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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第8章 I Still Haven't Found What I'm Looking For
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8-9

引き続き、

第8章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

「どういうことだ、詳しく説明してもらおうか」

 会議室に戻ったアキラは、椅子に座ったエンに詰め寄っていた。そんな言葉もどこ吹く風かのように、ポットを傾けてカップに茶を注ぎ、優雅に口をつけた。

「だいたい察しはつくけどな」

 いつの間にかテーブルに登って寝そべっているブルーが呟いた。

 アキラは交互にエンとブルーに視線を送る。

 エンがカップをテーブルに戻した。

「この艦隊をあなたに預けるわ。もちろん共和国も承認済みですよ」

「馬鹿言うな。俺は軍の経験はない。どうやって指揮しろって言うんだ」

「経験がないのは、この艦隊のすべてがそうよ。戦いの方法ですら模索している最中だわ」

 共和国に海はないが、砂漠船での戦いは何度かは経験している。だがそれも船同士が接触しての接近戦ばかりである。航空機を使っての戦術など演習を経験しているだけだ。僅かに飛龍騎兵が存在していたために、かろうじて運用出来ているにすぎないと。

 エンの言葉を聞いたアキラは、呆れたように音を立てて椅子に座り込んだ。

「よくもまあ、そんなので航空機動艦隊なんて思いついて作ったな」

 その言葉に、エンの目が鋭くアキラを射貫いた。

「作らなければ、私たちは魔王に勝てないからよ」

「魔王艦隊っていうのは、それほどか」

 アキラの言葉に、エンは静かにゆっくりと頷いた。

「同じ力で殴り合ったら、私たちが負けるわ」

「魔王艦隊は、打撃艦隊か」

「そうよ。航空兵力は持ってないわ」

 なるほどと、アキラはエンの言葉に頷いた。知識の中には、打撃艦隊と機動艦隊が戦った場合、航空機で先手さえとれれば機動艦隊の方が有利だ。

 確かにアキラには知識はある。だが、それは映像であったり、書物であったり、実際に経験したものではない。しかも軍務には素人だ。そんな人間がいきなり指揮権を握ったとして、上手くいくはずがなかった。

 考え込むアキラの耳に扉が開く音が聞こえた。

 アキラが視線を向けると、入り口には先に顔を合わせたシオダ提督が立っていた。

「エント様が無茶を言っているのは承知だ。指揮を執れとは言わん。私に教えてもらえんか、艦隊での戦い方を」

 恐らくは歴戦の将軍であるシオダがアキラに頭を下げた。それはアキラに下げた頭ではなく、アキラの知識に対して下げたものだ。

「軍務は経験がありません」

「しかし、戦いの場には立ったのだろう。しかも敵手は王国や帝国、そして大精霊」

「それを言いますか」

 アキラは顔をしかめて、頭を下げ続けるシオダを見ていた。

 左右から両の腕を掴まれた。見ればリーネとツキの二人がアキラの腕を握っている。二人の視線がアキラの顔を見ていた。それを避けるようにテーブルへと目を向けると、ブルーと目が合った。

 ゆっくりとブルーが頷く。

 やってみろと。

 歴戦の(つわもの)が頭を下げているのだ。それに応えてやれと。

「交渉の常套手段だな。到底受け入れられないものを先ずは提示して、その後に要求を下げて受け入れやすくする」

「確かに、まさしくそうだな」

 頭を上げたシオダが、苦笑いを浮かべる。

 恐らく、艦隊の指揮を任せると言ったのは、エンは本当にそうしたかったのだろうが、軍の指揮を長く執っているシオダは、アキラが受け入れないだろうと実際的なもので考えていたのだ。

