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引き続き、
第7章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
「それで、レインは元に戻るのか?」
「出来る。魔力と生命力の充填は私が行うが、あのディアナとペノンズと呼ばれる個体の協力が必要だ。私の外部体を作る必要がある」
水晶は自分に知識を授けてくれた、いわば恩人であるとレインを評価していた。感情というものは、未だ理解出来ていないがと言う水晶であったが、妙に義理堅い。そして、水晶が言う外部体とは、水晶はもちろん、ディアナとペノンズが扱える機材のことであった。
もっとも聞きたかった事を聞けて、アキラはほっと胸をなで下ろした。
どうやら、この水晶は、非常に高度な知性体であり、エーテルや魔力、それに生命力を通じて、自身以外の物を操れる事が出来るようだ。非常に高度なコンピュータとインターフェース、エネルギー源を兼ねているといった物だろうと、アキラは自分に理解出来る様に考えをまとめた。
「レインという個体は恩人だが、君という存在は最初に接触してから、私は非常に興味引かれて、親しみを感じている。これはレインの記憶する主従ではなく、友情というものだろうか?」
その言葉に、アキラは軽く笑った。なにせ、思考方法が全く異なるであろう水晶から、友情などと言う言葉を聞かされるとは思っていなかったからだ。
「難しい概念を語るな」
「ふむ、確かに。言葉にしたものの、それが何か、私も理解出来ていない。思索思考する私としては、珍しい、そのような表現になるか」
「分かった。友になろう」
「ありがとう、と言うのだな、このような場合には」
少し笑ったアキラは、友になった証に触れても良いかと尋ねると、もちろんだと水晶は応えた。
水晶の表面を僅かに撫でたアキラは、ディアナとペノンズを招き入れて良いかと確認し、返事をもらって二人を招き入れた。
アキラと水晶で交わされた言葉を二人に伝えると、驚喜し、今後の研究に協力すると水晶に言われ、乱舞していた。
「レインを頼む」
「任せておきたまえ、友よ」
「……そう言えば、名前が必要だな」
そう言って、アキラが考えようとするが、それを水晶がすぐに遮った。
「すでに決まっているだろう」
「そうだったな。それじゃ頼んだよ、クオーツ」
笑って応えたアキラは、改めてディアナとペノンズにレインのことを頼むと共に、クオーツが自立移動出来るように出来ないかを頼んで、研究所を後にした。それを見送るディアナとペノンズにクオーツが声をかけた。
「さて、それでは君たちの知識と、私の知識のすりあわせをしよう」
ここから少しの間、ディアナとペノンズは寝る間を惜しむことになったのだった。
研究所を出たアキラは、自分の部屋には戻らず、そのまま会議室へと向かった。すでに、ブルーはいるはずであった。
会議室のドアを開けると、案の定、テーブルの上で寝転ぶブルーの姿があった。
そのブルーの姿にアキラは苦笑いを浮かべた。
「行儀が悪いぞ」
「人の行儀なんぞ知るか」
それもそうかと笑ったアキラは、少し肌寒くなってきたため、ツキが用意しているのは、すでに冷たいハーブティーではなく、暖かくしてあるもので、保温してある、適度に暖かいハーブティーを自分のカップと、ブルーの深皿に注いで、テーブルに着いた。
気が利くなと、ブルーが言って深皿に舌を浸す。アキラも倣ってカップに口をつけた。
冷たくした物とは違って、ほっと一息つける調合がしてあり、ツキの心遣いが忍ばれた。
「さてどうしよう?」
「どうしようたって、魔王と戦うんだろ」
「いや、そうだけど」
そんな言葉を交わしたアキラとブルーは再びハーブティーを口にする。
会議室を沈黙が支配する。
