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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第7章 Change the world
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7-11

引き続き、

第7章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

モス帝国 帝都ロンデニオン 王宮 執務室

 ディーチウとの邂逅から、エリオットはすぐさま王宮の自分の執務室に戻り、人をやってシルを呼び寄せた。

「魔王のメイドが大精霊ですか?」

 エリオットの質問に、シルが眉を潜める。

 しばらくじっと考え込んでいたシルだが、やがて首を左右に振った。

「いえ、私の知らない精霊ですね」

「ならば、最近生まれた大精霊か」

「本当に大精霊であれば、そうでしょうね。ただ、なぜ魔王のメイドをしているのか?」

 大精霊がメイドをしているなど、想像も出来ない。ならば、特段の理由があるのだろうが。

「まさか、メイドの精霊と言うわけではないだろうな」

 冗談めかしてエリオットは言うが、それを聞いたシルは真面目な顔のままだ。

「おい、俺は冗談を言ったんだが」

「あなたにとって冗談であっても、私はあり得ると思うわ」

 農業の精霊であるサイン、商業の精霊であるローダン。何も事象や物理に対応しているは限らないのだ。

「サインを思い出して。あの()は農業というものに関する精霊よ。メイドという仕事の精霊が生まれても不思議ではないわ」

 改めて、大精霊であるシルから告げられて、エリオットは頷かざるを得ない。ただ、確かに精霊とはそういう存在であったかと。

「なるほど。それでそのメイドは次にどうする」

「私なら、この城に入り込む。メイドならば簡単に中で動き回れるわ」

 それを聞いたエリオットは乱暴に立ち上がり、大声で警備を呼ぶのだった。


 廊下をてくてくとディーチウは歩いていた。帝国の城は大抵の他の城と同じく、王室、帝国では帝室の私邸を兼ねており、帝室とその使用人しか基本は入れない私邸エリアと、行政や外交交渉に使用される政庁エリアに区分されている。

 政庁エリアを、ディチーウは帝室からのお仕着せのメイド服を来て歩いていた。

 行き交う貴族や警備の近衛、同職のメイド達とすれ違う度に頭を下げ、あるいは廊下の端に寄って立ち止まって頭を下げるなどをしてやり過ごしてきた。

 ここまでは、不審がられる様子もなかったが、廊下を進み、あちらこちらの部屋を覗き込んでいる内に、騒がしさが増していた。

「そろそろ警戒もされますか」

 ディチーウの予測よりも早くに警戒が強化されたようで、評価に値するとディーチウは思っていた。

 一応存在を欺瞞する魔術をかけていたが、ごく低レベルなものに抑えていた。あまり強力な魔術を使用しては、魔術師や大精霊のシルに感づかれる恐れがあったからだ。

 行き交うメイドや警備の目が、不審げにディチーウに向けられ始めている。この場で不審者発見と騒ぎ立てないのは、捕縛のために念を入れており、指示されたことをしっかり守っているためであろう。

 あまり多くを見られずにいたのは不満だが、そろそろ頃合いかと、ディーチウは転移をして城外へと逃げようとした。

「あら、転移を阻害されました」

 ディーチウとて、あまり知られずとも大精霊である。その転移を一時でも阻止するとなると、この城には一人だけ。

「お邪魔しています」

 ディーチウの前に、転移してきたのは帝国に住まうシルであった。

「あなたが、ディーチウですか?」

「はい、魔王オベロン様にお仕えいたしております」

 まるで何も問題がないような、美しいカーテシーを披露して見せたのは、シルを上位者として認識しているからか。

 それに対して、シルは軽く頭を下げるのみ。

「それで、十分に城は見ていただけましたか」

「いえいえ、ほんの少しだけで。それでも立派さが分かりました。将来、オベロン様がお住まいになるかもしれません。十分でしょう」

 今は一般人と同程度の、邸宅とも言えない家に住んでいるとは、けっしてディーチウは言わない。

 この城は魔王の物になると、ディーチウはシルを煽ってみせる。

 もちろん、その程度では激発しないシルではあるが、いらっとしたのは事実である。だが、問題は相手のディーチウの実力を掴むことが出来ないが故に、下手に手出し出来ないことに苛立ちが募るシルだ。

 大精霊同士が戦えば、この一帯は大損害を被るであろう。シルがアキラと戦う場所を郊外に指定したのと同じである。シルはアキラをこの城で待ち受けることも可能であったのだから。

 目を細めて、シルは正面に立つディーチウの正体を探りを入れると、ある点に気づいた。

 シルが慌てて周囲の気配を探る。

 シルは警備が未だ到着せず、廊下に人気がないことを確認した。

「あなた、代行者なの?」

 そのシルの言葉に、ニッコリと微笑んで頷くディーチウ。

 シルの顔が険しくなった。

「魔王側の代行者というわけ。ならば、私が知らないのも道理。愛花(あいか)から数えて何人目ですか?」

「三か四人目、いえ五人目?私も詳しくないので。あっ、役割は違っても、代行者のことは内緒にしておいてください」

「当たり前です。ディアナの件もありますし、そうそう話せる事ではないでしょう」

 そのシルの答えに、さもおかしそうに口に手をあてて笑うディーチウ。

「では、見るべきは見た、とは言いがたいですが、そろそろお暇いたします」

「そうしてくれると、助かります」

「では、此度の戦いはオベロン様が勝利いたしますので」

 その言葉を残して、ディーチウは姿を消した。

 それを見送ったシル。

「顔と姿を無理に変えられていたわ。痛ましい……」

 そう呟くシルの背後からは、警備の兵達が駆け寄ってくるのであった。


魔王支配地域 魔王邸

 ディーチウは魔王オベロンの家に転移をした。

 もちろん、すでに魔王が砦よりここへ戻っている事を知っているからだ。

 執務室などないこの家では、食堂がオベロンの定位置となっていた。

 食卓で、オベロンは書類の決裁を行っていた。常にはないことである。いつもはオベロンは砦で仕事は片付けてしまい、邸宅には持ち帰らぬ主義であったからだ。故に、その書類は砦に届ける事が間に合わず、翌日の決済では駄目で、邸宅に文官武官達が持ち込んだものであった。

 食卓の一角に座るオベロンに対して、ディーチウは深く頭を下げた。

「早かったな」

 けっして休暇はどうであったとは聞かないし、休暇を消化出来なかったことも責めはしない。ただ、事実を尋ねるだけ。だから、ディーチウも簡潔に応えた。

「シルと会いました」

「辛いか」

 書類をめくるままで語られる、そのオベロンの言葉に、ディーチウはゆるゆると頭を左右に振った。

「精霊もどきのくせに、嘘をつくか……」

「必要ならば」

 それっきり、一人と一体の会話は終わった。


社畜男:「また、俺の出番が……」

黙れ。


次回、明日中の投稿になります。

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