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引き続き、
第8章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
リシア共和国 砂漠地帯近辺 ????
アキラ達は、数度の野営を行ってたどり着いた、砂漠に突き出した地の先端。
一行は精霊馬やホーンホース、猫から降りて周囲を見回していた。
一見して何も無かったが、ここに船が待ち構えているとエンがブルーに連絡してきた場所であった。
やがて、魔術師として優秀で魔力に敏感なリーネやスノウ、そしてツキとブルーが一点に視線を集中し始めた。
顔を見合わせる。
「隠蔽の痕跡だね」
真っ先に口を開いたのはリーネで、続いてスノウ。
「かなり大規模のようですが、そうは感じられないところが凄いです」
どうやら魔術師二人は、隠蔽の魔術を行使している精霊に対して、その精密さにかなりの驚きを覚えているようだ。
「光の屈折などではなく、純粋に魔力で覆っているのか」
クオーツも猫の姿で平板な声を上げるが、どうやら感心しているようだ。
「それで、どっから入ったらいいんだ。エンが黙ったままだぞ」
ブルーがしきりと視線をあちらこちらに送り、前に進もうとするが、隠蔽に加えて物理遮断の魔術まで重ね掛けされているようで入る事が出来ない。エンに入り方を聞こうにも返事がないようだ。
だんだんとブルーの苛立ちが増してきており、それがどうやらリーネに伝染したのか、空を覆うかのような大きな魔方陣が宙に描かれた。
「面倒だよ。中和するね」
別にアキラ達に反対する理由が無かったので、リーネに好きにさせようとするが、慌てたかのように姿を見せたエンが、リーネの前に立ち塞がった。
「駄目、駄目よ。お願い止めて!」
普段はのんびりした口調で話すエンであったが、この時はよほど慌てていたのか、いつもよりは早く話していた。でもそれでも普通並であったが。
何とか、リーネの魔術を止めて落ち着くように説得を成功させたエンが、げんなりとした顔をしていた。
「この隠蔽、私じゃなくて精霊がしてくれているのよ」
だから、やり直すとなると精霊への指示などで、手間がかかってかなり面倒なことになるのだと、エンはしきりと説明していた。
「それじゃ、さっさと入り方を教えりゃいいものを」
「……ごめんなさい」
ブルーの苦情に頭を下げるエン。
どうやら、よほど上手くいった魔術を自慢したくて、サプライズを仕掛けたつもりのようだ。
「とりあえず入って」
エンが精霊に合図を送ると、隠蔽が一部解けて中に入れるようになった。
アキラ達はエンに続いて中に入る。
喧噪が一行皆の耳朶を打つ。
そこには異様な空間が広がっていた。
隠蔽されている空間は、砂漠のかなり先にまで広がっているようだ。
「嘘だろう……」
アキラだけが唖然として、それを見上げていた。一行のアキラ以外の者は、それが何かを理解出来ないようで、周囲を見回し、目前のものを見上げるばかり。
「軍艦……、いや、あの形は空母か……」
アキラが目にしているのは、桟橋を挟んで停泊している二隻の船、まさしく航空母艦の形状をしている船であった。鋼鉄張りでは無く、明らかに鋼鉄そのものを構造材として使用し、船体を作っていた。
下から見上げる形になっているアキラの目には、艦の上部がどうなっているかは詳しく見ることが出来ないが、フラットな全通甲板のように見えた。本物を見たことはないアキラであったが、写真や映画を見た記憶によれば、太平洋戦争で使われた航空母艦よりも小さく感じられる。
視線をさらに航空母艦の向こうにやると、何隻かの船が桟橋から離れて錨を下ろして停泊しているが、そちらも太平洋戦争の時に使われた駆逐艦や巡洋艦のシルエットをしている。
どこか太平洋戦争中の泊地や根拠地を思わせるが、自分達の側に視線を向けると、馬が牽く荷馬車が行き交い、魔術師であろうか、手に魔方陣を浮かべて作業をしていた。
それはまるで、剣と魔法の世界に、突然に旧大日本帝国海軍が転移してきたかのような、居心地の悪い風景だ。
「あらあら、やっぱり一目見て、分かったみたいね」
いつの間にか、アキラは前へと進んでおり、先を歩いていたはずのエンが背後になっており、声をそこから掛けてきた。
「帝国海軍が転移してきたのか!」
勢い込んで尋ねるアキラだが、それをいなすように手の平を口にあてて、ころころと笑うエン。
「あの船達は、正しく共和国がつくりました」
そう言って、エンは大きな胸を張って自慢げな表情を浮かべた。
「馬鹿な、技術的に何世代も先のものだぞ。作りましたと言われて、はい、そうですか……」
そこまで話したアキラは思い出していた。
守護地と王国の境界にあったキャリアーの存在。百年前につくられたと言うが、その技術は連綿と歴史の裏で受け継がれ、こうして花開いていたのか。
「あのキャリアーの技術を発展させたのか?」
「半分正解で、半分大間違い」
答え合わせをするかのようにエンが語るには、目前の軍艦達はキャリアーを発達させたものではない。実は、技術的な断絶はやはり発生していたのだが、芽は残しており、新たな技術や考え方を知ることによって改めて作り上げる事が出来たのだ。
「しかしキャリアーもそうだが、動力はどうなってる?」
「そんな重要な事を、ここでは話せません」
両手を腰に当て、頬を膨らませたエンが着いてくるようにと言って、先に歩き始めた。
エンの先には、桟橋から航空母艦へと昇る階段が作られており、船腹の中央から中に入る事が出来るようになっていた。
中に入ったアキラは、なるほどと頷いた。内装が明らかに近代や現代のものではなく、木やローマンコンクリート、レンガを使用したこの世界のものであったからだ。それだけに、ちぐはぐなイメージから抜け出せない。
アキラ達一行は、エンに導かれるままに、その背を着いていく。
途中、会議室らしき部屋に入ったがアキラだけがエンに招かれて、改めてその部屋を出て廊下をエンとアキラは進む。
木を張られた廊下を歩き、階段を幾つも昇って出たのは艦橋のようだが、それをすぐに理解できるのもアキラだけだろう。それも操舵輪らしきものを目にとめたからからなのだが。
「エント様入室!」
笛が鳴らされてどこからか声が上げられた。
その艦橋らしき部屋にいたのは数人だけであったが、笛の音と声を聞いて慌てて背筋を伸ばして出入り口に視線を向ける。敬礼こそはしなかったものの、一人を除いて帽子を脱いだ。
それにエンは笑って手を掲げ、そのまま作業を続けるように命じ、一人の壮年の男に向かって歩いて行く。
「提督、連れてきましたよ」
「あの小僧ですかな?」
提督と呼ばれた男は、エンに向かって帽子を脱いで軽く頭を下げた後、アキラへと視線を向けた。
明らかに見定める様子が込められた視線に、アキラは身体を硬くする。元いた世界で、取引先の重役や社長などの偉い人からも同じような視線を向けられたことを、アキラは思い出していた。しかし、逆にアキラにとっては慣れた感覚でもあったのだ。
だから、素早く腰を曲げて頭を下げた。
「ローダン商会の本店に所属しますアキラと申します」
そのアキラの言葉を聞いても、男の品定めは終わらず、ゆっくりと近付いてきた。
社畜男:「基準排水量19,500トン 満載排水量26,000トン 全長248.0メートル 最大幅38.0メートル……」
幼女もどき:「おかしくなったー」(涙)
大太刀:「あまりの出番のなさに……。哀れです」
わんわん:「……トンって、メートルってなんだ?」
数字を信じないように。
嘘です。
次回、明日中の投稿になります。




