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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第8章 I Still Haven't Found What I'm Looking For
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8-4

引き続き、

第8章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

アヌビアス族長協同国 モス帝国国境近郊 街道脇

 丘の上に立って、フォイルは眼下を見つめていた。

 多くのテントが立ち並び、煮炊きの煙りが幾つも立ち昇っていた。

 フォイルとて、協同国の内戦にて軍を指揮する事は幾度としてあったが、これほどの規模の軍、しかも協同国の軍として相応しく全獣人族混成の軍を指揮するのは初めてだった。ましてや、先の帝都包囲戦とは違って、まさしく外征と呼べる軍勢などを率いることになるとは思ってもみなかった事だ。

 細々とした指示は、獣人各種から派遣された幕僚に任せて、フォイルは自分の指揮する軍の全容が見たいがために、ここに一人で昇ってきていた。

 魔王の軍と戦う。

 自分達を滅ぼそうとする敵と戦う。

 勝たなければならない。

 フォイルは自身の中で戸惑いを感じていた。

 今まで、人虎達のみを指揮指導して守ってきた。それが、今は獣人ばかりでなく、人も含めて守らなければならない。

 どうすれば、どのような心構えが必要であるか。

 そして、それが出来るのか。アキラの手足となって。

 それがフォイルの戸惑いであった。

 背後の気配に、フォイルは素早く身を翻し、膝と両拳を地面に突け、頭を垂れた。

 僅かの間の後、小さな手がそっとフォイルの頭を撫でた。

 サインの手がフォイルの頭に乗せられていた。

 いつもであれば、それは頭を上げて良いという合図だが此度は違う。しばらくフォイルが待つが、サインの手は乗せられたままだった。

「魔王は本気。配下以外の人や獣人を滅ぼそうと考えている。すべてを惰弱と断じて滅ぼそうとしている。私の好きな人や獣人を守って。そして」サインの言葉が途切れる。「フォイル、無事に戻って。皆を無事に戻して」

 話すことが、けっして得意ではないサインが、訥々(とつとつ)と話す。懸命に思いの丈を話す。

 フォイルは頭垂れながら、目蓋を閉じる。

 戦いに赴くのだ。

 そのサインの言葉に頷く事は難しい。

 崇め奉るサインの言葉。

「肝に銘じます」

 フォイルの胸がちくりと痛んだ。そして、それを和らげるようにサインがフォイルの頭を撫でた。

 一兵足りとて損なうまい。

 そう、フォイルは胸に刻み込んだ。


財団(ファウンデーション) 商都リアルト 炎の庭園

 庭園の中央部に置かれたソファに、リータはだらしなく座っていた。

 テーブルに置かれたカップに手を付けようともせず、ぼんやりと自分が作り上げた炎の木々に視線を送っていた。

 何の前触れも合図もなしにミュールが広場に姿を現した。静かにリータの前に腰掛け、片隅で待機していたメイドを呼び寄せると、ハーブティーを用意する様に命じた。

 手際よく用意され、カップに注がれたハーブティーを一口含み、メイドをミュールはこの場から外させ、警護も合わせて人払いをした。

 依然として、ミュールに気づいてないかのように、ぼんやりと木々を見つめているリータ。

 やがて、カップが空になった。

「軍の即応体制が整いました」

 魔王の侵攻が開始されるであろう位置から、財団(ファウンデーション)は遠い。

 国家として、帝国に協力するために軍を派遣するという手段はありはしたが、ミュールはそれをせず、内に籠もって魔王の軍を向かい討つことにした。

 軍に余裕が無いわけではない。傭兵とはいっても、国土を防衛し、更には外地へ派遣するだけの兵力を養ってはいた。

 しかし、財団(ファウンデーション)には致命的な弱点が存在した。

 その派遣軍を指揮するに足る人材がなかった。

 国内で戦うのならば、商都からの伝令などで軍の指揮は可能であったが、派遣軍として外部に出すとなると、能力、そして信頼に足る人材がなかった。

 バスが王国に戻ったのは、財団(ファウンデーション)にとっては痛手となっていた。

 足下を見られる覚悟を決めて、急遽に傭兵の市場をあたってみたものの、やはり想定しているだけの軍を指揮しうる者はいなかった。

 一軍を指揮できる者は、やはりどこの国であっても貴重なのだ。ましてや傭兵という金で都合のつく者などは財宝にも等しい。

 バスを引き留められなかったのは、金の問題ではないため、諦めるのは早かったが。

「魔王に勝った後、財団(ファウンデーション)は戦いに積極的ではなかったとして、あまり良い立場ではなくなりますね」

 外交的な立場は苦しくなるだろうとミュールはため息をつく。

「そうか、俺が指揮するってのも、変な話しだしな」

 ようやく、リータがミュールの言葉に反応して、冷え切った茶の入ったカップを取り上げて、唇を湿らせた。

「大精霊が軍を指揮するなど……」

 基本的に、大精霊は人や獣人の戦いに介入することを嫌う。先のシルにしても、国家を名指しにしてはいない、あくまでも討伐の対象はドラゴンであった。

 ただし、指揮した例が無いとは言えない。

 その時の敵は破壊者の群れであったが。

 つまり、リータは魔王を破壊者とは同列とせず、あくまでも人や獣人と同じに扱おうとしているのかとミュールは考えた。

 そうなれば、魔王の脅威とは、それほどのものでは無いのだろうか。

「悪いが、俺はここにはいられない。アキラの側についていてやる」

「何故です?」

 問わずにはいられなかった。何故にそこまでアキラという人に肩入れをするのか。友人だというものでは説明仕切れない。

「アキラが心配だ。魔王は俺たちより強い」

 秘密を告げるかの用に、リータは小声で話す。それを聞き取ったミュールは驚きを隠せない。

 魔王は魔術は使えはするものの、正しく人である。それは複数の大精霊が公言している。だが、魔王の強さについては、どの大精霊も語ろうとしなかったのが、今ここにリータの口から語られたのだ。

「人と獣人を滅ぼすという。魔王はそれだけの力を持っているんだよ」

 人でありながら人を捨ててと。

 冷えた茶を一気に飲み干したリータは、カップを乱暴にテーブルへと戻した。そして、驚きから抜けきれないミュールの視線を捉える。

 ここを空けることになって済まんがとリータは言う。そしてだからこれで許せと続けた言葉。

「今回は、財団(ファウンデーション)の看板だけは背負(しょ)ってやる」

 テーブルに戻したカップをリータは片手で握りつぶした。

 陶器の欠片が砂のようになって、リータの手からこぼれ落ちていく。

「姉貴や妹達がなんと言おうと、俺はオベロンが嫌いだ。絶対に忘れねぇ、あいつのしでかしたことを」

 テーブルの上で、小山になっていたカップの粉砕物が燃え上がった。

 ゆらゆらと揺れる炎をミュールは見つめている。

 その炎は、初めてミュールに見せたリータの心の内のようだった。


小話がくどくなってきたので、

今回はなしとさせていただきます。

社畜男、

お前が悪い!


次回、明日中の投稿になります。

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