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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第8章 I Still Haven't Found What I'm Looking For
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8-10

引き続き、

第8章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

「人狼のスノウ殿と言えば、優秀な魔術師と聞いている。ならば、一度格納庫にある搭乗員詰め所におりますテロンと話してほしい。奴には飛行隊の指揮を任せるつもりだ。私からは話しを通しておこう」

「ご配慮ありがとうございます」

 そう言って、スノウは頭を下げる。その足にクオーツが身をすり寄せた。その意図に気づいたスノウが改めて口を開いた。それはシオダはもちろん、エンにも向けた言葉だった。

「詰め所にはこの猫も同行させてください」

 それを聞いたシオダは頷くが、エンは迷っていた。

 エンはその猫が水晶(クオーツ)である事を知っている。そんな存在を航空機に近づけて良いものかと。

「その猫は俺の友だ。信用してほしい」

 アキラの言葉に怪訝な表情を浮かべるシオダだが、エンは苦笑いを浮かべた。

「あらあら、そう言われたら断れないわね」

「大精霊エントよ、感謝する」

 言葉を話したクオーツにシオダが驚く。

「猫がしゃべった」

 そのシオダの言葉を聞いたアキラがため息をついた。

「犬が猫に代わっただけかよ」

 そう言って、クオーツの正体をシオダに説明するのだった。

 その後、案内の兵士を付けられたライラとスノウは、クオーツを伴って部屋を出て行った。それを見送ったあと、アキラ達はテーブルを囲んで今後の戦いについて話しを始める。

 しかし、先ず口火を切ったアキラは、艦載機の性能について尋ねることになった。何をおいても、機動艦隊は航空攻撃が肝になる。出来る事と出来ないことを知っておかないと、戦い方すら考えることは出来ない。

 提督であるシオダは、エンから情報をすべて開示する許可をもらい、艦載機でF-3と呼ばれる航空機の性能を話すことになった。

 まずアキラが驚いたのが、F-3にはあの小型の機体でエーテル炉を積んでいる点であった。もちろん小型の炉であるから、DH184に積んでいる炉に比べて制限が多く、稼働できる時間が限られているため、飛行時間は無限ではないと言うことだ。これで、搭乗者の疲労を考慮せずに、遠距離から発艦させての攻撃は封じられる事になった。

 そして、搭載している武器としては爆弾だけだ。ただし魚雷に該当するものはないのだが、前席の飛行士に対して、後席には貴重な魔術師を乗せているために、魔術での攻撃が可能であることだ。それを聞いて喜んだのがリーネで、自分であってもアキラを手伝って何らかのアドバイスが出来るのだと。

 リーネがどの程度の魔術師が乗っているのかと尋ねるが、シオダは苦笑を浮かべた。どうやら、帝国やシルとの戦いにおいてリーネが行使した魔術の内容を知っているようだった。

「リーネ殿、あなたと同程度とは考えないで欲しい」

「つまり、普通ってことなの?」

「いやいや、選りすぐった精兵だ」

 そうシオダに言われても、リーネにはピンとこないようだ。これはその時の状況でアキラやブルーが相談しながら対応するしかなかった。ただ、リーネは魔術師らしい攻撃方法を考え出すかもしれないので、無碍にもできないのだ。

 あとは艦隊の陣形であったが、魔王の艦隊の攻撃について情報がないので、シオダは警戒をしつつ輪形陣を取ることを主張した。だが、アキラは魔王が航空機による攻撃がないのならば、艦隊の一部を割いて先行させるべきだと。

「しかし、複雑な艦隊運動は無理でしょうから、小型のE229とE230を前方に並べて、残りのDG173、DG174を前後に、D115とD118は空母の左右に位置させてはどうですか」

 それを聞いて、シオダはポケットから駒のようなものを取りだして、テーブルの上に並べた。いまアキラが言った陣形を視覚化するためだ。

「この前方に出すE229とE230の意味は?」

 本来での役割は潜水艦等への警戒であるが、砂漠にそれは存在しない。

「遭遇戦を避けるのに、警戒してもらいます。いざとなれば敵艦隊に突入してもらいます」

 それは捨て石のような使い方だが、アキラは魔王の艦隊も練度はそれほど高くはないと踏んでいた上、船の装甲ばかりでなく魔術でシールドが張れる事が大きかった。

 魔術を周囲にばらまきながら、魔王艦隊の中をすり抜けて通過するなり、鼻先を押さえてくれれば良いのだ。

「ふむ、理に適っているな。それで行こう」

 顎を手で撫でていたシオダはそう言ってアキラの案を採用し、指揮を執るためにアキラ達を伴って艦橋へと向かおうとするが、アキラはじっとテーブルに乗せられた駒を見つめて動こうとはしなかった。

