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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第8章 I Still Haven't Found What I'm Looking For
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8-14

引き続き、

第8章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

モス帝国 砂漠境界 砂漠港の町

 砂漠と海の港町の違いを言うならば、匂いはもちろんだが、砂漠の港町では魚を扱うことはないということだ。一部、魚ではなく砂漠の生物を狩る者もいたが、漁師に比べればはるかに少数であった。

 故に、砂漠の港町は運送、商業に特化している事が多い。

 この町も違わず同じ。

 町の中心には商人が集まって商談や情報を交換するためのホールが作られていた。

 しかし今は魔王の侵攻を受けているため、住人はおろか商人もいないため、使う者がいなかった。

 そこを接収、とは言えば受けも悪いので、シルは必ず代金を払って借り受ける旨を強調し、周囲にも必ずそれを伝えるように言い聞かせていた。

 そんなホールの中心には、シルとリータがテーブルを挟んで座っていた。その周囲には壁に沿って幾人もの警備の兵士達が並んでいる。

 敵には転移が出来るディーチウがいるため、いくらシルが転移阻害の魔術を掛けているとはいっても、用心を怠ってはいなかった。

 テーブルの上には茶を注ぐティーセットと共に、小さな焼き菓子が盛られた碗が置かれており、椅子で器用に胡座をかいて座っているリータが時折口に放り込んでいた。

 対して、シルは急激に魔力を消費したせいか、顔には疲労の色が見え、カップからハーブティーを飲んでいた。

「しっかし、微妙に届かねー位置に停泊してやがるな」

 苛立ちを隠さず、リータが言う。

 魔王の艦隊はこの町から、まだ見える地平線あたりに停泊しており、リータやシルの魔術が僅かに届かない位置にあった。

 最初の艦砲射撃より、すでに幾日かたっている。

 しかしシルは完全に回復しているとは言えず、魔王艦隊には転移を阻む魔術でシールドが張られている。シルやリータの転移突撃を用心している現れであった。

 焦れているリータであったが、町の中では急速に上陸してくる魔王の兵士達を迎え撃つ準備が進んでいる。

 魔王の兵は艦隊で移動してきたからか、馬を多くは持っていないようなので、魔術と歩兵対策が主になっている。

 主要な道路に面している建物の上には、身を隠して矢や魔術が放てるように盾が置かれていた。

 上陸を阻むのではなく、ある一定の距離は上陸させての対応を取ることになっていた。線で守るのではなく、面で守ろうというのが、各国が連合した軍の方針となっている。一応、王族であるキムボールが主将として指揮をとっている形だが、現実にはバスやフォイルが各軍を指揮していた。

 キムボールとしては、方針さえ出してしまえば、あとは有能な二人が何とかしてくれるであろうと、下手に口は挟まなかった。

 ところがここに来て、帝国の動きが鈍いことが問題となる。エリオットの心配が現実となっているのだ。事実、シルのもとには帝国軍と帝国近衛から指揮を執るように要請がきていた。

 一応、こちらにエリオットが向かっているため、シルは助言を与えるに留めている。

 ただし、到着が間に合えば良いがとシルは悩む。

 ホール外の喧噪に比べて静かな内部に、キムボールが入ってきた。ぶらりといったような様子であるが、王国の王太子であるため、壁際の警備兵達が姿勢を正して、手にしていた武器で敬礼を行った。

 もちろん、たとえ王族の登場であっても、大精霊のシルとリータはのんびりとしたものである。逆に、シルがポットに手を掛けて自ら茶を勧めて、逆にキムボールが恐縮するような事を言ってくる。

 一応、表面的に恐縮の態をとったキムボールが、シルとリータが座っているテーブルの空いていた椅子に座る。

 更には、シルが差し出したカップのハーブティーをすすって一息をつく。

 そして口を開いた。

「魔王の艦隊が動いた」

 気配を感じていたシルとリータが、やはりとばかりに頷いた。


 町の一端が砂漠に面しているならば、この建物はそこから最も遠い一端にあった。

 帝国、王国、協同国の連合国軍が本陣としている、もともとはこの町で行政を担う建物であり、戦いの際に備えている町唯一の建物である。

 屋上には、この町に向かってくる魔王の艦隊を見つめる、シルとリータ、そして主将のキムボールがいた。

 魔王の艦隊は横に広がって、厳密には傘の形で町に向かっていた。

 傘の先端に位置する船の舳先には、魔王のメイドの姿があった。そこで、艦隊全体に防御のシールドを張っているのだ。

「あれが魔王のメイドかぁ」

 屋上の端に設けられた突起に片足をのせ、目の上に手をかざしたリータが遠見の魔術で艦隊の先頭を見ていた。

「代行者よ。注意して」

 それを聞いたリータが、驚きを隠さずにシルに顔を向けた。

「馬鹿を言うなよ。顔も姿形も違うぜ」

「変えられているのよ」

 それを聞いたリータの顔がみるみる険しくなっていく。

 大精霊は自らの姿や顔を変えることはあるが、それは一時のものである。やはり、本来の顔かたちや姿があり、それである事を好む。

 自ら変えられるこそ、他に強制されるのは、至極ひどい仕打ちであるのだ。精霊としての尊厳を汚されていると言っても、言いすぎではない。

「くそっ、誰が……。まさか……」

「いえ、誰かは分からないわ。私も聞かなかった」

 もしその名を出せば、リータはすぐにでも艦隊へと突っ込んでいくだろう。故に、シルは想像であっても口にはしなかった。

 シルとリータの会話に、キムボールは耳をそばだてて聞いていた。

 一つ、キムボールが聞いて首を傾げる言葉があった。

 代行者。

 大精霊との交流の経験が多く、知識もそれなりにあるキムボールでも聞いた事のない単語であった。

 シルとリータに意味を聞いても良いが、リータの憎々しげな表情、シルの悲しみに満ちた表情がそれを阻んだ。


 すでに兵達は配置に就いているため、町中で動きはなかった。ただ、ピリピリとした雰囲気が漂っているだけである。

 リータが火炎弾を放とうとするが、それをシルが止めた。魔王の艦隊からも攻撃がないのも、お互いシールドを張っているため、距離を取っての魔術攻撃はお互いが意味を成さないためである。

 無駄な力を使うことはなかった。

 兵がある程度散開し、シールドが全体に張るのが難しくなる、上陸の瞬間を狙うべきだとシルはリータに語り、さすがにリータもそうだなと頷いて従った。

 じりじりと時間が流れる。目で感じるよりも、魔王の艦隊は速度を出していないのか。実際に感じる時間の経過と、自分の時間にずれがあるような気がする。

 やがて、傘の先頭の船が舳先が、陸地にたどり着いた。

「なんだ、あれは」

 唖然とした声をキムボールが上げる。

 魔王の艦隊は止まらなかった。

 速度は落ちたものの、船がそのまま陸上を進んでいた。

今回、小話はございません。

すいません。


投稿につきまして、

年末年始は出来なくなりました。

恐らくは年始3日が明けてからになります。

現状ではいつともお約束できませんので。

日にちの明言は避けさせていただきます。

必ず再開いたします。

その点につきましては、

ご安心願います。


それでは、

少し早いですが、

よいお年をお迎えください。

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