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誤字脱字、直しつつ始めて行きます。
どうか、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。
蒼龍の守護地 ログハウス
小屋から持ち帰った荷物をほどき、手分けして運んでいく。
食料は地下に設けられた貯蔵庫や、精霊によって低温に保たれた部屋、いわゆる冷蔵室へと運び入れていく。
他にも、自作できない建築資材、これはブルーの趣味のため、彼専用の倉庫へ。
そんな作業を終えて、しばらくは以前のような、普段の生活に戻っていた。
暇を持て余したわけではないが、アキラは王都で人気のあった、アイスクリームの製造に挑戦していた。
ツキに許可を得て、記憶をたどりながら材料を集めていく。
「アイスクリームマシンは取り扱ったことがあるから、レシピは覚えているはずだけど……」
ただし、記憶が曖昧で、材料や分量について、自信を持つことが出来ない。
とりあえずは、牛乳、生クリーム、砂糖が貯蔵されていたのは上出来だ。氷ないしは冷蔵などの減温は魔術に頼るとして、問題となったのは卵黄、つまり鶏卵がなかった。それとバニラエッセンス。おそらく、アキラの記憶が正しければ、バニラエッセンスは風味付けで、なくとも出来るが、あった方が味は良くなると思う。
手に入った牛乳、生クリーム、砂糖を前にして、アキラは首をひねる。
「ねぇ、これでアイスクリームが出来るの?」
「それが、あると予測していたのがなくて、ないだろうなと思っていたのがあった。これだけでも出来るだろうけど、多分、リーネが期待するものにはならないな」
にこにことアキラの後をつけてまわり、今ではテーブルをのぞき込んでいたリーネが、不満の声を上げる。
「えー、家でもアイスクリーム食べられると思って、楽しみにしてたのに」
「期待外れで、ごめんよ」
「で、何が足りないの?」
鶏って存在するのだろうか。少なくとも飼っている様子はない。卵を使った料理は、何度か食べているため存在するだろうが、それが果たして鶏卵であったかどうか。鳥の卵であればなんとかなるであろうが、は虫類の卵であった場合、アキラの覚えているレシピをそのまま使う事は出来ないだろう。
精霊がどのように訳すか、とりあえずはたずねることとする。
「鶏っていう鳥の卵と、出来ればバニラエッセンスが欲しい」
アキラの質問に、リーネは表情を明るくした。
「ニワトリはいるよ。近くの森だから大丈夫。バニラはツキのハーブ畑にあったと思う」
バニラはツキが育てているようだ。以前、ツキがバニラ風味のクッキーを作ったことを、リーネは覚えていたのだ。それほど多くは育てていないようだが、入手は期待できる。
問題は鶏卵だ。
どうやら採りに行かねばならないようだ。
考えるアキラを残し、リーネが台所を飛び出していった。
「ブルー、ブルー、アキラと一緒に狩りへ行ってくる!」
遠くから「良いぞー、気をつけてなー」とか返事が聞こえてきた。
それから、リーネに手を引かれ、気がつけば森の縁に立っていた。
ニワトリは森の中ではなく、森の縁の平原で群れているのだと。
「いたよ。あそこだね」
リーネが指さす方向に視線を向ける。アキラは思っていた以上に近くにいるなと見ていたが、ふと気づいた。
記憶と縮尺が違う。
「でかっ!あれがニワトリ……」
「そうだよ、今日はお肉が目当てじゃないから、静かに近寄らないと」
リーネが示したニワトリとは、軽乗用車を少し小さくした程度の大きさだった。しかも、乱獲はだめだと注意してくる。卵だけを採るのだと。
結果、囮となったアキラが逃げ回る間に、リーネはいくつかの卵を入手していた。
「まさか、刀でくちばしを受け止める事になるとは……」
