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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第1章 天使(エンジェル)
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1-16

誤字脱字、直しつつ始めて行きます。

どうか、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

モス帝国=財団(ファウンデーション)国境

 帝国と財団(ファウンデーション)をつなぐ街道は一つしかない。当然、脇道とも言える細い道はいくつも存在するが、安全の面から考えても、ほとんどの者が街道を使って国境をまたぐ。

 もちろん、脇道であっても、警備の対象であり、定期的な見回りは行われている。使用するのは、地元民であり、それに扮する密偵のたぐいであった。地元民は笑って、密偵は笑いの下に警戒を隠してだが。

 街道上には、向かい合うようにして、両国の検問施設並びに防衛のための砦が建てられている。

 検問では、馬が牽く荷車を、兵士達が調べており、緊張感漂っていたが、視線を転じて周囲に目をやれば、のどかな草原がひろがっていた。しかし、この草原も警戒の視線を広げるためのものであった。

 財団(ファウンデーション)側の砦の上、革鎧をまとい、槍を手にした兵士達が帝国側を見張っている。

「こうやって、見張ってるだけってのも、疲れるもんだ」

 配属されて間もない兵士なのか、文句を垂れ流し、姿勢もだらけていた。相方である、もう一人の古参らしき兵士が、厳しい視線をむけた。

「おい、しっかり見張れ」

「大丈夫ですよ。何も起こりはしませんって」

 財団(ファウンデーション)の兵士は、傭兵であるためか、警備のような行動には向いていない。いわゆる、国土を守る気概に欠けるためである。ただし、金銭の授受が発生しているということで、その金額分は熱心に働く者もいる。プロ意識というものだ。

 あくびをする新任の兵士。その胸を古参の兵士が掴みあげた。

 だらけていることを咎められたと思った、新任の兵士が喚く。

「何すんだよ!あくびくらい……」

「馬鹿野郎!よく見ろ!」

 言葉を遮られた兵士が、指さされる方向へと視線を向ける。みるみる眼が広がっていく。

「何だ、砂煙が」

「騎馬の大規模行動だ!伝令用意!」

 国境付近は、監視をしやすくするために、草原の状態を保たれている。その草原を、騎馬達が砂煙を上げて突入してくる。

「数、千騎以上!帝国と思しきが、確定ならず!」

「応!数、千騎以上!帝国と思しきが、確定ならず!」

「復唱確認!伝令、第一報行け!」

 続々と兵士が古参兵士に集まる中、だらけた姿もどこに行ったのか、新任の兵士が駆けていく。

 第一報を受け取った指揮所の反応は早かった。事前に帝国が演習と称して、兵を集めていたことから、想定されていたためだ。

 続々と報告が集まる。

 一度は立ち止まり、隊列を整え始めた騎馬の後方には、歩兵が駆けてくるのも確認された。帝国の検問も係員の姿が見えなかった。国境を越えようとしていた、旅人達が戸惑っていたため、急ぎ財団(ファウンデーション)側へ退避するよう、大声で誘導する。

 取り急ぎ、後方の司令部へ伝令を走らせたが、恐らくは、国境線で食い止める事は厳しい。

「時間を稼ぐぞ。俺達ゃ、そのために金もらってんだ!」

 指揮所に響く「応!」の声。

 その機能を果たすために、指揮所が活気づき始めた。


 伝令が司令部のある砦の中を駆ける。

「緊急!緊急伝令!」

 叫ぶ声のために、誰も止めようとはしない。そればかりか、駆ける道がどんどん開けられていく。

 司令部のドアはすでに開かれていた。飛び込んだ伝令は、最後の気力を振り絞り、背筋を伸ばした。

「報告いたします!国境にて、帝国らしき軍の集結を確認!騎馬3千、歩兵2万以上、確定中!検問指揮所は防衛準備に入りました!」

「ご苦労。休め」

 なすべき事を終えた伝令は、その場で崩れ落ちた。駆け寄った兵が肩を貸し、外へと連れ出していった。

 それを見送るのは、報告を受けた、ピーター・バス。歴戦の傭兵にして、財団(ファウンデーション)の国境守備を任された司令官である。帝国の動きを受けて、急遽派遣されてきたため、前任からの申し送りを受け取り終えたところであった。

