7-16
引き続き、
第7章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
スノウ達が宇宙についてクオーツから色々教えて貰っているころ、アキラは小さい会議室にブルーと一緒にいた。
魔王の攻撃を帝国領土、あるいは共和国領土、それともこの地か王国で待ち受けるかを相談していた。幾度となく相談を繰り返しているのだが、答えがでない。
どこにどうやって攻めてくるのか、それが分からないためアキラもブルーも答えを出せずにいた。
攻めてきた瞬間、恐らく大精霊の誰かが連絡をくれるはずだが、アキラ達はその場へ自力で駆け付けなければいけないのだ。
「飛べればな-」
そんなアキラの言葉にブルーが反応した。
「すまんな!犬になっちまって!」
「いやいや、ブルーを責めてるわけじゃないよ」
そうやって詫びるアキラだが、ブルーはぶすっとした表情で返事をせず、机の上で両足に顎を乗せていた。
宥めようにも何を言っても逆効果だなと、しまったというようにアキラは後頭部を手で掻いていた。一人と一頭の間に気まずい空気が流れる。
どうしようかと、アキラが考えていると、気配がしてローダンが姿を現した。
まるで救世主が現れたかのように、アキラが出迎えた。
「姉さん!今日はどんな用事で?」
アキラとブルーの間に流れる空気を読んだのか、ローダンが眉を潜める。
「何か揉めてるの?」
「いや、そんな訳ではないんだよ」
どこか、ギクシャクした動きで、アキラはローダンの腕を掴んで会議室の隅に引っ張っていく。
「ちょっと、ブルーが気にしてること言っちゃって」
会議室の隅で、アキラはローダンの耳に口を寄せ、ひそひそと事の経緯を説明をした。
すべてを聞き終わったローダンは、ブルーに向き直る。
「そんなことを気にしてんの。けつの穴がちっちゃいわね」
大声でローダンは言った。それに対して、ブルーは顔を上げる。
「ちっちゃいよ!小さいよ!しかもむき出しだ!ドラゴンの姿の時はでかいんだぞ!」
「いや、むき出しは仕方ないだろう」
そう言ってアキラは肩を落として手の平を額に当てた。この場にリーネやツキでもいたらどうするんだ。きっとブルーをかばって、けつの穴けつの穴と連呼するぞ、それは女性としてどうなんだと。
パンツでもはかせた方がいいのかと、アキラが考えていると、拗ねているブルーを無視して、ローダンがアキラに椅子に座るように促して、自分も座ってテーブルの上の地図を引き寄せた。
「魔王の支配地を調べさせている者から報告があったから」
ローダンは、目前にアキラが座るのを確認すると、ブルーにいつまでも拗ねないと叱りつけて首筋を掴んで地図の側へと引っ張り寄せた。
地図には各国の勢力圏を示す線が記してあった。王国や帝国などは国境線として記してあるが、砂漠地帯は誰の勢力下にもないため空白となっており、帝国の西側、共和国の北側、魔王の支配地の東側は勢力圏を示す線であった。
つまり、今から戦うにあたって、ぽっかりと空白が存在していることになるため、ここが戦場となるのは明かでありアキラの悩みの種であった。
魔王の支配地の上に指を乗せ、ローダンは二度叩いた。
「ここから魔王が出撃するのは決定事項よ。そして、今回報告があったのは魔王は戦闘専用の船を複数隻持っていて、集団で出撃してくる」
「いわゆる、艦隊行動といわれるものだな」
その通りとローダンがアキラを指差し、ただし、その戦闘専用船がどんなものなのかが分からないと。
アキラは、先日サインの島へ行く際に乗った船を思い出していた。魔術で推進力を得ていたが、全体的には元いた世界の歴史で記されていた帆船から帆だけを外した様なものであった。
「戦闘専用船と言われても、具体的なものが思い浮かばないんだが」
「申し訳ないけど、普通の船とは違うとしか言いようがないのよ」
その専用と言われる由縁は、船腹などの外部が鋼で覆われている、通常よりも高い櫓が甲板に組まれているといった、コストを度外視した作りから判断しているのだと。
船体に鋼を使用したとなると、当然重量がかさむため、通常船と同じないしは以上の速度をだそうとすると、より多くのあるいは強力な魔術師が必要になるし、高い櫓は重心を高くしてバランスを崩すため通常船ではあまり意味がない。戦闘を目的とするならば、より早く敵を見つけ、戦闘を指揮するために必要にはなるだろうが。
それを聞いて、アキラは元いた世界で港に係留されていた記念艦を思い浮かべていた。ただし、大砲が存在するとは聞いていないので、そこは魔術や弓矢を使用するのだろうと考えた。
