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引き続き、
第8章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
扉が開くにつれ、部屋の中から光が零れてくる。
アキラ達は手をかざして、光を遮りつつ、エンに誘われて中へと入った。
部屋の中央には光り輝く丸い物体が、多くのケーブルやフレキシブルパイプに繋がれて鎮座しており、その周囲では何人かの明らかに兵士とは違った作業着の人々が動き回っていた。
忙しなく動いていた人々がエンが部屋に入ってきたことに気づいて手を止めるが、エンは続けるように手で合図して、アキラ達を指して気にすることは無いと続けた。
「これがこの船の動力源よ。共和国はこれを作ったけれど、これが何であるかは詳しく分かっていないのよ。ただ、エーテルを魔力に変換して、それを放射するだけのもの」
「魔力そのものを放出して推進するのか」
以前に海での船を見て、さらにはクオーツの話しを聞いていなければ、すぐには理解出来なかったであろう。
アキラの問いかけにエンは頷く。
「共和国ではエーテル炉と呼ばれているわ」
炉と言われ、更には光を放射していることから、アキラは原子炉発電所の核燃料保存プールが青白く発光している光景をどこかで見たことを思い出していた。それは科学技術が生み出した光であるが、このエーテル炉から発せられる光は、間違いなくこの世界の魔力に関するものであった。
この船は、やはり科学技術の革を被った魔術的な創造物であったのだ。
核燃料の保存プールの光はチェレンコフ光であるが、このエーテル炉から発せられる光はなんであろうか。
「この光は変換した魔力が漏れているからだな」
クオーツが自らが分析した結果を告げるが、外装を被っているため大きな猫が話しているように見える。
しかし、それにエンは驚く様子はない。
「例の水晶ですね」
「知っていたのか?」
驚いたのはアキラだ。隠していたつもりではあったが、どうやら大精霊であるエンにはお見通しであったようだ。
「もちろんですわ。あらあら魔力に敏感な精霊が見抜けないとでも?」
そのエンの言葉に、アキラは苦笑いを返す。確かにそうだろう。精霊と言えばエーテルと魔力に対して非常に密接な関係を持っており、そのどちらも内蔵するクオーツの存在を感知出来ないはずがなかった。
「ごめんよ、黙っていて。でも、あまり公言して欲しくない」
「もちろんそうでしょうね」
にこにこと笑ってエンが応える。その代わりと言ってはとエーテル炉の秘匿をアキラ達は改めて約束させられた。
「ただ、秘匿といっても魔王から盗んだ技術なのだけど」
「良く盗めたもんだ」
ブルーの言葉にエンが舌をペロリと出す。
「と言うことにしているの」
それでこの話はおしまいと言うように、エンは視線をリーネとスノウに向けた。
「どう、ここにいて何かを感じない?」
その言葉にリーネとスノウはゆっくりと頷き返す。
「魔力が補充されていく感じがいたします」
魔力の保有量が人並み外れて大きいとされているスノウが答えた。
通常であれば、スノウにとってはエーテルから魔力に自然変換されて補充されているのだが、その量は大したものではないため、体感する事は無いのだが、この部屋に入って光を浴びていると、自らに魔力が補充されている事が感じる事が出来て、それはスノウにとっては初めて体験するものであった。
リーネも頷いているところを見ると、同じような感想であったのだろう。
「とは言っても、これは予想してなかった現象なんですけどね」
エンが語るには、エーテル炉は船を推進する魔力を生み出すために、魔術師の代替として作られたのだが、いざ出来上がってみると変換した魔力がこぼれて光り出し、それを調べるために魔術師が近づいた時に魔力が充填されることに気づいたのだと。
つまり副産物であって主目的では無いのだが。
「魔力が剥がれた時の回復に使用できるのか」
「あらあら正解ですわ。向こうの奥に用意してあるわ」
アキラの質問にエンが部屋の向こうを指差す。それを追ってアキラが視線を向けると、確かに椅子や簡易寝台が一角に用意されていた。
「そればかりではあるまい。張り巡らせたパイプを通じて、船内の各場所に魔力を送っている。ここだけではなく、戦う現場でも魔力の補充が出来るように」
そのクオーツの指摘に、やれやれとばかりにエンが首を左右に振った。
「ご明察。さすがですわ」
ただし、各所に魔力を送った場合、推進に使用する魔力が減るために注意が必要なのだとエンは語るが、それが終えるのを待っていたかのように、エーテル炉の周囲で忙しく働いていた人物がやって来て、出航の準備が整ったと艦橋から連絡があったと伝えた。
「そう、提督にすぐに出発するように伝えて」
そのエンの言葉を受けて、伝えに来た人物がラッパのような管にとりついて、エンの言葉を話し始める。どうやら伝声管を使用しているようだ。エーテル炉という大がかりなものを作ることは出来ても、通信手段は開発されていないようだ。
ふとアキラがスノウを見ると、どこか自慢げな表情を浮かべているのが分かった。スノウはノーミーが教えたことによって、念話の魔術が使えるために伝声管という技術に対して優位に感じているのだろう。
そんなスノウを微笑ましく思うアキラだが、その視線に気づいたスノウが頬をほんのりと染め、さらにそれを見たライラが微笑んでいた。
船が桟橋を離れたのであろう。衝撃がアキラ達一行が襲い、アキラは周囲から小さな悲鳴を上げた幾人もの手が伸びて来て、それらすべてを助ける羽目になった。
エンが命じてから僅かな時間しかたっていない。たとえすでに用意していたとしても、凄まじいまでの即応性であった。
そんなアキラの考えを感じたのか、自慢げにエンが笑う。
それを見たブルーが鼻を鳴らす。何故かいらっとしたようであった。
今回、小話はございません。
次回、明日中の投稿になります。




