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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第7章 Change the world
144/219

7-17

引き続き、

第7章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

ブセファランドラ王国 王都パリス ローダン商会本店

 アキラ達一行は、共和国の砂漠に面した町に向かう前に、王都に寄り道をしていた。もちろん、ローダン商会の本店に寄るためである。

 寄り道とは言っても、王国を東西に横断する事になるので、ほぼ中心に位置している王都に寄るのはそれほど回り道ではなかった。

 今回はいつも同行しているリーネとツキ、ブルーだけではなく人狼姉妹が協同国との連絡役として同行していた。スノウは無事に念話を取得出来ており、協都にいるサインとの連絡役が担える様になっていた。クオーツから増幅という観念と、やり方を教わる事によって、長距離での念話が可能になったようだ。この点、もともと力の強い大精霊には、教えがたい点であった。

 そして、ずっとディアナとペインズと一緒にいたクオーツが、話せるようになって初めて同行している。しかも、ブルーの背中ではなく、ディアナとペインズが作りあげた猫の外装を纏っての同行だ。

 外観はかなり大きめの猫、豹をもしのぐといった大きさである。町の住人が恐れるかとアキラは思っていたが、首輪をしているからか、あるいは希に存在するのか、ほとんど怯えられることなく、人々に受け入れられていた。もちろん、周囲に人がいる時には話すことは厳禁と言い含められていたが。

 中身は動力や駆動のないロボット、骨格にぬいぐるみを着せたようなものだ。駆動をクオーツが中に入って行うため、必要ないのだ。骨格についても、ペノンズがそこまでするのかという、職人魂を発揮したため、表情から走る歩く寝る伏せる座るなど、生身の猫が出来る事はすべて出来る様になっていた。

 色は白であったため、アキラは汚れを気にしたが、三毛などにするのは、勘弁して欲しいとディアナとペノンズが主張し、黒色は忌み色であるため避けた方がよかろうということで、そのまま白とされたのだった。

 もちろん、リーネが見た瞬間に命名された。

「にゃーにゃーだ!」

 初めて皆の前に出てきた時、リーネは叫んで抱きついていた。

 そんなわけで、何時にない大所帯でローダン商会の本店に訪れたのだ。もちろん、本店は十分な大きさであり、全員が座れるだけのソファセットを用意する事が出来た。

 相変わらず、アキラにはローダンが抱きついており、その逆にはリーネ、目前にはツキが座っていた。

 長い椅子二つには人狼姉妹が各々座っており、一つにはライラとブルーが、もう一つにはクオークとスノウが座っていた。ライラとブルーが並んで座っているのは、特に理由などないのだろうが、クオークとスノウが一緒に座っているのには理由があった。

 どうやら、クオークはスノウに興味を超えた感情を抱いているようなのだ。水晶であるクオークは感情が薄い、というか元々は存在しなかったようなので、皆からは驚きの目で見られていた。

 それは最初、考察のネタとしての興味であったが、旅の準備、旅の途中で交流しているうちに興味だけではなく、理由もなく気に入ってしまったようなのだ。

 実際、以前からよく一緒にノーミーなど、クオークが猫を被ってから、文字通りだが、スノウと一緒にいるところをじっと見つめていることがあった。嫉妬という感情ではなく、ブルーが観察していて思ったことだが、多分にスノウとの二人きりの時間を盗られて苛立っているだけだろうと。

 それを聞いたアキラは、スノウには人や獣人ばかりではなく、それら以外にも人気があるんだな。そんな返事を聞いたブルーから、馬鹿かお前はと言われ、アキラは首を捻っていたのだが。

 とりあえずは、共和国の砂漠に向かっている一行は、商会の本店で旅の途中の休憩をとることになった。

 宿はすでに以前から使っているところをローダンを通じて押さえており、今はこの本店で旅に必要な物資を追加したり、王国の現状を確認していたところだった。

「はっ、ばか王子が剣聖だと」

 キムボールが剣聖と自分で宣言したことをローダンから聞いたブルーの第一声であった。

「立会人もなしでか?」

「リータが立ち会ったと、発表されているわ」

「いやいや、大精霊の立ち会いがあったとして、不味いだろう」ちらりとブルーはライラを見ると「生まれながらの拳聖とは違うんだぞ」

 ライラはブルーの視線に少しだけ頭を下げた。

 それを聞いていたアキラが、何が問題なんだとブルーに尋ねた。

「不味いってのも、言い過ぎか。確かに、今は剣聖不在で認める者もいないか」

「ドラゴンが追認してあげたら?」

 そのローダンの言葉に、じっと考え込む様子を見せるブルーだが、次の瞬間に首を左右に振った。ぷるぷると。

「嫌だ。なんで俺が」

「それじゃ、ここに足を乗せて」

 ブルーは言われるがままに、朱肉の上に足を乗せる。それを掴んだローダンが、一枚の羊皮紙にブルーの足形を押す。

「これ、城に送っておくわね」

「えっ?それ何?」

「ドラゴンからの剣聖追認状」

 そう言って、ローダンは呼び寄せてあった職員に羊皮紙を手渡し、すぐに城へと向かうように命じた。それを見送ったブルーが、一瞬遅れて叫ぶ。

「ちょっと待て!」

「もう遅いわ」

 そんな事があって、無事にキムボールは剣聖である事が認められるのであった。もちろん、その後にブルーとローダンの間にて、普通ではない一悶着があったが。最後にブルーが俺は認めんぞー、と叫んでいた。

