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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第7章 Change the world
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7-8

引き続き、

第7章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

「すべてのレシピを買い取らせて貰うわ」

 パフェとプリンを別々に食べ、それら二つを合体させたプリンパフェの存在を知ったシルが、わざわざ作らせて、それを今食べながら宣言をしていた。ディーネも手にしていない茶碗蒸しのレシピの購入をローダンに伝えている。

 大精霊達が躊躇なく買い取っているレシピだが、実はかなりの金額である。レシピの購入にはそれを作るだけではなく、販売する権利も付随しているためだ。一応、大精霊単体が購入ということで、固定価格で販売しているが、これが商人や国家が購入するとなると、販売した金額の何割という取引契約になるのだが。

 なので、ローダンはほくほく顔であり、その何割かが懐に入るアキラも苦労が実ったと笑顔であった。

「姉さん、財団(ファウンデーション)の支店に、リータにレシピを届けるように伝えておいてくれないか?」

「どうして?」

「絶対、後で知れたら怒り狂う」

 なるほどと、ローダンは頷くのであった。

「ところで、ローダンが姉さん、シル姉様が姉上、それでは私は何と呼んでいただけるのですか。知りたいわ、知りたいですわ」

 アキラは意外な方角からの口撃に、一瞬たじろぎ、ローダンとシルを見るが、素知らぬ顔で、明後日の方角を見ていた。

 この後には、魔王対策の話しをしなければならず、ディーネの機嫌を損ねるわけにもいかない。

 仕方なくアキラは、ぽそりと言った。

「姉様、これでどうだ」

 ぱぁーと、ディーネの顔が明るくなる。

「聞きました、聞きましたか!」

 盛んに聞いたかと繰り返し、シルとローダンの腕を引っ張るディーネであった。二体はうれしさ半分、迷惑半分というような、複雑な表情を浮かべていた。


 試食会の後、戦いのための協力という話しをするにしては、非常に和やかな雰囲気で、あっさりとシルとディーネは帝国と王国の協力を、各々の首脳部に働きかける事が決まった。

 決してアキラのレシピが間を持ったのではなく、シルが人や獣人を守るために前面に立つことを告げたからなのだと、アキラは思いたかった。


アヌビアス族長協同国 協都フロレンティーア 筆頭族長邸宅

 協都にあるサイモンの私邸、とはいっても政庁はあっても官邸が存在しない協同国では、私邸といえども公的な用いられ方もする。

 サイモンが普段は会見に使用している面談室、この場には獣人各種の長が集まっていた。

 一応は私的な会見としているが、人虎、人狐の族長がいることもあって、明らかに私邸としてではなく、公邸として機能していた。しかも、サインがサイモンと並んで座っていた。その一体と一人の脇には人虎の族長フォイルと人狐の族長ミッチェルが座っており、続けて獣人各種の族長が円を描くかのよう座っていた。

 テーブルはなく、二脚の椅子が中心に置かれており、そこに座るのはサイモンの娘、ライラとスノウの姉妹であった。

 すでに先の戦いについては、政庁で報告が行われ、事実上、帝国に勝利したと協同国中枢では判断されて民への発表は済まされており、サインの帰還とともに協都はお祭りムードが漂っていた。

 ドラゴンを守った。

 ゴサインの帰還。

 だが、それは表向きのこと。

 実際にはサインよりシルとアキラの私闘であったと聞かされていた協同国中枢にいる族長達は、いまここで複雑な表情を浮かべていた。

 ましてや、魔王の宣言である。

 すでに、国として、魔王と戦うことは決していた。一部穏健な種からは降伏することも提案されたが、そのような行為は魔王に惰弱と判断される恐れがあるとして却下され、論議の末ではあったが戦う事を国として決意していた。

 もちろん、その決定の過程で、サインが戦う意志を表明していた事は大きな決め手の一つになっていた。

 つい先日まで攻め込んでいた帝国と共闘の交渉をしなくてはならないミッチェルは、浮かない表情であるが、フォイルはアキラが戦う意志を固めているため、それに従うまでと、目蓋を閉じて静かに椅子に座っていた。