「動きが速い。もう少し時間があるかと思ったが」

 筋肉で覆われた巨体、厳めしい傷だらけの顔がゆがむ。

 副官がそれに答える。

「リリス会長補佐からの情報では、帝国の食料事情が悪化するのは、まだ先だとの事でしたが」

「帝国の事情、そして思惑を読み違えたか」

 バス指令の重みで、椅子が悲鳴のような軋みの音を上げる。

「検問指揮所に伝令。防衛活動承認。俺が行くまでの全権を委ねる。無理はするなと伝えろ。魔力の剥がれた者から後退、あるいは個人判断の降伏を認める。行け!」

 降伏した場合、後に身代金や捕虜交換で解放される。ただし、上の許可なく降伏した場合、身代金は本人持ちとなり、上が許していた場合、部隊や国が支払うことになる。

 椅子から立ち上がったバス指令は、そのままドアへと向かう。

「準備できている部隊から出撃。可能な限り、全速で向かえ」

「待ってください。前線に出るつもりですか」

 引き留めた副官を振り返り、にらみつける。

「当たり前だ」

 再び歩き始めたバス指令。その「馬牽け!」の声が司令室に響き渡った。


 騎馬で駆ける、騎馬隊指揮官は自分の目を疑っていた。本来先頭は自分のはずだった。それが、目前をバス指令が駆けている。

 騎馬隊指揮官は、自分も指揮官先頭の心構えでいたつもりだが、これはない。何度かバス指令の乗る、ホーンホースに馬体を寄せ、後方へ下がるように願い入れたが、聞き入れる様子はない。

「どうすんだよ……」

 このままで接敵した場合、バス指令を守る態勢を取らざるを得ない。それは戦力低下につながる。

 必死に考えをまとめていた指揮官の目が、バス指令の「寄れ」のハンドサインを捉えた。

 指示に従い、速度を上げて馬体を寄せる。

「何でしょうか!」

 吹き付ける風に負けぬよう、大声を上げる。出来れば、後方に下がると言ってくれと願いながら。

「このまま接敵の可能性が高い。俺を先頭に矢尻(アローヘッド)の隊形をとれ」

「それは……」

「聞こえなかったか、すぐにやれ」

 有無を言わさぬ、言わしてもらえず、部下に命令を発する。

矢尻(アローヘッド)だ!」

 命令は次々に後方へと伝達されていき、部隊は矢尻の形に整えられていく。その素早い対応に満足しながらもつぶやく。

「どーなっても、知らねーぞ……」

 しばらくすると敵影が見えてきた。

 守備隊の陣形を突き破ってきたのか、帝国騎馬部隊も矢尻(アローヘッド)の隊形だ。鋭い先がこちらに向けられていた。

 しかし、突き破る際に勢いを失ったのか、速度が落ちている。

「槍構え!続け!」

 バス指令の命令に従い、槍を構え、速度を上げていく財団(ファウンデーション)騎馬隊。

 馬達も乗り手に応え、頭を低く、たてがみを、尻尾をなびかせ、力強く蹄で地を叩く。

 真っ向からぶつかった。

 砕かれた槍の破片が、引き裂かれた革の鎧の断片が、そして人馬ともに左右へ弾き飛ばされていく。

 長躯であったものの、勢いは財団(ファウンデーション)騎馬隊が勝り、敵の矢尻を、真ん中で引き裂いていく。

「このまま守備部隊と合流する」

 敵の騎馬隊は、後方の部隊に任すと命令を下し、バス指令は騎馬を引き連れ、前進を続けた。

 無事に国境の砦に入ったバス指令は、すぐさま指揮所を臨時の司令部に定めた。

「よくぞ持ちこたえてくれた」

「もらった金の分、働いただけですよ」

 砦の指揮者の言葉に笑い返すバス指令。そう、それこそが傭兵だとばかりに。

「で、もうちょっと金を払うから、帝国の検問まで前進できんか」

 バス指令の言葉に、砦の指揮者は絶句した。


次回、本日の夕方には投稿いたします。

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