7-12
引き続き、
第7章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
赤龍の守護地 洞窟内部居間
岩肌がそのまま残された大きな居間で、ロッサの巫女姫であるルージュが鼻歌交じりに、料理をのせたプレートを手にして、ソファに座ったロッサの前にやって来た。
「はい、おつまみだよー」
「おー、あんがと~」
テーブルに置かれた皿から、さっそく指先でつまみをつまみ上げ、ロッサは口に含み、更にはグラスをぐいっと煽った。
ロッサの隣にぽすんと越しを落としたルージュは、その小さな身体を猫のようにロッサにこすりつけた。
腕にこすりつけられる肩をそのままにしていたロッサだが、持ち上げようとしていたグラスが止まる。それと同時に、ルージュがソファの裏にあった、自分の身長ほどの両手持ち剣を鞘から抜き、鞘を床に投げ捨てた。
ルージュが切っ先を向けたのは、転移してきたエンであった。
「なんだ、エンか」
やれやれとばかりに、鞘を拾い上げたルージュは納刀すると、再びロッサに甘え始めた。
「あらあら、いつもながら仲が良いですね。それで、また昼間から蒸留酒ですか?」
「蒸留酒は駄目か?ならエールは?」
「ブルーでもあるまいし……。でもエールなら昼からでも大丈夫です」
そんな謎理論を言いながら、エンはロッサとルージュの座るソファの前、テーブルを隔てたソファに腰を下ろした。
ルージュに酒を造らせながら、ロッサはエンに尋ねる。
「わざわざやって来たのには、何か理由があってだろ」
ドラゴンと大精霊であれば、遠い距離を隔てたとしても、会話は可能であり、顔を合わすのであれば、何か特殊な事情があるのだろうと。
そのロッサの言葉を聞きながら、テーブルの上の皿からつまみ上げたそれを、口に含むエン。
「あらあら、おいしい。腕を上げましたね、ルージュ」
「えへへ、ありがとう」
「ところで知っていますか、今ローダンが売り出しているレシピのこと」
知ってるー、とルージュが両腕を突き上げて応える。ロッサが買ってくれたんだーと自慢げだ。
ルージュとエンは、先のロッサの質問は放り投げて、料理談義を始めてしまう。こうなっては、いくらロッサが口を挟んでも無駄であると、ため息をついてグラスを煽るのだった。
ようやく、ルージュがエンを食事に誘い、厨房へと向かって居間はロッサとエンだけとなった。
「ルージュに聞かせたくない用件か?」
「私ではなく、あなたがね」
そのエンの指摘に、ロッサは顔をしかめる。どうやら、エンの言ったことが図星であったようだ。
「魔王の件、放っておくと剣を引っ掴んで行ってしまうような気がすんだよ」
「あらあら、相変わらず過保護ね。ブルーなんて、リーネとツキをどんどん出撃させているわよ」
「一緒にすんな」
強く、ロッサが反応すると、エンが顔を伏せた。
「……そうね。ごめんなさい」
しばらく、二人の間に沈黙が流れ、時折グラスの中の氷が崩れる音がするだけとなる。ロッサが、そんなグラスを持ち上げて飲み干すと、空となったそれをエンが取り、氷を入れて酒を注ぎ込む。
エンはロッサの前にグラスを置く。
「戦うの?」
「いや、見てるだけにする」
「ブルーを信じているのね」
薄く笑ったロッサが首を振った。
グラスを取り上げ、舐めて唇を湿らせる。まるで、それで滑らかにしゃべれるかのように。
「アキラを信じる」
その言葉に、エンはアイスペールから小さな氷をつまみ上げて口に含んだ。ぎしりと、氷を噛む音がした。
「もう、忠臣きどり?」
「馬鹿言え。魔王に勝ってからだ」
「魔王の次は、ドラゴン三体?」
そのエンの質問にはロッサは答えず、両手を大げさに広げて首を傾げ、エンにウインク一つした。
そんなロッサに、エンは氷を再びつまみ上げ、投げつけた。ロッサはそれを簡単に受け止めて、自分のグラスに放り込む。
「ハクも様子見だろ」
「早々に連絡してきたわ」
不満げにエンは鼻を鳴らし、久しぶりにプチィーに会いたかったのにと文句を言う。勝手に押しかけりゃいいじゃないかと、苦笑いを浮かべてロッサが応えた。
「まあ、その件はいいわ。少し材料をちょうだいな」
「なんだ、不具合でもあったか?」
「あなたから貰ったインゴットにね」
まさかと、ロッサは身体を乗り出した。
ロッサは鉱石から金属を取り出すのを得意としている。
「早合点しないで。ちょっとしたものを添加したら、性能、特に強度が向上したの」
「……じじいの知恵か?」
エンは、そのロッサの質問にこくりと一つ頷いた。
社畜男:「……」
拗ねるなって。
次回、明日中の投稿になります。




