8-6
引き続き、
第8章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
じろじろと目前に立たれて、足の先から頭の天辺まで見られた。
「共和国軍のシオダ・カークだ。将軍を拝命しておるが、ここでは提督と呼ばれておる」
「シオダ将軍とお呼びしても?」
「提督で構わん」
シオダは帽子を被り、エンに振り返ると一際高くにしつらえられた椅子に座るよう勧めて、アキラには顎で桟だけの窓を指して、着いてくるように示した。
ここはやはり航空母艦の艦橋であった。
窓の向こうには全通甲板が広がっており、アキラが居るのは、いわゆるアイランドと称されるとこであった。全通甲板とは行っても、アングルド・デッキはなく、平たく長方形をしているもので、木張りである事がアキラには古い形式のものに見えた。
「本当に航空母艦なんだな」
下から見た時には、まさかという思いがあったが、こうして甲板を見下ろすと、どう見てもこの船が航空機を運用するための船である事が理解出来た。
ただし、甲板には航空機の姿はなかった。やはり出航してから合流するのが原則かとアキラは考える。
「この船の名はDH183だ。向こうがDH184。艦隊の旗艦はこのDH183となっている」
「固有名詞ではないのですね」
「そうそう、揉めに揉めてねー。それで面倒になったから計画番号をそのままにしちゃった」
どこかいたずらに成功した子供のように、エンが口を挟む。
この世界でこの規模の船だ。人名や過去の激戦地や都市名を名付けてもいいようなものだが、どうやら秘匿されている存在らしく、計画番号のままでも大丈夫のようであった。
「この船を見て、すぐに航空母艦と理解したようだが、見たことがあったのか?」
「いえ、物語などで知っているだけで。どのような戦い方をしたのかは知識としてあります。その栄光と終焉の」
アキラは瞑目する。かって知った物語に思いを馳せて。反撃、そして一矢報いて沈んだ船、翼なき船として出撃した虚しさ。
その言葉と姿に、一瞬だけエンに視線を送ってから、シオダはかすかに感嘆の声を上げる。
胸のポケットに収めていた紙片を取りだして広げ、シオダは無言でそれをアキラに手渡す。
書かれた内容を見たアキラは口を開いた。
「輪形陣というものですね。主要艦艇、ここではこの空母二隻を守備する形ですが、航空攻撃を想定されているのですか?」
「いや、これは検討中のものだ。しかし、知識があるのは本当のようだ」
そう言ってアキラから紙片を取り戻して、シオダは不器用そうに笑みを浮かべた。
その後、エンはアキラを連れて艦橋を出て行くのだが、その背中を見送るシオダが呟いた。
「使えるな。エント様の話し、確かなようだ」
そして、この年で学ぶべき事が出来たのは喜ばしいと続けるのだった。
エンに連れられたアキラは、先に一度入った会議室に戻り、残していた一行に合流を果たした。
案内してきたエンとは入り口で別れていた。
会議室の中をアキラが見回すと、簡単に摘まめるような軽食がテーブルの上に並べられており、アキラの一行以外には誰もいなかった。
待遇は悪くはないようだし、監視も付けられていないようだ。好奇心が旺盛なリーネとクオーツが船の中を見て回りたいと騒ぎ、好奇心が旺盛なスノウが無言ながらもそれに同調している雰囲気を漂わせていた。
椅子に座ったアキラは、皿から一口サイズのサンドイッチをつまんで口に放り込むと、すぐにツキが茶を入れて差し出してくれた。そこで、皆の視線が自分に集中していることに気づく。
居心地の悪さに、アキラは左右を見回してから口を開いた。
「詳しい話しは無かったけど、この船で帝国へ向かうことになると思う」
「それは道理だが、我々はこの部屋に軟禁されてかね」
いかにも感情を意図して込めた不満げに猫の姿をしたクオーツが尋ねる。よほどこの船を見て回りたいようだが、それはただ自分の好奇心を満たしたいだけでは無い様子が、アキラには見て取れる。
「この船が気になるのか?」
「気になる。構造等がどうなっているか知りたいが、それ以上にこの船には私と同じような存在がある。それを見たい」
「この船はクオーツのようなものを積んでいるのか?」
豹を思わせるほどの大きさである猫の姿をしたクオーツは首を傾げて、顔を手で洗った。どうやら旅の途中で見かけた猫を模倣しているのだろう。
「厳密には、私と同一存在ではないが、私を模倣してエーテルを魔力に変換していると考察する」
どうやらクオーツは、この船の様子をざっとではあるが、すでに見たようだ。視覚に頼らないクオーツは壁を透過して自分にたどり着いた波長を感じて、船の中の構造などをすでに文字通り感じていたのだ。
一通り説明を受けたアキラが腕を組んで、ブルーに話しかける。
「エンを呼び出せないか?」
「もうやってる。すぐに来る」
その返事が終わらぬうちに、エンが会議室の中に姿を現した。その顔には訝しげな表情を浮かべている。どうやら、ブルーは呼び出すばかりでなく、クオーツが話した内容も告げていたようだ。
「この場から出ていないはずなのに、なんで知っているの?精霊が働いた形跡はないのに」
魔術を使っていないのに、何故とエンは尋ねてくるが、それにアキラは答えるつもりはなかった。今ここでクオーツの能力の一端を明かしたところで何の益も無いからだ。
「何故エーテルを魔力に変換している?放っておけば自然に起こる事だろう。それとも、魔力を作らないといけないほど必要なのか?」
アキラの質問に、エンはすぐに答えようとはしない。
アキラとエンはじっと視線を交わし合っていたが、やがて折れたかのようにエンが口を開いた。
「教えるつもりはあったのよ。でもね、秘密にしておきたいから、機会をうかがっていたの」
どうやら、クオーツが見つけたものは、この船、いや共和国内でも機密に類するもののようだ。
「ついて来てちょうだい」
その言葉を合図に、エンはアキラ達一行を会議室の外へと誘った。
長い廊下を抜け、階段を幾つも降りた。だんだんと警備のための兵士が目立つようになり、エンは二人の警備兵に守られた扉の前に立った。
「これから見るものについては、決して外では話さないで」
そう言いつつ、エンは扉の一角に手の平を当てた後に、警備兵に扉を開くように命じた。それはかなりの重量を持っているのか、二人の警備兵の手によって重々しく開けられていく。
大好きな船があります。
それこそ年齢一桁の時から恋い焦がれている船です。
名を飛龍と言います。
愛しています。
次回、明日中の投稿になります。