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引き続き、
第7章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
ブセファランドラ王国 王都パリス ローダン商会本店 会頭執務室
大きな机に向かって、ローダンが異様な速度で書類をめくっていた。大精霊、しかも商業の精霊であるローダンにとっては造作もないことだ。
最後の一枚に署名が施され、決済箱に放り込まれたのと合わせるようにして、扉が叩かれた。
テーブルの上で手を組み、背筋を伸ばしたローダンが入れと命じた。
扉を開けて入ってきたのは一人の女。野暮ったい濃い紺のスーツを身につけていた。町ですれ違ったとしても、決して目を引かず、すぐに忘れられるような容姿。
名を無名といった。
誰が名付けたかは知れず、少なくとも親ではない。もっとも、無名は親の顔など知らぬ。育て、教育を与えた者は知れど、名は知らぬ。もっとも、与えた教育はろくでもないものであったが。
ただし、すべての大精霊には信奉者がいるが、この無名はローダンの唯一と言って良い信奉者であった。出会いは最悪であったが。
無名は、執務室に入ると、テーブルの前までやって来て、大きく頭を下げた。
無駄な言葉はない。
頭を上げよと命じたローダンがため息を吐いた。無名はローダンが許可しない限り、頭を上げることはないからだ。
「もっとおしゃれをしても良いのよ」
「これが最善です」
もう一度ローダンはため息を吐いた。信奉はしていても、聞く耳は持たないようだと。
しかし、そこには見解の相違があった。無名の姿は自身の職務を全うするのに最善と考えており、ローダンの言うことを聞いてしまうと、それが出来ないからだ。一度試して、無名は駄目だと判断していた。
無名の職務とは、ローダン商会の暗部を統括維持することだ。重要な案件と判断したならば、無名自身が動いた。今この執務室に現れたという危険を冒したのも、重要な案件に対しての報告を行うためだ。
「おしゃれは横に置くとして、報告でしょう?」
「はい、ただいま魔王の支配領域より戻りました」
無言で先を促すローダン。
報告の内容は、魔王が支配する隠された砂漠港にて活発な動きがあると。ただ、活発に動いていることは、前に報告が会ったが、その性質が変わったと無名は言うのだ。
「以前は荷物が運び込まれておりましたが、今はそれも少なくなり、港内部の動きが活発になっております」
厳重な警備が行われている砂漠港だ。外からでしか見ることが出来ないため、その動きを掴む事は出来なかった。ただ、何か慌ただしい気配が外に漏れ伝わっていると。
「噂の艦隊とやらが動き出すと?」
「恐らくは」
「それで、艦隊を構成する船は把握出来ていないのね」
頷いた無名が報告を続ける。
完成した船が、いつまでも造船所に留まっている訳にもいかず、砂漠港へ移動する際や、恐らくは訓練のために港を出る時など、目撃される場合があった。ただ、それらの時でも、偽装が成されており、詳しくは掴む事が出来なかった。
「船体はそれほど大きくありませんが、砂を蹴立てる様からは相当重い船であり、純粋な戦闘船であると想像出来ます」
珍しく、無名が不確定な言葉を使ったことにより、ローダンはよほど厳重に隠蔽されているのだと知った。
推進については、帆が見当たらないことから、海の船と同様に魔術を使用していると考えられているが、船外では魔方陣が観測できなかったために、性能は予測出来ないと。
「謎が増えていくばかりね。ただ、純粋に戦闘用の船である事だけでも確定できればね」
海上、砂上に関わらず、戦いは商船、貨客船を転用して行われる。距離を保って魔術や矢などで攻撃を行いつつ、接舷してからの格闘戦が主流であった。船首に衝角を取り付けて、体当たりする戦法もあったが、衝角を備えている船は未だ少ない。
「関連は不明ですが、戦闘船が港から出て戻るまでの間に、砂漠の方角から奇妙な音が聞こえたとの噂があります。現在調査中です」
それを聞いたローダンは、顎に指を当てて考える。船と音は恐らく関連があるのは間違いがないが、その内容を知りたい手っ取り早いのはローダンそのものが、船あるいはその近くに転移すれば良いのだが、場所が分からなければそれも出来ない。しっかりと隠蔽されているのだ。
「とにかく、調査を進めて」
そのローダンの言葉に、無名はしっかりと頷いた。
申し訳ございません。
今回は進行上、短くなりました。
小話も思いつきませんでした。
精進いたします。
次回、明日中の投稿になります。




