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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第8章 I Still Haven't Found What I'm Looking For
147/219

8-3

引き続き、

第8章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

ブセファランドラ王国 王都パリス 王宮前広場

 この日、実戦を想定した装備を身につけた兵士、きらびやかな軍装を纏った近衛が部隊を単位として、王宮前広場にて整列していた。

 普段は憩いの広場として開放されており、屋台が並ぶ一角などもあって、賑やかではあってもどこかのんびりとした雰囲気の漂う空間であったが、この日はいつもとは違った厳しいような雰囲気だ。

 兵や近衛達は口を開く事もなく、微動だにせず槍などの武器を手にしていたが、兵や近衛達以上に集まった民間の市民達が、騒がしくも雑然とした様子で見つめていた。

 そう、多くの市民達は王国としては珍しい、いや過去の歴史を紐解いてみなければ数える事が出来ない外征の出発を見るために集まってきたのだった。

 ファンファーレが鳴らされ市民達も静まりかえると、国王がディーネを伴い兵達の前に姿を現し、後方に控えた魔術師の拡声の魔術によって、魔王との戦いに赴く兵達を激励する。

「相変わらず、しけた演説だな」

 広場の一角に設けられた、テントの入り口から顔を覗かせたキムボールが呟く。今回の軍の指揮を任せられたために、待機所代わりのこのテントにいたのだった。そうでなければ、先発しているこの広場と同程度の規模である、輜重を含んだ支援部隊と一緒に出発していたであろう。

 そのキムボールの呟きを、彼の後方で控えていたバスが聞き、苦笑いを浮かべる。

「仮にも国王陛下の演説だ。そんなことを言うものではない」

「まあ、やったことのない外征の叱咤激励だ。慣れないのも無理ないが、もう少しマシになったと思うけどな」

 内容を考えたのが、文官であるか、武官であるかは知らないが、ちょっとは頑張れよとキムボールは愚痴る。

「ならば、お前がすれば良かったんだ」

 そう言って皮肉るバスだ。

 実際、軍の出発にあたって、最初は司令官としてキムボールが前に出て演説する予定であったのだが、国王を外して演説するなど駄目だと断っていた。

 もちろん事実は違う。

 ただ、キムボールが面倒がっただけだ。

 自身が演説下手である事を自任している国王と一悶着あったが、最終的にはキムボールの主張が通った形となっている。

 ふと、キムボールは自分の父親でもある国王の背後に視線を送ると、そこには椅子に腰掛けたディーネがいた。いかにも退屈で、あくびでもしそうな様子であった。もちろん、それが分かるのはキムボールが長く、生まれた時からの付き合いであったからだが。

 市民達はそんなことも知らずに敬意の視線を送っていた。国王を見ている者の方が少なかったが、それは嫌がるディーネをこの場に引っ張り出した国王の目論見があたってこそのもの。

 さすがに、そのディーネの様子に苦笑いを浮かべるキムボールであったが、ディーネの姿を見て思い出したかのように口を開いた。

「昨日、ディーにゴサイン様から連絡があって、協同国の軍はすでに動いて帝国へ向かったそうだ」

「常備軍がないのに、さすがに素早く動く」

「それで、どうだった?」

 それは、先日の戦いで共闘したバスの感想を求めての言葉。

「強い。個々の強さはもちろんだが、まとまっても精強だ」

 バスとしては、半ば賭けであった歩兵による中央突破を、易々と成し遂げた協同国兵には感嘆していた。あれが普段は民として働き、戦時のために召集された軍とは思えないほどの連携であった。

「この国と比べたら?」

 そのキムボールの言葉に、バスは答えて良いものか口を閉ざして考える。

 だが、促すようなキムボールの視線に意を決した。

「一つ、いや二つは落ちる」

「そうか、勝つのは難しいか……」

「おい、まさか……」

 そのバスの言葉を遮る声があった。

「殿下、その意気や良し」

 その言葉に慌てて振り返るバスだが、そこにはカロニアが立っていた。

カロニア伯爵(おっさん)、その気はないぞ」

「いやいや、気概は持っておいた方がよろしかろう」

「同盟を結んでいる国ですぞ、滅多なことは言わないでもらいたい。お前もそうだ、言葉は選べ」

 不穏な言葉に、取りなすバスを見て、カロニアは鼻息を吹く。

 やれやれとばかりに、杖代わりの剣の鞘で地面を何度か突いたカロニアは、じろりとバスを睨む。

「王国の仮想敵国は帝国。此度の魔王への外征は良い機会ですぞ。しっかりと見てくるがよろしい」

「おいおい、俺は学生時代に住んでたぜ」

「平時と戦時は別ですぞ」

 これは長くなりそうだと、うんざりとした表情を浮かべるキムボールだが、同じ事を考えたのか、バスが助け船を出す。

「共和国は急ぎ戦備を整えているようですが、財団(ファウンデーション)からは動向が伝わって来ておりません」

 何か聞いている事はないかと、カロニアに尋ねる。

財団(ファウンデーション)のことなら、お主の方が詳しかろう」

 王子に教えを垂れるせっかくの機会を奪われたカロニアが、苛立たしげにバスを皮肉る。このままでは拗れそうだと、何と答えて良いものかと考えるバスだが、意外な方向から助けは入った。

「ミュールなら、しっかり用意しているさ」

 そう言ったキムボールの視線の先には、国王が演説を終えて、ディーネをエスコートして待機所であるこのテントに向かって歩いてきていた。

「さて、出発だ」

 出撃の合図を行うため、キムボールはテントから一歩力強く踏み出した。


社畜男:「……しゃれになってないぞ」

幼女もどき:「だいじょーぶ、だいじょーぶ」

大太刀:「大丈夫だと思います」

わんわん:「そろそろ、俺の出番か?」

ないです。

主人公、心配するな、たぶん。

社畜男:「えっ?」


次回、明日中の投稿になります。

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