8-1
新しく第8章を始めさせていただきます。
どうか、よろしくお願いいたします。
リシア共和国 街道
アキラ達は共和国内部に入り、砂漠地帯に面する場所に向かって街道を進んでいた。
共和国は、砂漠に対して半島の様に突き出した地形を有しており、その付け根の部分にアキラ達はたどり着いていた。もうしばらくすれば、右手に砂漠が見えてくるはずであった。半島の先端、もっとも帝国との距離が近い部分を目指す。
アキラとツキ、それにリーネはいつものように精霊馬に跨がっていたが、ライラはローダン商会の本店が用意したホーンホースに一人で跨がっていた。
出来れば新たな精霊馬を使いたかったのだが、すぐに見つかることもないため妥協したのだが、二頭のホーンホースが用意された時にクオーツがスノウを自身の背に乗せていくと言い出したのだ。
確かに、小柄なスノウであれば乗せて歩くことは可能であろうが、疲労等を考えれば避けた方が無難であると、アキラ達は反対したのだが、それにクオーツは、外装を纏っているので疲労等は生じず、誰かを乗せて行動することを試したいとアキラ達を説得したのだ。
ならばと、アキラ達はクオーツの提案を受け入れたが、万が一の時はライラの後ろ、あるいはリーネの後ろに移ることを条件にしてのことだ。
そこで、なにかの対抗心が生まれたのか、ブルーがリーネを乗せると言い出したのだが、アキラはブルーは外装を着けたクオーツとは違って生物なのだからと反対した。
しばらくドラゴンだから大丈夫と粘ったブルーだが、頑として承知しないアキラに従い、今は拗ねるようにリーネが跨がるスプライトの首筋に四肢を弛緩させて乗っていた。
精霊馬二体とホーンホース一頭、それにクオーツが集まって街道を進んでいく。
スノウは鞍など着けていないのに、器用にクオーツに跨がっていた。急ぐ旅なので、見通しが良く、旅人の姿のない場所などでは駈歩で進んだのだが、クオーツとスノウはまるで一体となったかのように、スムーズに駆けてついて来ており、それを見たアキラは遠慮は必要ないようだと、さらに速度を上げるのだった。
やがて、森が薄くなり、街道からも木々の隙間に砂漠が見えるようになった。どうやら薄くなった森の木々が防風林と防砂林を兼ねているようだ。
砂漠を目にしたリーネなどははしゃいでいたが、アキラの後ろに跨がるツキは、どこか寂しげであった。
「何か、良くない思い出でもあるのか?」
その様子に気づいたアキラは背後のツキに尋ねるが、かすかに首を左右に振って応えるツキ。
「私の記憶ではなく、歴史の話しです」
それっきり口をつぐんでしまう。
無理に聞き出すことでもないかと、アキラは無言で精霊馬を進めた。
リーネとクオーツは、砂漠を目にして見に行きたがったので、休憩がてらに街道を逸れて森を抜けて砂浜の様になっている場所へと出た。
精霊馬に跨がったままリーネは砂漠に進み、クオーツは背にスノウを乗せたまま砂漠に入っていった。
アキラとツキは精霊馬を降りてその場でしゃがみ込むと、まるで海水の様に寄せては返す砂を見た。
「海の波みたいだな」
「そうですね。海ほどではないですが、砂漠の砂は常に波立っています。海流のように砂が流れている場所もありますよ」
「砂漠って言うより、砂の海ってところか」
まさしくと、ツキが頷く。
「……ここは昔は豊かな森があって、多くの人や獣人が町や村をつくって住んでいました」
話し出したツキの手を取り、アキラは砂浜に座り込んだ。それに手を引かれてツキも隣に座り込んだ。その目は遠くを見つめていた。
「この地で、二体の大精霊が戦いました。きっかけは子細なもの、決着もつかず、この地を絶えず動く砂漠に変えてしまう、そんな結果だけを残しました」
その二体とは、それをアキラは聞く事が出来なかった。どこか、ツキが拒む様子があったからだ。それに、アキラにとって気がかりであったのが、地形を森から砂漠へと変えてしまうほどの力を持つ大精霊だが、アキラと戦ったシルも同様の力を持つのではないのだろうか。
もしや、シルがアキラと戦った際には、手加減をしていたのだろうか。していたならば、なぜだ。
手を抜かれたから腹立たしい、そんなプライドの問題ではないのだ。何かしら理由があって、シルは力を加減したのか。
思いに沈むアキラをブルーの言葉が遮った。
「その話しは止めておけ。あいつらも知られたくはないだろう」
いつの間にか、精霊馬スプライトの首筋から降りたブルーが、アキラの隣にやって来ていた。
ごろりとアキラの隣に伏せるブルー。それに倣ってアキラも寝転んだ。ツキは膝を抱え込み、並んで横たわる一頭と一人を見下ろして、先の悲しげな表情を消して僅かに微笑んだ。
目を閉じてブルーが呟いた。
「大精霊には大精霊の、人には人の、獣人には獣人の事情があるんだ」
「あら、では私やレインの事情は無視しても?」
からかうようなツキの言葉に、ブルーが顔をしかめた。
「お前達は、大精霊と一緒でいいだろ」
ころころと笑ったツキは、そうですねと答えるのだった。
レインは自分をアキラの記憶からしたらツクモガミだと名乗った。しかし、ツキは自分は大太刀だと言い、決してツクモガミとは言わなかった。
何か違いでもあるのだろうかとアキラは考えるが、ブルーが突然に頭を上げたことによって途切れた。
「エンから連絡だ。魔王は帝国へ向かっている」
それを聞いたアキラは立ち上がり、ツキを手助けして立たせた。
すぐさまリーネとクオーツを呼び寄せるが、ブルーはエンと会話を続けているようだ。
「すぐに引き返すか?」
「いや、エンが待てと言ってる」
何か手段があるのだろうかと、アキラを筆頭にして集まった皆で黙ってブルーを見つめる。
やがて、エンとの会話を終えたブルーが口を開いた。
「このまま進んでほしいそうだ。どうやら目指していた先に、エンは船を用意していたみたいだな」
「準備万端とは、用意がいいな」
「いや、もともと用意してあった場所を目指した俺たちの偶然だろう」
アキラに答えたブルーは、続けてこの辺鄙な場所に街道がある事が、もともとおかしいので、実際ここに来るまでは整備されていない道を行く事になると、ブルーは考えていたと言う。
「エンやジェナンは、以前から戦う用意を進めていたと言うのか?」
「恐らくな。これだけの街道を整備してあるんだ、かなり以前から計画立ててたんだろうよ」
一時だがエンと共和国は、魔王側につくかもと考えていたアキラ達だが、どうやらそれは思い過ごしであったようだ。
頭領であるジェナンは、アキラの前では即答しなかったものの、それなりの準備をしていたようなのだ。
やはり政治家だなと、アキラは考える。
隠していたカードを必要に応じて晒す。
人としては簡単に信用できないが、国を守るという一点ではどんな手でも使うという意味で信用に足る。
エンの指定した場所は、砂漠に突き出した先端。もともとアキラ達が目指していた場所だ。ここから戻って王国を横切り帝国へとぐるりと回るよりも、砂漠を渡る船があるのならば、もと目指した場所へ向かう方が時間の短縮が出来る。
全員の準備が整ったのを確認したアキラは、もと来た街道に戻って先を進むことにした。
わんわん:「俺だって、人の一人や二人」
幼女もどき:「やだ」
わんわん:「えっ、何で?」
幼女もどき:「……」
察してやれ。
次回、明日中の投稿になります。




