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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第7章 Change the world
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7-5

引き続き、

第7章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 連絡を聞いて、すぐさまローダンがやってきた。たまたま、対魔王戦にむけての準備の相談があったようだ。とは言っても、今現在では用意する物などは食料の貯蔵の充実ぐらいで、後は先のシルとの戦いで、協同国が困っていれば助けてやって欲しいと頼む程度であった。

「それで、エン向けの商談よね」

「何か適当な物はないかな」

 そのアキラの言葉に、ニッコリとローダンが笑みを返す。それを見たアキラは嫌な予感に襲われる。

「エンがね、すごくプリンを気に入っちゃって」

 それだけを聞いて、アキラは頭を抱えたくなった。そして、ローダンの言葉の先を制する。

「新しいレシピが欲しい、そうだな?」

「あら、察しが良いじゃない」

「分かった。甘味でなくてもいいか?」

 もちろんと応えるローダン。どうやら、エンは卵を使ったところに興味を持っているということだ。

 詳しく聞けば、この世界では卵は、それそのものを割ってそのままとか野菜や肉と焼くか、殻のまま湯でるしか料理の手法はないらしい。

「サインから、色々貰っているし、大丈夫だ」

「では、先ずは試食を」

 さらに笑みを深めたローダンに、アキラはため息をついて調理場へと向かうのだった。


 調理場へと入ると、そこでは主であるツキが、リーネを助手として何かを作っていた。その手元をツキの肩越しに覗き込むと、アキラが以前頼んでいたものの試作をしている様だった。

 アキラは元々商社員であって、菓子や料理の深い知識がある訳ではない。ただ、扱う商品に料理のための機材が含まれており、その実演を行う必要があったがためにレシピを覚えていただけのこと。混ぜる量をしっかりと覚えているわけではない。特に菓子ともなれば、化学実験並に正確な計量が必要になる。温度や湿度も関係してくる。

 そのため、ツキに試作を頼んでいたのだが、料理好きなだけではなく、アキラの役に立てると喜んでツキは行っていたのだ。もちろん、リーネはそのおこぼれを頂くために手伝っているのだが。

 その試作の経過状況を、アキラに告げようとしたツキだが、その唇にアキラは指を添えて、視線をローダンに向けた。

 今、試作の内容を知られると不味い。

 将来の交渉の武器とするつもりなのだ。

 それだけで理解するツキだが、頬が薄く赤に染まっていた。

 ツキに水を出して貰い、しっかりと手を洗い流したアキラは材料を見ていく。

 幸い、夕食に使うつもりであったのか、ツキが和風出汁をとり終えており、それを卵に三倍量程度を混ぜ、適当な具をこの場にいる人数プラス予備分の椀に入れて、先の卵と出汁を混ぜた液を投入して蒸した。

 いくつかの細かな手順を飛ばしたため、すが入ってしまって見た目は悪かったが茶碗蒸しが出来上がった。一口味見したアキラも、卵液を漉していないために、なめらかさに欠けていて不満であったが、皆の前に匙とともに配ってやった。もちろん、ブルーは食べるのに鼻面が邪魔になるため、深皿に移してあった。

「ふわっ、温かいプリンだと思ってたけど、これ違う!」

 椀に具材を入れた段階で怪訝な顔をしていたツキとは違い、リーネはプリンの類いだと勘違いしていたようだ。

 味見するアキラの表情を見ていたツキは。

「これは、さらに味が良くなるのですね」

「もちろんだ」

 さすがにツキは、アキラが僅かに眉を潜めたことに気づいていたようだ。これでも十分なのに、これ以上のものになるのかと感嘆していた。

 深皿を懸命にぺろぺろ舐めているブルーの横で、ローダンが椀と匙をテーブルに置いた。

「すぐにレシピを買い取らせて貰うわ」

 味の感想がなくとも、その言葉がローダンの満足を表現していた。

 予備として作ったものの争奪戦に勝ったリーネは避けて、アキラとツキは食器を片付け始めたが、ローダンが急かすために、仕方なくアキラはツキに後を任せてその場でレシピを書き上げた。