「ドラゴンを守り、続いては魔王の出陣か。立て続けての戦い、幸い大商会のローダン女史から財政援助を受けておるから、金や物資の件は大丈夫なのだが……」

「民は戦いに疲れておる。連戦は厳しい」

 サイモンの言葉にミッチェルが続ける。協同国は軍を持たぬ国家である。正確に言うならば、国民皆兵なのだ。ゆえに、戦いとなると国家国民を上げてとなる。

「前線に立ったのは、一部であろう。魔王との一戦、問題はない」

 実際に前線で指揮をとったフォイルの言葉だが、現実として、各種最精兵をつぎ込んでいるのである。精兵の疲弊は見逃せない。

 そして、とフォイルは続ける。

「帝国のシルフィード様は、魔王と正面から戦うおつもりだ。一時は我々とは戦いはしたが、大精霊が前に立つというのに、協力せねば獣人の名折れだぞ」

「その件については、帝国と交渉して、民を休める時間を作りましょう」

 フォイルの言葉に、外交を担当するミッチェルが、諦めを含んでどうにかしようと応えた。

 ここまでは、ほぼ決められた流れを追うだけであったので、サイモンも頷くだけに留める。

 しかし、問題はサイモンの前に、族長の中心に座る人狼の姉妹、ライラとスノウであった。

「巫女二人は、アキラ殿の側で戦うと言うのか」

 いかに自分の娘達であっても、各種族長の前であり、サイモンは敢えて二人をサインの巫女であることを言い立てた。

 筆頭族長であるサイモンとしては、拳聖であるライラと頭脳優秀であり、指揮官を支える参謀職が担え、尚且つ優秀な魔術師のスノウは貴重な戦力であり、恐らくは本隊となる帝国への派遣軍に組み込みたかった。

 それが、ただの人であるアキラの側で戦いというのだ。何か理由がなければ許される事ではない。

「まさか……」

 サイモンの言葉を、横に座ったサインがサイモンの腕に手を置いて遮り、ゆっくりと首を左右に振って見せた。

 サインの気遣いであったのだろう。

 サイモンはため息をついて従うしかなかった。

「念話を教える」

 短い言葉であったが、大精霊たるゴサインがスノウに魔術を教えると言い始めた。

 その短くもはっきりとした言葉に、族長達がざわめく。人や獣人は精霊を通じて魔術を行使するが、大精霊が魔術を人や獣人に教えることはなかった。なぜなら単純に人や獣人が自らの魔力にて魔術を行使することは出来ないからだ。

 もちろん、治癒や獣人の魔力硬化のようなものが出来る様になっているが、それすらも、長年の研究の末にやっとという状況なのだ。ただし、念話の魔術は存在し、ごく少数の魔術師が精霊を利用して行使する事があった。だが今回教授されるのはスノウ自身だけで念話を行えるようにすると言うのだ。

「私じゃない。ノーミーが」

 更には、意外な事に大精霊のノーミドの名を告げられて、ざわめきが大きくなった。確かに、ノーミーは協同国に住まう大精霊であったが、獣人達は奔放な大精霊であると認識しており、そこをまた好ましくも思っていたからだ。

「ノーミド様がそこまでしてくださると……」

「スノウをノーミーは大好きだから」

 そこまで言ってくれるのかと、筆頭族長ではなく、ただの親としてサイモンは感謝していた。

 そこまで無言で事の成り行きを見ていた人狼の姉妹は、椅子から立ち上がり、床に膝をつけ、頭をサインに向かって垂れた。

「必ずや」

 短くライラが決意を告げる。必ず獣人としての威を示すと。

 そして、スノウは先の守護地(フィールド)での戦いにて、精霊を奪われて何も出来なかったことを悔いていた。だからこそ次こそはの意が強い。

「アキラ殿の側で、必ずや」

 それにて、ライラとスノウの姉妹をドラゴンのもとへと派遣する事が決した。

 スノウが念話を取得する事を前提にして、人狼姉妹はドラゴンとの連絡役として派遣されることとなった。


社畜男:ほくほく

わんわん:「ほう、そろそろ借金を……」

社畜男:「これが貸し剥がし!」

間違ってはいないが、

正しくもないような?


次回、明日中の投稿になります。

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