 もめ事も一段落した頃に、老いた商会員がローダンに近づき、耳打ちをした。それに頷き、アキラから身体を離したローダンが姿勢を正した。

「魔王の艦隊が港を出たそうよ。すぐに隠蔽の魔術がかけられたから、行き先は不明」

 伝令ではなく、目撃した者が直接本店にやって来て報告をしたそうだ。しかし、港から艦隊が出てから、報告者がここに来るまでの時間でかなりの距離を移動しているだろう。

 ちらりとローダンが片隅に佇む無名(ノーネーム)に視線を送る。

「伝達までの時間は最小なのは保証するわ。報告者は最速の手段でここに来たのよ」

「行き先は不明か……」

 アキラはつぶやいてから立ち上がった。

「疲れているところ申し訳ないが、休憩は中止して、このまま共和国へ向かおう」

 その言葉に従い、全員が立ち上がるのだった。


支配空白地 砂漠

 魔王オベロンの指揮する艦隊は、順調に砂漠を進んでいた。

 旗艦トロイアの甲板上で、オベロンは目を細めて前方を見つめている。

「ここまでは順調でした。ディーチウの隠蔽魔術に助けられました」

 オベロンの後ろに控えていたフレイが、声をかけてすぐ自分横で、同じように控えているディーチウに視線を向けた。

 役に立っている事が話題になって、少しメイドのディーチウが嬉しそうな表情になった。あまり他には笑顔を見せないディーチウでも、こんな時は微笑むのかとフレイは考えていた。

「ディーチウ、隠蔽の魔術の維持に気をつけろ。必ず魔術師が待ち構えている。精霊の目は誤魔かしにくいからな。特に大精霊は」

 そのオベロンの言葉に、ディーチウが小さくはいと答えた。

 もちろん、ディーチウとて心得ているが、改めてオベロンから命じられて気を引き締め直す。


 男はしきりと周囲を見回していた。

「ちくしょう、やっぱ外れだったか」

 舌打ち一つ。

 それを聞いていた、やはり周囲を見回していた女が、視線を動かすのを止めて、じっと一点を見つめ始めた。

「そろそろ、戻って……」

「黙って、精霊への集中が途切れます!」

 一瞬、えっというように驚きの顔を浮かべた男だが、すぐさま顔が引き締まり、先の緩んだ気配など微塵も感じさせることがなくなった。

「少し左へ」

「イエス、マム」

 二人の身体が、緩やかに傾く。

「直線に……、見つけました!隠蔽の痕跡、現在精霊が解除の用意を」

「解除させるな!行き先を見てくれ!」

「痕跡を辿るわ」

 二人の身体が下方へと押さえつけられ、女の口からぐーっと言う堪えるような声がこぼれる。

「太陽に隠れる。誘導してくれないか。それと現在地を後方へ連絡。エーテル波は使えるか?」

「駄目、隠蔽内部でエーテル波を感知、敵方も使用している可能性あり、探知されるわ」

 男は舌打ち一つ。女は女で口汚く自分の身を嘆いていた。

「なんで、私がこんなことに」

「しゃーないだろ。俺だって乗り代わって間がない。おい、頼むから魔方陣はだすなよ。見つかっちまう」

 女は分かっていると答え、今まで魔方陣を出す練習ばかりしてきたというのに、ここに来て、魔方陣を出さない訓練をさせられるとは、思ってもみなかったと心の中で愚痴を言う。

「配置転換なんて志願するんじゃなかった」

「へーへー、エリートの魔術師様」

 今度は女が舌打ち一つ。

「光魔術で後方へ連絡。受領返答待ち!」

「しばらくこのまま太陽に隠れて追跡する。早く誘導開始してくれ」

「二つも三つも同時に……、痕跡判明!行き先は帝国!恐らく欺瞞はない、馬鹿正直に帝国へ向かっているはず!」

「連絡頼む!何としてもエント様に情報を届けてくれ!」

 女は再度魔方陣が発現せぬように、魔術を行使するのだった。

 

これで第7章が終了いたしました。

次回からは第8章となります。

どうか引き続き、

よろしくお願いいたします。


次回、明日中の投稿になります。


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