追いつかれ、ニワトリの攻撃を封じるために、アキラは抜刀していた。
「これで大丈夫?」
息を切らせるアキラに、リーネが差し出した卵。本体が大きいため、卵も以前アキラが見たことのある、ダチョウのものほどあった。
手では一つくらいしか持ち帰る事が出来ないため、リーネが用意した背負いかごに入れた。来るときには、なぜ背負いかごなど必要なのかと、疑問に思いながら背負ってきたが、ようやく、なるほど、必要だとアキラは一人で頷いていた。
ログハウスへと戻り、ツキに声をかけると、バニラビーンズを畑で採って手渡してくれた。これもデカかったらどうしようかと、アキラはドキドキしていたが、意に反して、大きさは普通だった。
すべての材料がそろった。アキラはしっかりと手を洗い、準備を整えた。
「では、調理を始めます」
「おー、始めようー」
よほど楽しみなのか、リーネのテンションが高い。
鍋を、板の上に乗せ、牛乳と砂糖をアキラのうろ覚えのレシピに従い投入し、発熱を行う。何か、IHヒーターみたいだと、アキラは思う。
後は記憶に従い、順番に投入していく。生クリームはリーネが泡立てた。魔術を使って棒でかき混ぜており、勝手に回転する棒の様子が変に見えるアキラだった。途中、味見をしてみたものの、今ひとつ分からない。
とりあえず、すべての材料を入れ終わったので、ボウルに入れて冷やす事にする。
リーネが頑張った。いや、正確には精霊が頑張った。
一旦、冷やすのを止めてもらうが、ここでリーネが抵抗した。
「えー、もうちょっとで全部凍るよ」
「ここで、一工夫がいるんだ」
そう言って、アキラはリーネからボウルを奪い、スプーンでかき混ぜ始めた。
「だめだめ、溶けちゃう!」
「いいから、いいから」
全体を混ぜ合わせた後、再びリーネに冷やしてもらうが、なにかぶつぶつ文句を言っており、アキラは懸命になだめるはめになった。
状態を眺めつつ、アキラがリーネを止めた。
「よしっ、これでいいだろう」
「出来たの?」
途中の行程が不満だったのか、リーネは不機嫌だ。
「味は保証出来ないけれど、アイスクリームにはなっている」
不満の声をあげつつも、リーネはツキとブルーを呼びに出て行った。
全員がリビングにそろい、アキラが皿に盛り付けたアイスクリームを配膳していく。
「ちょっと、味を保証出来ないが、食べてくれ」
不安が残るアキラの言いように、皆はこわごわとスプーンを手にして、口へと運ぶ。
全員が目を丸くする。
「こりゃ、確かにアイスクリームだ」
「よくレシピが分かりましたね」
「えー、なんで!なんで、おいしいの!」
少しリーネの反応がおかしいが、概ね好評だ。もちろん、アキラが試したところ、やはりバニラエッセンスの量などのおかげか、予想していた味とは違う。
改良は必要だろうが、初回ならばこんなものかと、アキラは一応は満足するのだった。
「もしかして、料理がお得意ですか?」
普段、皆の食事作りを担当している、ツキの目が怪しい。
出来るのならば、なぜ、手伝わない。
視線が明確に物語っていた。
「料理っても、乱暴で簡単な、いわゆる男の料理だぞ」
「出来ると?」
ツキの追求が厳しい。
「塩、砂糖なんかは大丈夫だろうけど、醤油とか味醂がないとな……」
「ショウユ?ミリン?」
ツキが首を傾げる。どうやら、この世界にはない、あるいはツキが知らないだけか?
「とにかく、出来るならば、今後は手伝ってください」
「いや、手伝うのは良いけれど、邪魔するだけで……」
「かまいません。ご一緒……!」
ツキは気づいた。にやにや笑うブルーに。リーネはアキラの腕をぶんぶんと振って、「手伝ってあげなよー」とか言っているだけだ。
とりあえず、アキラの仕事が増えた。
ログハウスでは、穏やか?な日々が過ぎていた。
次回、明日の午前中に投稿いたします。