 要求を下げた態をとったのも、特に策として意識したものではないのだろうと、アキラはシオダの表情を見て感じていた。

 アキラはシオダの真っ直ぐで実務的なやり方を好ましく思った。

「分かりました。お手伝いさせていただきます」

「よろしく頼む。遠慮なく口を挟んでくれ」

 差し出されたシオダの手をアキラは握りしめた。

「それじゃ、坊やは艦隊ではどんな地位に就くの?参謀?」

「いや、指揮系統に組み込むのはよろしくない。私の個人的なアドバイザーではどうか」

「提督にお任せいたします。お気遣いありがとうございます」

 たとえ参謀職であったとしても、軍の指揮系統に組み込まれたら、必ずどこかで反発を生む。先ほど出会ったテロンとキラのように、無邪気に指揮を受け入れるという方が珍しいのだ。

 その点、シオダが個人的にアドバイスを受け入れるのならば、最終的に判断するのはシオダであり、指揮系統から外れたアキラに文句を言うのは筋違いになる。

 これは、言葉は悪いがシオダはすべての尻を持つと言っているのだ。アキラとて責任を放棄したわけではないが、シオダの懐の深さに甘えることになった。

「では、アキラ殿は私と一緒に艦橋に詰めてくれ」

 その言葉によって、リーネとツキ、そしてブルーは艦橋にて一緒にいることになったが、そこで、スノウが意外なことを言い出した。

「航空機に乗る方達と話しをさせていただけませんか?」

「それはどういう理由から?」

 もちろん、この空母に配備された航空機、いわゆる艦載機は共和国にとって最高レベルの極秘物であろう。獣人であり、筆頭族長の娘であるスノウをシオダが警戒するのは、いかに同盟国であっても当然であった。

「私は念話が使えます。もしも前線に出れば報告や指揮がスムーズに行えます」

「それは、しかし……」

 シオダが言葉を切って、エンを見る。

「話しても問題はないでしょう」

「分かりました」シオダは軽くエンに一礼の後にスノウに向き直った。「我々共和国は通信手段を二系統持っておる。ひとつは協同国でも使用が始められていると聞く光魔術を使ったもの、そしてもう一つはエーテルを使用したもの」

 光魔術の使用は、いわゆる光の点滅による信号で通信を行うもの。そして、エーテルを使用したものは、言葉そのものを精霊が変換してエーテルに乗せて送るものになる。つまりはエーテル波通信を魔術を利用してだが実現させていたのだ。

 しかし、エーテル波通信には一つ問題があった。これはエーテル波を発信した段階で、同様の技術を持った組織には探知される可能性が高いというものだ。もちろん、内容を傍受される可能性も高い。

 そして、エーテル炉を持つ魔王側はエーテル波を利用している可能性が高いのだ。

「念話では隠蔽も可能です。検討だけでもしていただけないでしょうか」

「しかし、あなたは訓練を受けていない。たとえ後席であっても航空機の機動に耐えられるかどうか?」

「我々獣人、特にスノウであれば可能だ」

 スノウとシオダの会話に、突然ライラが口を挟んだ。

 ライラによれば、獣人であれば、そしてスノウであれば問題はないという。もともと、獣人は身体能力が高い事が知られている。その上、スノウであれば魔術でシールドを身体全体に張ることで、一定の衝撃には耐えられると主張した。

「しかし、スノウ殿は族長の娘、拳聖であるあなたの妹と聞いている。前線に出すのはどうだろうか」

「提督、それは我々人狼、いや獣人を知らぬと申し上げる。たとえスノウが前線で散ったとして、我が父、筆頭族長のサイモンは散る意味あれば良しと言うであろう」

 そうであったと、シオダは後頭部を掻いた。壮年のエルフであるシオダは自分の価値をライラとスノウに押しつけてしまうところであった。

 獣人とは、一見穏やかに暮らしているようだが、やはり戦闘種族であった。

「良いんじゃないかな」

 エンの言葉に、シオダは仕方ないというようにため息をついた。

今回、小話はございません。

すいません。

年末進行中なもので……


次回、明日中の投稿になります。

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