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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第1章 天使(エンジェル)
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誤字脱字、直しつつ始めて行きます。

どうか、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールド ログハウス

 小屋から持ち帰った荷物をほどき、手分けして運んでいく。

 食料は地下に設けられた貯蔵庫や、精霊によって低温に保たれた部屋、いわゆる冷蔵室へと運び入れていく。

 他にも、自作できない建築資材、これはブルーの趣味のため、彼専用の倉庫へ。

 そんな作業を終えて、しばらくは以前のような、普段の生活に戻っていた。

 暇を持て余したわけではないが、アキラは王都で人気のあった、アイスクリームの製造に挑戦していた。

 ツキに許可を得て、記憶をたどりながら材料を集めていく。

「アイスクリームマシンは取り扱ったことがあるから、レシピは覚えているはずだけど……」

 ただし、記憶が曖昧で、材料や分量について、自信を持つことが出来ない。

 とりあえずは、牛乳、生クリーム、砂糖が貯蔵されていたのは上出来だ。氷ないしは冷蔵などの減温は魔術に頼るとして、問題となったのは卵黄、つまり鶏卵がなかった。それとバニラエッセンス。おそらく、アキラの記憶が正しければ、バニラエッセンスは風味付けで、なくとも出来るが、あった方が味は良くなると思う。

 手に入った牛乳、生クリーム、砂糖を前にして、アキラは首をひねる。

「ねぇ、これでアイスクリームが出来るの?」

「それが、あると予測していたのがなくて、ないだろうなと思っていたのがあった。これだけでも出来るだろうけど、多分、リーネが期待するものにはならないな」

 にこにことアキラの後をつけてまわり、今ではテーブルをのぞき込んでいたリーネが、不満の声を上げる。

「えー、家でもアイスクリーム食べられると思って、楽しみにしてたのに」

「期待外れで、ごめんよ」

「で、何が足りないの?」

 鶏って存在するのだろうか。少なくとも飼っている様子はない。卵を使った料理は、何度か食べているため存在するだろうが、それが果たして鶏卵であったかどうか。鳥の卵であればなんとかなるであろうが、は虫類の卵であった場合、アキラの覚えているレシピをそのまま使う事は出来ないだろう。

 精霊がどのように訳すか、とりあえずはたずねることとする。

「鶏っていう鳥の卵と、出来ればバニラエッセンスが欲しい」

 アキラの質問に、リーネは表情を明るくした。

「ニワトリはいるよ。近くの森だから大丈夫。バニラはツキのハーブ畑にあったと思う」

 バニラはツキが育てているようだ。以前、ツキがバニラ風味のクッキーを作ったことを、リーネは覚えていたのだ。それほど多くは育てていないようだが、入手は期待できる。

 問題は鶏卵だ。

 どうやら採りに行かねばならないようだ。

 考えるアキラを残し、リーネが台所を飛び出していった。

「ブルー、ブルー、アキラと一緒に狩りへ行ってくる!」

 遠くから「良いぞー、気をつけてなー」とか返事が聞こえてきた。

 それから、リーネに手を引かれ、気がつけば森の縁に立っていた。

 ニワトリは森の中ではなく、森の縁の平原で群れているのだと。

「いたよ。あそこだね」

 リーネが指さす方向に視線を向ける。アキラは思っていた以上に近くにいるなと見ていたが、ふと気づいた。

 記憶と縮尺が違う。

「でかっ!あれがニワトリ……」

「そうだよ、今日はお肉が目当てじゃないから、静かに近寄らないと」

 リーネが示したニワトリとは、軽乗用車を少し小さくした程度の大きさだった。しかも、乱獲はだめだと注意してくる。卵だけを採るのだと。

 結果、囮となったアキラが逃げ回る間に、リーネはいくつかの卵を入手していた。

「まさか、刀でくちばしを受け止める事になるとは……」

 追いつかれ、ニワトリの攻撃を封じるために、アキラは抜刀していた。

「これで大丈夫?」

 息を切らせるアキラに、リーネが差し出した卵。本体が大きいため、卵も以前アキラが見たことのある、ダチョウのものほどあった。

 手では一つくらいしか持ち帰る事が出来ないため、リーネが用意した背負いかごに入れた。来るときには、なぜ背負いかごなど必要なのかと、疑問に思いながら背負ってきたが、ようやく、なるほど、必要だとアキラは一人で頷いていた。

