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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第7章 Change the world
134/219

7-7

引き続き、

第7章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 茶碗蒸しの試食会も終わり、さっそくとばかりにアキラが斬り込む。

「共和国は魔王への対応をどうするつもりですか?」

「一介の商人が聞くべき事ではないですな」

 先ほどまで、アキラに戦いの様子を根掘り葉掘り聞いていたのは、どこ吹く風かのように、目を細めてジェナンがアキラを睨んで応えた。

 なるほどと、やはりこれが政治家というものだな。

 アキラとて、海外で商いをする商社員であった。国によっては政商のまねごとをせざるを得ないことがあり、いろいろな政治家と取引した経験があった。

 だからこそ、やっかいな駆け引きはごめんだった。

「商人は口実だ。スカイドラゴンが一緒にいる意味を考えてくれ」

 そのアキラの言葉に、ジェナンがソファに寝転ぶブルーに視線を移す。

 行儀悪く寝転ぶブルーを、何とか座らせようとツキが奮闘していたが、アキラはそれを止めさせる。

「国家元首とドラゴン。対等に会話できるだろう」

 そして、アキラは自分はブルーの代弁者であるとブラフを言う。

 ブルーはアキラを代弁者などとした覚えがないが、何も言わないところを見ると、どうやらこの場で同意したようだ。

 にらみ合うアキラとジェナン。

「素直に言ってあげれば良いのに」

 険悪な空気を醸し出す二人に割って入ったのはエンであった。

 エンの言葉で、ジェナンは身体から力を抜いて、肩を下げる。

「エント様、まだ議会を通過していません」

「それでも、あなたの決心をアキラに伝えておいた方が良いわ」

 ジェナンはエンに一瞥を送ってから口を開いた。

「私は、共和国の全力でもって魔王と戦う事に決めた。議案を議会に提出したばかりで、採択を待っている」

 恐らくは、エンの後押しもあって、議会の賛意は受けられると。

「ならば、帝国とは?」

 一緒に戦うのかとアキラは念をおすが、それにはジェナンは首を左右に振ったのだが、否定ではなかった。

「帝国次第ですな。帝国と話し合うのはこれからです」

 それを聞いて、まずはアキラは安堵した。ただ、ジェナンの言葉が上っ面だけではないと感じたからだ。土壇場で寝返ることはないだろうと。恐らくそれをすれば、議会の決議を無視することになって、共和国内は大騒ぎになるはずだ。

 もちろん、秘密決議などがあれば、最悪だが。そこまではアキラ達には探りようもないので、今は信じるしかなかないのだ。

 そして、それよりもエンが魔王と接触していた事である。エンもそれを承知していたのか、自ら口を開いた。

「魔王と会っていたのは、母に命じられていたからです」

「まさか、シルの時と一緒か?」

 左右に首を振るエンだが、またもや星の精霊が絡んで来たことに、額に手の平をあてて、天井を見上げるアキラ。

「母は、魔王との接触をと命じましたが、何かをしろとは言いませんでした。ただ、魔王いえオベロンを頼むとしか」

 星の精霊ティターニアは、ただエンに魔王オベロンと時折で良いので会ってほしいとだけ頼んだと。もちろん、エンは理由を何度となく尋ねたが、ニアは答えを返すことはなかった。

 リーネが唇に指をあてて尋ねる。

「魔王の支えになって欲しかったのかな?」

「いいえ、支えならばメイドのディーチウがいます」

 そのディーチウは、ひたすら魔王に尽くしているメイドだという。魔王とディーチウの関係は分からないが、主従を超えたものだとエンは語る。誠心誠意つくすディーチウを魔王は大事にしているようだ。

「母の真意は分かりませんが、私はそれに従ったまでのこと。ですがこの度の戦いには魔王の敵として参加いたします。それもまた、母の意に添うことになるかと思います」

 戦いの場にいる事がと。

 ソファから、突然アキラが立ち上がった。堪えきれぬように、激しく手を振り広げた。

「星の精霊っていうのは何だ!創造主だからといって、人や精霊を何故弄ぶ!」

 そのアキラの問いかけに、誰も応える事はなかった。そして、誰も指摘しなかった。なぜ、アキラの言うところの人の中には、自分は含まれていないことを。


ブセファランドラ王国 王都パリス ローダン商会本店

 エンと共和国の参戦の意志を確認したアキラ達は、そのまま守護地(フィールド)の中心に戻るつもりであったが、茶碗蒸しの試作の後に一度ローダン商会の本店に顔を出すように言われていたことを思い出し、王都に寄り道をする事にした。