「何か気になる点でも?」

 シオダは動こうとしないアキラに声を掛けた。

 駒に視線を向け続けるアキラが、言葉を零した。

「海では船は沈みますが、砂漠では船は擱座ですね」

「その通りだ」

「いや、先を考えると……。艦隊は必要か?」

 アキラが零した言葉に、その場の全員が首を傾げるのだった。


 一方、搭乗員詰め所では緊張感が高まっていた。

 提督から飛行隊の指揮を任されたテロンがライラと対峙していた。

「後席に乗せろだと、お嬢ちゃんをか!」

「スノウの魔術師としての能力は保証する」

「あんたが拳聖なのは知ってる。けどよ、それとこれとは別だ。いくら拳聖の保証付きだからって、F-3の後席に乗せるなんて簡単にできるかよ」

 馬鹿馬鹿しいと、テロンが両手を挙げて頭を左右に振り、提督も何を考えてんだと毒づき始めた。

 そんなテロンは差し置いて、後席担当のキラがじっとスノウを見つめていたが、やがて毒づいているテロンを脇に退かせるとキラ自身が前に出た。

「あのスノウだと言うの?」

「仰ってることが分かりませんが、私は筆頭族長が次子スノウなのは確かです」

「やはりそうなのね。遠くから見ていたわ、あなたの国の内乱での活躍。参謀としてばかりでなく、魔術師部隊を率いていた」

 それを聞いて良い思い出ではないのであろう、スノウの顔が沈んだものになった。

 キラはその内乱に観戦武官に付き従って、スノウが司令官を補佐して、更には前線で戦う様を見ていたというのだ。

 それを聞いて驚いたのがテロンであった。

「おい、マジかよ」

「大マジよ。魔術行使の瞬間を見たけれど、最高峰クラスの魔術師よ」

「それほどでもありません」

 そう自嘲気味にスノウは返す。それもそうだろう。今の状況で周囲にいるのは桁外れのリーネに大精霊達だ。大精霊はともかくとして、リーネと比べればいかに自分が大したことがないのかと、プライドが傷つくよりも、魔術師を名乗るのが恥ずかしくなるのだ。自分では、あれほど精霊から信頼は得られないと。

「このお嬢ちゃんはどれほどだ?」

「私は三つの魔方陣を同時に発現させたところを見たわ」

「三つって、最上級かよ」

 さすがに自分の後席に座る魔術師であるキラの言葉は疑いようがないのか、驚きの目でテロンはスノウを見つめる。

「でもよ、いかに優秀な魔術師だって、後席に空きはないぜ」

 どうやら、部隊を指揮する者として、誰かを外してスノウを乗せるつもりはテロンにはないようだ。それは常に訓練などを共にしている仲間への信頼とも言える。

「空いている機体があるはずだ。それを私が前席で操縦する」

「そりゃ、いま補用の機体を組み上げたところだけどよ……、って猫がしゃべった!」

 それを聞いて、スノウはこめかみを揉みほぐす。アキラの苦労がようやく理解出来たと。

 とりあえず、スノウは巫女姫から預かっており、存在そのものがドラゴンの最高機密である事を告げ、クオーツの説明を避けた。その上でだからといって、クオーツが航空機を操縦できるとは言い切れない。

『大丈夫だ。構造は理解したし、私であれば機体に直接繋がって操縦は可能だ。空間把握も慣れている』

 念話でクオーツに説明されて、スノウはそれもそうかと理解する。なんと言っても、クオーツは機械伝達を含んだ複雑怪奇な内部構造である猫の外装を易々と操っており、元が宇宙空間にて浮かんでいた存在だ。加えるに自らがエーテルを魔力に変換する事すらできる。

「とりあえず、乗せてみてください」

 そう言い切ったスノウはテロンに試しにとばかりに、予備として組み上げたF-3のもとに案内してもらう。

 狭い格納庫の片隅にそのF-3は静かに佇んでいた。

 とんと地面から翼面上部に飛び、更にはそこから操縦席に潜り込んだクオーツは、下からは見えないことを良い事に、背中から細い触手を二本出すと、それを計器の隙間へと差し込んで機体本体と繋がり制御系ばかりでなくエーテル炉を掌握した。

 すぐにエーテル炉を発動させたクオーツは、魔力を下方に噴射して、機体を僅かに浮かべて静止させる。

「おい、俺は今すげーもんを見てるぜ」

「まさか機体を中に浮かべるなんて」

 どうやら、理論的には可能であることは知っていたようだが、実際は魔力の噴射の制御が難しく、今まで誰一人として成功した者はいなかったようだ。

 それが今、テロンとキラの目前で猫、とはいっても外装を被ったクオーツであったが、実現させていたのだ。

「これでいかがですか?」

 そのスノウの言葉に、テロンは頷くしかなかった。


今回、小話はございません。

すいません。

年末進行中なもので……


次回、明日中の投稿になります。

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