 ログハウスへと戻り、ツキに声をかけると、バニラビーンズを畑で採って手渡してくれた。これもデカかったらどうしようかと、アキラはドキドキしていたが、意に反して、大きさは普通だった。

 すべての材料がそろった。アキラはしっかりと手を洗い、準備を整えた。

「では、調理を始めます」

「おー、始めようー」

 よほど楽しみなのか、リーネのテンションが高い。

 鍋を、板の上に乗せ、牛乳と砂糖をアキラのうろ覚えのレシピに従い投入し、発熱を行う。何か、IHヒーターみたいだと、アキラは思う。

 後は記憶に従い、順番に投入していく。生クリームはリーネが泡立てた。魔術を使って棒でかき混ぜており、勝手に回転する棒の様子が変に見えるアキラだった。途中、味見をしてみたものの、今ひとつ分からない。

 とりあえず、すべての材料を入れ終わったので、ボウルに入れて冷やす事にする。

 リーネが頑張った。いや、正確には精霊が頑張った。

 一旦、冷やすのを止めてもらうが、ここでリーネが抵抗した。

「えー、もうちょっとで全部凍るよ」

「ここで、一工夫がいるんだ」

 そう言って、アキラはリーネからボウルを奪い、スプーンでかき混ぜ始めた。

「だめだめ、溶けちゃう!」

「いいから、いいから」

 全体を混ぜ合わせた後、再びリーネに冷やしてもらうが、なにかぶつぶつ文句を言っており、アキラは懸命になだめるはめになった。

 状態を眺めつつ、アキラがリーネを止めた。

「よしっ、これでいいだろう」

「出来たの?」

 途中の行程が不満だったのか、リーネは不機嫌だ。

「味は保証出来ないけれど、アイスクリームにはなっている」

 不満の声をあげつつも、リーネはツキとブルーを呼びに出て行った。

 全員がリビングにそろい、アキラが皿に盛り付けたアイスクリームを配膳していく。

「ちょっと、味を保証出来ないが、食べてくれ」

 不安が残るアキラの言いように、皆はこわごわとスプーンを手にして、口へと運ぶ。

 全員が目を丸くする。

「こりゃ、確かにアイスクリームだ」

「よくレシピが分かりましたね」

「えー、なんで!なんで、おいしいの!」

 少しリーネの反応がおかしいが、概ね好評だ。もちろん、アキラが試したところ、やはりバニラエッセンスの量などのおかげか、予想していた味とは違う。

 改良は必要だろうが、初回ならばこんなものかと、アキラは一応は満足するのだった。

「もしかして、料理がお得意ですか?」

 普段、皆の食事作りを担当している、ツキの目が怪しい。

 出来るのならば、なぜ、手伝わない。

 視線が明確に物語っていた。

「料理っても、乱暴で簡単な、いわゆる男の料理だぞ」

「出来ると?」

 ツキの追求が厳しい。

「塩、砂糖なんかは大丈夫だろうけど、醤油とか味醂がないとな……」

「ショウユ?ミリン?」

 ツキが首を傾げる。どうやら、この世界にはない、あるいはツキが知らないだけか?

「とにかく、出来るならば、今後は手伝ってください」

「いや、手伝うのは良いけれど、邪魔するだけで……」

「かまいません。ご一緒……!」

 ツキは気づいた。にやにや笑うブルーに。リーネはアキラの腕をぶんぶんと振って、「手伝ってあげなよー」とか言っているだけだ。

 とりあえず、アキラの仕事が増えた。

 ログハウスでは、穏やか?な日々が過ぎていた。


次回、明日の午前中に投稿いたします。

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