そんな沈黙を破ったのは、意外にもブルーであった。自ら戦いに赴くからには、自分から話さなければならないと考えていたアキラは意外に感じた。
「魔王の支配地域は、砂漠を越えたところにある。砂漠は基本的に不毛だから、どこも領地にしたがらない」
「帝国はだから安心していたんだよな」
「ああ、しかしな、砂漠に面しているのは、共和国もだ」
共和国の領土は、王国を包み込むように広がっており、王国の南に位置しながら、帝国西側の砂漠と面している。
アキラはローダン商会で目にした地図を思い出していた。
「そうだったな。どうしても砂漠に面しているのが広い帝国を思い浮かべてしまうけど、共和国に攻め込む可能性があるのか」
「帝国は間違いなく、魔王と戦端は開くが、共和国はどうするか」
だが、そのブルーの言葉に、アキラは違和感を感じる。
「でも、魔王の宣言を持ち帰ったのはエンだよな」
「だからだよ」
ブルーが言うには、何故エンが魔王の宣言を持ち帰ったのか、それが警戒すべき事だと。
「共和国と魔王は繋がっている?」
「確実に繋がっているだろ。国としてではなく、エンが魔王と接触をしているのは確実だ」
共和国に住むエンが、共和国の指導部に働きかけて、魔王に味方する。あるいは、魔王と敵対すると見せかけ、機を見て魔王側に寝返る。そんな場合も考えられるのだ。
「いいか、大精霊達すべてが、魔王を否定していないんだぞ。明確に否定しているのはシルだけだ」
魔王の宣言に賛同する大精霊がいたとしても、不思議ではないのだ。そして、大精霊が住まない国家では、大精霊のネットワークに繋がっていないため、情報がないままに独自の判断で魔王に味方する場合もあり得て、いみじくもローダンの言葉が現実味を帯びる。
「共和国の意志を確認する必要があるな」
アキラは、一度は共和国を訪問する必要があるかと考え込む。
魔王が攻めてくるのを待ち受ける場合、共和国が魔王に味方すると先に分かっていれば、帝国で守備を固めればいいわけで、アキラはそれに協力すれば良いし、共和国が魔王と敵対するならば、魔王がどちらを攻めるか判断出来ないため、アキラは帝国か共和国かのどちらかを選ぶ必要があった。
「そうなれば、最悪は両国の中間にある王国で待機するのも手だな」
くそ王子も帰ったことだしと、どこか嬉しげにブルーが言った。
それを見たアキラは、ブルーはよほどキムボールが気に入らないらしいと、苦笑を浮かべた。
「何を笑ってる。俺はお前とツキの事を考えてだな……」
「分かった、分かった」
アキラはブルーを宥めて、それよりも、どんな理由で共和国を訪れるのかを、ブルーに尋ねるのだった。この世界、インフラが発達しておらず、旅をするのは商人か政府関係者や軍部だけで、いわゆる娯楽として旅するのは、よほど裕福な者達だけであった。
まさか、魔王と敵対するか、同盟するか、それを問いただすために国を訪れるなど、政府関係者でなければ、いや、下手をすれば内政干渉ととられて個人だと逮捕、政府関係者だと国外追放される事になるだろう。
「何を考えてるんだ。簡単だろうが」
「案があるのか?」
「お前、ローダン商会の見習いだろ。エン宛ての仕事を作ればいいさ」
なるほどと、アキラはそのブルーの言葉に納得する。どうにも、自分から商いをしたいと言い出した割には、色々とトラブルに巻き込まれている内に、考えから抜け落ちていたようだ。
「ということで、ローダン会頭へ連絡頼む」
「やれやれ、ドラゴン使いが荒い奴だ」
そんな文句をブツブツ言いながらも、ブルーはローダンに共和国向け、エン向けの商談をでっち上げるように、連絡をとるのだった。
社畜男:「さっさっと、連絡をとってくれよ」
幼女もどき:「ゆっくりなんて、犬でも出来るんだよ」
わんわん:「犬だよ!」
大太刀:「認める、と」
わんわん:「こいつら、噛みつきてー!」
だって、犬だもの。
次回、明日中の投稿になります。