「エンが、すぐに来なさいって」

「すぐにと言われてもな」

 アキラがレシピを書いているうちに、ローダンはエンに連絡をしたようだ。早く来いとのことだが、アキラ達は帝国から戻ったばかりだ。旅装もすでにリーネとツキが解いてしまっていて、改めて用意する必要があった。精霊馬も休ませてやりたい。

 すると、アキラの言葉をそのままエンに伝えたのか、エンがこの場に姿を現した。

「あらあら、私の分は?」

 すでに予備はリーネが食べ尽くしていた。

 ぷくっと頬を膨らませたエンが、テーブルに丸めた紙を置いた。エンの署名が入った共和国からの招待状であった。

「早く来てください。待っていますから」

 そう言い残して、エンは姿を消した。

 それを見送ったアキラだが、この場で話しをしても良かったかとブルーに言うが、ツキに口の周りを拭いて貰っていたブルーが答えた。

「馬鹿言うな。共和国首脳と会う必要もあるだろう」

 大精霊であるエンと話しをすれば良いと考えていたアキラだが、ブルーの言うことはもっともである。さっさと姿を消して国に戻ったエンも正しかった。

 大精霊とは奉られる存在であり、為政者ではない。魔王への対応などは、もちろんエンの意志も大事だが、それ以上に民を導く為政者達の考えを聞く必要があった。

 普段、大精霊という存在が当たり前になっている弊害だ。

 アキラは反省するとともに、明日には出発するとローダンに告げ、リーネやツキには共和国へ行くための準備をするように告げたのだった。ブルーは犬だから、準備の必要はなかった。


リシア共和国 政都ベアリーン 検問

 ローダンに告げた様に、守護地(フィールド)の中心地へ戻った次の日には、アキラ達は共和国の首都である、政都ベアリーンに向かって旅立った。

 ディアナとペノンズはクオーツとの対話と、その内容の実証に夢中で、工場から出てくる気配はなかった。食事も忘れている様子に、ツキがわざわざ運ぶほど熱中しているのだ。

 人狼姉妹のライラとスノウは、アキラが旅立つ日と同じ日に、協同国へと向かっていた。一連の内容を報告する必要もあり、一度戻ってはとのアキラの提案を受け入れたからだ。ただ、二人とも、筆頭族長であり、父親であるサイモンの許可を得た後、守護地(フィールド)に戻るつもりでいた。もちろん、アキラと共に魔王と戦うためである。

 しっかりと許可をとってから、戻るようにアキラは言い聞かせてから、二人を協同国へと戻したのだ。

 協同国の魔王への対応は、サインが知らせてくれる予定だ。サインは以前とは違って、協都フロレンティーアに住むことにしたようだ。それをサイモンに告げた時には、国を挙げての祭りになったそうで、アキラがサインを説得したと勘違いしたサイモンが、サインを通じて礼を伝えてきていた。

 その謝意をアキラは否定しようとしたが、ブルーからありがたく貰っておけと言われ、渋々ながら受け取った旨をサインからサイモンに伝えておいた。

 キムボールは、早くに王国へと戻っていた。シルとの戦いの際には、最初こそアキラの後方に立ったものの、シールドが霧散した瞬間にサインとノーミーによって、工場の中に放り込まれ、その後はライラに簀巻きにされて片隅に転がされていたのだ。キムボールの了解も得ずにだ。

 不意を突くような事をしたアキラとしては、参戦している姿を見せて貰うだけで良く、王子、しかも王太子に怪我をさせる訳にもいかなかったからだ。

 戦いの際に何もさせて貰えなかったキムボールは、傷心を抱えて王国へと戻っていった。

 ノーミーは、守護地(フィールド)を守ると言い残っていた。ブルーと何かを相談していた様子から、建物の強化や増築をするつもりのようだ。すっかり建築にはまっている。

幼女もどき:「あー、冷蔵庫にプリンの用意がー。これ、蒸して冷やせばいいんだよね」

…………

社畜男:「あれ、冷蔵庫に用意してあった茶碗蒸しが?」

幼女もどき:「……カラメルかけたから、すっごいビミョーな味だった」

だろうね。

リ○ランの逆バージョン。

ていうか、実体験です。

ぽかぽか叩かれました。


次回、明日中の投稿になります。

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