 ローダン曰く、アキラが渡したレシピで、口頭で伝えたノウハウの一部が欠けているのではないかと、現場から声が上がっているため、それを確認する必要があった。

 今は、初めて訪れた時と同じソファに腰掛け、やはりアキラはローダンに抱きしめられていた。

「やっぱりアキラ成分は、こうやって充填しなくちゃ」

 すでに、現場のいわゆるパティシエやコック達とのレシピ内容やノウハウのすり合わせは済んでおり、試作品が出来上がるまでと、ローダンの誘いに乗ってティータイムを過ごしていた。

 ローダンに頬に頬をすり合わされて困惑気味のアキラを横目に見ながら、リーネはガシガシと焼き菓子をかじっていた。ツキはブルーに菓子を割って与えており、ローダンの様子に無関心を装っている。

「いや、茶が飲めないから」

「あら、ごめんなさい」

 アキラの言葉に乗っかり、ローダンは身体を離し、アキラにはペロッと舌を出し、ごめんなさいとばかりに、リーネとツキにはウインクしていた。

 茶の入ったカップを弄びつつ、アキラはローダンに声をかける。

「魔王の支配地に暗部は送り込んでいるんだろう?」

 その言葉に、ローダンはカップに一口着けてから応えた。

「送り込んではいるわ。だけど、あまり情報は入ってこない」

 よほど優秀な防諜員が魔王の配下にはいるのだろうと。

 ローダンは、自分の商会の暗部には密かな自負を持っていた。帝国程度の暗部には勝ると。だが、その暗部がローダンが考えていたほどには、情報を掴んで帰ってこない。自身の暗部と同等か、それ以上の実力を持った防諜組織か個人が魔王の下には存在するようだ。

「あまり無理をさせないでくれ」

 アキラとて、海外で商いをしてきた商社員である。情報の重要性は軍人並みには理解しているつもりだが、それでも人的な損害が出ることを恐れていた。

 その優しさ、あるいは惰弱をローダンは感じるが、あえて言葉にして注意はしなかった。いつか身をもって知るだろう。そしてその方が身につくのだと。

 そんなやりとりの最中に、古参の商会員がやってきて、ディーネが留守だと告げた。

 この本店に来た時すぐに、訪問の可否を問う先触れを王城のディーネに出していたのだが、その答えが返ってきたのだ。

 実は、答えはとうにアキラ達は知っていた。ローダンやブルーが先に直接聞いていたからだ。あくまでも先触れは王城の体面を守るためのものでしかなかった。

 そして、更に試作が終わったので、会議室へ来て欲しいと、若い女性の商会員がやってくるとそのように告げ、アキラ達はその言葉に従って奥の会議室へと移動するのだった。

 ノックもせずに会議室に入ったアキラ達は、そわそわとしてテーブルに向かって座るディーネとシルを見つけていた。

 確かにディーネは王城を留守にして、帝都のシルを訪れていたが、ローダンが声をかけた時に、アキラのレシピの試作をしていることを漏らしてしまったようだ。すでにプリンを食べた経験のあるディーネはすぐに行くと返事をし、その慌てた様子に興味を引かれたシルが一緒に来たというわけだ。

 一応、シルとは戦って間もない王国に来るのは、あまりよろしくはないのだが、姿を見られる訳ではないので、まぁいいかとアキラ達。

 とりあえずは試食会と言うことで、魔王の話題はあとにすることになった。


わんわん:でろーん

大太刀:「ちゃんと、威厳をもって座ってください。政治的な交渉の場ですよ!」(小声)

わんわん:でろでろでろーん

大太刀:「……食事はなしで」(小声)

わんわん:でろ、でろでろーん(汗)

大太刀:「……では、接触、会話を禁止します」(小声)

わんわん:シャキーン(大汗)

誰とだよ。


次回、明日中の投稿になります。

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