「魔王は、その艦隊を運用するノウハウを持っているのか?」
アキラは、自分ならば歴史小説やゲームから得た知識があるため、まねごと程度は出来るだろうと考えるが、魔王はこの世界では恐らく初めて艦隊を運用するはずだ。たとえ味方同士で演習をしたとしても、どこまで戦いの内容を想像出来るかだ。
「艦砲射撃でもやられたら大変だな」
「かんぽうしゃげき?」
「沖合から、魔術を打ち込むこと。砂漠船だから足下はしっかりしているから、狙いは精密だろうな」
本来、海と陸で砲を打ち合えば、口径の大きなものが用意出来た場合には、射撃を正確に出来る陸側が有利だ。大日本帝国海軍が長く戦艦を艦砲射撃に利用しなかった理由の一つであったはずだと、アキラは蓄えた知識を思い出す。もっとも、帝国海軍としては戦艦を浮き砲台にするなどもってのほか、というプライドが邪魔したみたいだが。大口径砲を有する戦艦の地上射撃は有効なのに。
今回は敵も海のように揺動激しい波上ではなく、砂漠で足下はしっかりしているため、狙いは正確であろうから、陸側が有利であるのはより多くの魔術師を揃えられる点だろう。砂漠船では連れてこられる魔術師の数も限度があろう。
魔術師を多く、前面に押し出しておく方が良いだろうと、今の艦砲射撃の概念をローダンを通じて大精霊のネットワークで共有化して貰う。魔術師を前面に出しておけば、シールドを張れる利点もある。
「うーん、何か魔王の打つ手が想像出来てきたな。艦砲射撃みたいな魔術攻撃をして、敵前上陸っていう流れかな」
ごく普通に考えれば、そうなるはずだ。
ただ、そうなればそれをどこで行ってくるか。満遍なく砂漠に面している部分に、薄く魔術師を配置するのは効果がないばかりか無駄であろう。
「いや、大精霊が前線に立つとすれば……」
アキラのつぶやきに、ローダンが反応する。
「そうよ、シルは魔術師を監視に利用して、魔王の艦隊が現れたらそこに駆け付けるつもりよ」
「シルは艦隊に一体で立ち向かうのか?」
「それがある意味、シルの罪滅ぼしなのよ」
悲しげな表情で、ローダンが答える。
恐らく、シルに何を言っても無駄だろう。確かに有効な手でもあるため、アキラとしても止めろとは言い出せない。あるいはシルの能力であれば、艦隊を一体で相手出来るのではと期待できてしまう。
「……帝国はシルに任せよう。俺は共和国で魔王を待つ」
振り切るように、アキラは決断を告げた。
???????
ある洞窟の一角、本来岩肌であるはずの壁はしっかりと加工され、抉られたくぼみには光を放つ岩がおかれて照明となっていた。
部屋は大きく、洞窟の一角と言われてもにわかには信じがたい。どこかの政庁や商会の会議室だといわれても納得がいくほど整えられていた。
中心には大きなテーブルが置かれており、そこにはいくつかの椅子に座っているものたちがいた。そしてそれらは皆、深くフードを被っており一種異様な雰囲気が部屋に漂っている。
そのテーブルの一角から声が上がるが、フードで口元を隠され、音が反響しているために、誰のものかも判別できなかった。
「魔王とやらが、滅ぼしを宣言したようだ」
それに対して、楽で良いなやらせておけ、本当に出来るのか等々声が返ってくる。ただ、内容にかかわらず、すべては肯定的な雰囲気を醸し出している。
騒然としていた雰囲気は、テーブルを手の甲で叩く音で静まった。
テーブルを叩いた方角に視線が集まる。
十分に注意が惹けたことを確認してから、言葉を放った。
「魔王も我らの敵。同じ星に住む同士が戦うのも、それはそれで手が省けるというもの」
そこで言葉を句切って、フードで隠されているはずの目が、テーブルに座る者達を一瞥したようだ。皆が同意の声を上げている。
「だがな、それが良いことばかりか?奴らは身内で戦う事によって、確実に経験を蓄積していくぞ。座して見ているだけで良いのか?」
「言いたいことは理解出来る。だが、我々はどうすれば良い?一方に加勢でもするのか?」
それを聞いたものは、僅かにフードを揺らして否定した。
ならばどうすると、再び部屋は喧噪に満ちてしまう。
再びテーブルが叩かれるが、先ほどよりも力が込められ、大きな音が響き渡った。
静まりかえる部屋。
「好機と見るべきだな」
言葉の意味が、部屋全体に染み渡るのを待ちながら、それは考えていた。
最高戦力などは、作らせはせぬと。
作るというならば、作られる前に叩けば良いと。
わんわん:「小さくてごめんよ!」
幼女もどき:「ちっさいよね」
社畜男:「いや、でかいだろう」
J○?:「???」
君は知らなくていいよ。
次回、明日中の投稿になります。




