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引き続き、
第7章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
蒼龍の守護地 中心地
帝都での戦いの後に、アキラ達は守護地に戻っていた。
戦いの後に行われた話し合いを終えて、大精霊達は各々が住む都へと帰っていった。その中、シルバーは空に浮かぶ昼間の月シルバーを見上げてから後、己が双子の姉妹と宣言したツキを、長く抱きしめてから姿を消していた。
見送り、なお名残を惜しむツキは、アキラが声をかけるのをためらうほどに、長くの時間、昼間のシルバーを見上げていた。
そして、ツキはアキラを振り返って言ったのだ。戻ろう、私たちの住む場所へと。
先にシルに攻め込まれた跡は、ライラ達が片付けており、少し痕跡が見て取れる程度であった。
周囲を見回したアキラは、先にシルに攻め込まれた戦闘を思い出し、帝国兵には戦死はなくとも戦傷者は出ていることだろうと考え、少しだけ気分が重くなった。
精霊馬達の装備を外し、首筋を撫でてから、放牧地へと送り出した。
リーネとツキは、自分達の部屋がある建物へと向かっていたが、アキラはしばらくぶりにレインの様子を見に行くことにした。
ディアナとペノンズの管理する研究所は外から見る限り、静かでいつもと変わりない様子であったが、扉を開けてアキラは気づいた。
異様な雰囲気が漂っていた。
その異様さの原因は、この研究所の主であるディアナとペノンズであった。二人は、水晶とレインが乗せられているテーブルにかじりついており、側の測定機器を何度も振り返って覗き込んでいた。
何が起こっているのかと、しばらく扉から入ってすぐの場所で眺めていたアキラだが、それにペノンズが気づいて、慌てて駆けよってきた。
「ようやっと戻ったか」
「何かあったのか」
そのアキラの言葉に、ペノンズはどう答えて良いものか、自分でも分からない様子で、何度となく、言葉を口にしようとしては閉ざすという行為を繰り返した。
それを辛抱強くアキラは見ていたが、やがてペノンズは意を決したように言葉を発した。
「信じてもらえんがな、水晶が言葉を発した」
「信じるよ」
アキラは、安心するようにとペノンズの肩を軽く叩いた。それに安堵したのか、ペノンズは力を抜いて肩を下ろした。
「お前さんと話したい、そう言ったきりだんまりだ。何の反応もせん」
その言葉を聞いて、アキラはテーブルに近づいた。ディアナがそれに気づいて顔を上げたが、何かを話したげなディアナをアキラは手で制して、テーブルから離れさせた。
「ふむ、戻ったか」
中性的な声が、水晶から発せられた。感情の抜け落ちた、平坦な声であったが、口調はしっかりとしていた。
「ああ、たった今だ」
驚きとともに、人ではないものが話す様子に、居心地の悪さを感じるアキラ。ブルーが話すことにも慣れてきていたが、やはり鉱物が声を発するとなると、また違った不気味さを感じる。
手近の椅子を取り寄せ、アキラは腰を下ろした。
「二人で話したい」
水晶はアキラとだけ話すことを望んだため、ディアナとペノンズはしばらく呼び戻すまでは外へと出ているように頼んだ。二人は外に出ることに渋っていたが、アキラは強引に外へと追い出した。
椅子に戻ったアキラは、水晶に語りかける。
「それで、話しとは?」
「ふむ、あまり驚いていないようだな」
「いろいろと慣れてしまったからな」
予測とは違うと水晶は言うが、まあ良いかと言葉を続けた。
「私は君たちが水晶という存在だ」
「生命体というわけか」
「私はそう判断しているが?」
水晶は自分が鉱物の一種であり、アキラ達が考えている生命の埒外である事を理解していた。
「俺の知識では、炭素系生命体が俺たちで、お前は鉱物系、シリコン系生命体というのかな?」
「理解が早くて助かる」
「そんな物語を知っていただけだよ」
水晶は頷いた様子だが、実際には僅かにも動いていない。そんな雰囲気を漂わせただけだが、それにはアキラも驚いていた。そんな芸当が可能なのは、確実に知性体であることを証明したようなものだ。
「君と二人で話したかったのは、他を交えると混乱が生じると判断したからだが、正しかったようだ。レインの知識には感謝せねばな」
「なるほど、ではそのあたりも含めて、話せるようになった経緯を教えてくれるか」
水晶はもちろんだと答え、自身のことを語り始めた。
自身の外部を認識したのは、存在を開始した時からしばらくたってからだと水晶は言う。なぜなら、まず認識したのは、何もない空間であったからだと。後ほど、それが宇宙空間と言うものであり、感じられるのはアキラが聞いて判断したのは、太陽風というものであった。そして、エーテル。水晶が言うには、宇宙空間には、エーテルが満ちあふれているそうだ。そしてそのエーテルは、恒星から発せられる光と同様に水晶が必要とする生命力に変換する事ができた。
そのころの水晶は、時間の経過を気にしていなかったので、どれほどの時を過ごしたのか分からなかったが、ある時を境にして、自身が動き始めていることを加速を感知することで知ることになった。
エーテルは生命力に変換する事が出来たが、魔力に変換することも出来たので、魔力を噴出してそれを止めようとしても出来なかった。
「魔力の噴出を工夫すれば、止めることは出来たかも知れぬが、それに気づいた時には、この星に落ち始めていた」
「魔力で推進力を得られるのか?」
「可能だ」
水晶の言うことは、アキラにとって初耳であった。だが、獣人が魔力を一カ所にまとめて硬化する技などを考えると、まとまった量の魔力があれば可能なのかも知れなかった。
この星に落ちて以降は、アキラがすでに知っていることだ。
そして、水晶はレインと繋がることによって、知識を得ることになったが、ただそれは情報としてであり、翻訳の精霊が協力してくれるまではただのデータの塊であったと。
言葉や数字などと共に、一般の常識を得た水晶が外と接触を決心したのが今であると。
石(仮):「初めまして」
社畜男:「うぉ、しゃべった」
石(仮):「……犬と一緒の扱いは止めたまえ」
わんわん:「言って良いことと、悪いことがあると思います」
それでも犬じゃん。
次回、明日中の投稿になります。




