後部に被害を受けただけで、前甲板から砲撃は可能なため、以前としてシールドに向かって砲撃を続けている。ただし、後部に配置していたエーテル炉に異常が生じたのか威力が落ちていた。それでもシールド破壊の支援には十分であったが。

 けたたましく叫ばれる命令を聞きつつ、艦橋から移動してきたオベロンはずらりと並んだ計器とスイッチの前に設けられた椅子にどかりと座った。

 幾つものスイッチを弾き、ボタンを押すオベロン。

「まさか、初手からこのくそ親父の場所ふさぎを使うことになるとはな。エンを見くびってたな」

 苦笑いを浮かべるオベロンの後方では、同じように椅子に座り、ダイヤルを調整していたメイド服を着たディーチウが応えた。

「何かこそこそしていたのは知っていましたが。まさか飛行体を作りあげていたとは」

「エーテル炉の小型化を成功しているとなると、くそ親父が関わっているさ」

「まったく、困ったお方です。誰の味方なのです」

「孫の味方なんだろ。あいつを担いで世界を超えて逃げたくらいだし。孫は自分の子供よりも可愛いというじゃないか」

 まあ、子供が可愛いと言われても困るんだがなと、声を潜めるオベロン

「……弟の方が可愛いですわ」

 呆れたように、オベロンがため息をつく。

「それじゃあ、くそ親父と同意見か?」

 さらに何か言いたげなオベロンの様子に、ディーチウが表情を消して告げた。

「エーテル炉、作動良好。前面と上方の場面を投影します」

 前方に設けられたガラス面が一瞬白く光ったかと思うと、すぐさまトロイアの艦橋の後方部分を大写ししたが、片隅に上方の画面も映し出していた。

 その上方画面には、黒点が三つ。

 明らかに爆弾を投下するコースに乗っており、目標はこの仰天号(アメイジング)そのもの。

 オベロンは躊躇無く、目前の計器の間にあったボタンを押すと光線のような魔力が上部から放出される。

「おお、避けやがった」

 魔力による攻撃を避けられた事を悔しがらずに、感嘆するオベロン。かなりの腕利きのようだと喜ぶ。

 敵を賞賛することにためらいがないオベロンに呆れつつ、後方から現れたフレイに視線を送るディーチウ。

「兵装の艇内に残っていた安全ピンをすべて抜き終わりました」ピンとチェックリストらしきボードを棚に収め「射撃手、席に着きます」

 報告後にシートに座ったフレイが、目前のスイッチ類を操作して、ガラス面を光らせて射軸と同調した照準画面を投影する。

 フレイの状況を確認したオベロンが口を開き、迫り出してきた操縦桿を握りしめた。

「よし、発進シークエンス開始。トロイアは規定通り放棄」

「エーテル炉、出力全開。余剰魔力放出。浮上モードから機動モードに変更よろし」

 余剰の魔力が放出されて、仰天号(アメイジング)の船体周辺で紫電となって纏わり付く。

 操縦桿をオベロンがぐいっと引き寄せると、仰天号(アメイジング)の前方が持ち上がり、後方へと推力として放出される魔力が可視化されるほど噴き出し始め、トロイアの後部構造体を破壊していく。

「シールド展開。魔術仕様変更。内部からの魔力攻撃可能です」

 一瞬だがシールドに阻まれた推力となる魔力が、シールド外へと吐き出されていく。

 ディーチウの言葉にフレイがスティックを操作して、ガラス面の蜘蛛の巣のようなサイトを動かし、正常に動くことを確認。

「射撃可能です」

「さっそく一つ来たぞ。撃ち落とせ」

 オベロンの命により、フレイがスティックを操作して仰天号(アメイジング)に向かって急降下してくる黒点を照準の真ん中に収めた。

 素早くフレイがスティックに取り付けられたボタンを、握り込むように押した。

 先の三機にオベロンが放った攻撃とは違って、魔力の塊が逆落としに向かってくる飛行体に放たれた。

 命中、そう思い歓喜の声を上げそうになったフレイだが、目前のガラス面映し出された、ひらりというように避けられた映像に、口を大きく広げた間抜けな表情になった。

 操縦桿を引き、仰天号(アメイジング)を空へと向けていたオベロンが、目の端に捉えた上方を映したガラス面に驚きの声を上げる。

「避ける、なんて動きじゃねーな。未来予知でも出来るのか?」

「いいえ、魔力が発射された瞬間に方向を把握していたようです。恐らく、魔力感知の性能から人が操るものではないでしょう」

「大精霊ってか。そりゃ無いだろう。大精霊なら普通に飛んでくるだろう」

 オベロンの呆れたような言葉に、ディーチウは軽く顔を左右に振った。

 そう、大精霊ならばディーチウは感じられるはずなのだ。また、人であれば感覚として捉えられるはずだが、逆落としで向かってくる、あの機体からはそれが感じられない。いや、二つの内一つは獣人であろうが、もう一つから得られる感覚はディーチウは覚えがあっても何かとは結びつけることが出来ない。

 一射目を避けられたフレイが、二射三射と撃ち続けていたがことごとくを僅かに機体をずらして避けられ続けていた。

 そして、その落ちてくる機体から、一つのものが分離した。

 ガラス面が映し出すその物体がぐんぐんと大きくなっていく。

「推力全開!避けて!」

 ディーチウの言葉に、操縦桿から片手を放したオベロンが、脇のスライダーを手前後方へと押し込んだ。

 後方へと奔流のように魔力が吐き出される。

 高度を確保していた仰天号(アメイジング)が水平となって加速を開始する。

 仰天号(アメイジング)の加速により、オベロン達はシートに身体を押しつけられた。

 落ちてきた物体が仰天号(アメイジング)の後方部分のシールドに接触した。一瞬そこで防いだとオベロンは安堵するが、動きを止めたのは僅かで、それはするりとシールドを抜けるのだった。

「何が……」

 同じ場面を見ていたフレイが呟いた。

 エーテル炉の魔力を利用した、ディーチウが張っていたシールドがすり抜けられた瞬間だった。


魔王:「前と後ろ、どう見分けるんだ?」

メイド:「私たちが向かっている方が前です」

魔王:「……確かに」

どっちも丸いケツのようだ。


次回、明日中の投稿になります。

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