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誤字脱字、直しつつ始めて行きます。
どうか、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。
城塞に設けられた検問を、入った時以上に、簡単な手続きを済まして、一行は王都の外へと出る。外へ出る旨を伝えると、係の者が一瞥して終わりであった。
購入した物資は、他で購入したものも含めて、すべてローダン商会が運搬する予定だ。大きな荷物もないため、必要最小限しか持っていないため、これで旅するのかと、逆に不信感をもたれる恐れがあるほどだ。
降り立った森へと向かいつつ、アキラはツキにたずねていた。
腕には、リーネがぶら下がるようにしてくっついていたが。
「人の種族であれば、結婚しても問題はないのか?」
「普通に子供が生まれますし、結構盛んにされています」
ただしと、人とエルフが子供をつくっても、ハーフエルフが生まれる訳ではないのだと。髪や目の色とは別にして、はっきりと、人かエルフのどちらかの特徴を持って生まれてくる。半分の長さの耳などは見たことも聞いたこともないとツキは告げる。
「獣人と人が結ばれることは希です」
よほど通じ合うことがない限り起こりえず、都市での出来事であれば、数年単位で噂になるほどだと言う。そして、子供が出来たと、聞いたことがないと。
獣人は別の種であり、別文明だと。
多くの人は獣人を良き隣人としているが、ごく一部の差別的な人は、「喋る獣」と蔑んでいる。
服を着ず、道具に頼らず、自然に寄り添って生活する獣人だが、文明の程度が低いわけではない。逆に精神や精霊に対しては、人よりも高度な考えを持っている。事実、人ではあっても、森の中での生活を好むエルフとは、共感するところが多いのか、とても友好的な関係を結んでいた。
アキラは街での光景を見て、電気などは魔術がそれを肩代わりしており、違和感を感じはしたものの、それはそれで「あり」とは思っていた。過去に見た、古い町並みと比較しても、見たようなものであったからだ。
光景に興味はあったが、それ以上に「ありえない」と感じ、想像上のものでしかなかった、獣人やエルフ達について、いろいろとたずねていた。
一行は会話を続けていたが、昨日、最初に王都パリスを目にした丘へと戻っていた。
ブルーが足を止める。
「人が居なくなるまで待ったか。ようやく、だな」
その言葉に応えるかのように、王都方向から蹄の音が聞こえてきた。全員が後ろを振り返った。
二十騎ほどが、丘の上を目指して坂を駆け上がってくる。
先頭の一騎は、他を圧倒する巨軀で、頭には立派な角が生えていた。
「……黒いユニコーン?」
「ホーンホースだ」
先に遭遇したサーベルウルフもそうだが、獣は戦闘に長けた上位種ほど角を生やす傾向だと、アキラにブルーが答える。
目前で止まったホーンホースに跨がっていたのは、ローダン商会の前で出会った、キムボール王子であった。
キムボールを守るようにして、二騎が彼の脇で控え、残りはアキラ達を取り囲む。
「また会ったな」
「会いに来た、だろうが」
キムボールの言葉にブルーは応えるが、面倒そうに一行の後ろへと向かう。相手をする気はないようだ。入れ替わり、前に出たのはツキだ。
柄に手は掛けぬまでも、アキラは抜刀に備えて、鞘を持つ手を腰まで上げる。
「追ってこられた様子ですが、いかようなご用件でしょうか?」
「なに、王都を離れ、どこへ行くのか興味があってな。いや、行くではなしに、帰るのか?」
「お答えする義務はないかと」
返答に、馬上の者達は一斉に腰のものに、剣の柄に手をかけた。
手を横に振ったキムボール。
「止めておけ、全滅まで一瞬だ」
ホーンホースから降り立ったキムボールが、手綱を預け、ゆっくりとツキへと近づいて行く。
「行き先を聞いたのは口実だ。王都を出たと聞いて、慌てて追っかけてきたのさ、挨拶の一つもしたくてな。素敵なお姉さん」
「それはご丁寧に。それでは失礼させていただきます」
言葉を残してツキは振り返り、足を踏み出そうとした。そのツキの腕を取ろうとしたキムボールは手を伸ばすが、アキラがそれを阻む。
刀を鞘に納めたまま、柄頭でキムボールの手を抑えた。これに、一度は柄から手を離した馬上の者達も抜刀。
「貴様達、無礼だぞ!その方を誰か分かってのものか!」
「王子様でしょう。知ってる」
退屈げに応えたリーネだが、胸の前にあげた指先には、小さな火が灯っていた。いわば、いつでも撃てる状態。
「魔術師だと……」
驚き怯む声が周囲から聞こえる。
恐れるのも無理はない。近接武器である剣しか持たない包囲網の中心に、遠距離で攻撃可能な者がいるのだ。もしかすると、複数への目標に同時攻撃が可能かもしれない。
膠着は魔術師に主導権を与える。
ならば、剣にて肉薄、先手を打つのが良策。幸い騎馬であることも、有効かと考えられる。
「止めて、リーネ」
ツキの言葉に、リーネはためらうが、彼女へ視線を向けると頷きが返ってきた。
魔術の行使を止め、リーネは手を下ろす。
僅かに弛緩する包囲網。その中で、キムボールがにやりと笑う。
「お前、近衛にこないか?守ることに、ためらいがない。動きも一流だ」
「断る」
王を守護する部隊への勧誘を、即座にアキラは一刀両断。
「答えにもためらいがないな。先ほどの事は、俺が悪かった。許せ」
ツキへの攻撃と捉えかねない動き。それを王族である、身分が明らかになっている状態での謝罪。付き従う周囲がざわめく。
一拍の後、刀を引く。
「お前達が何者であるのか、それが知りたかったのさ、素敵なお姉さん」
「応える義務はありません」
「そうだな。帝国の手の者でもなさそうだ」
改めて拒否するツキ。
そして、根拠なく応えるキムボール。ツキに背を向けて、自分の愛馬へと歩み始める。
愛馬の手綱を受け取り、視線をツキに向ける。
「帝国と財団がきな臭い。帝国が演習と通告して、兵を財団国境近くに集め始めた。それが挨拶にうかがった理由だ」
そのタイミングで、明らかなる強者が王都に現れた。帝国の者であれば、下手な接触は、齟齬が生じる恐れもある。だから、王族の自分が、ここに来たのだと。
素早い身のこなしで、ホーンホースへと跨がったキムボール。
「次に会うときは、花束でも持ってくるよ。素敵なお姉さん」
その言葉を残して、騎馬の一団はその場から去って行った。
空を舞ったブルーは、瞬く間に境界にたどり着いた。
小屋まで歩き、そこで荷物を持ったブルーが本来の姿に戻ってすぐのことだ。
無人の地に立つ、アキラから見て、鳥居のようなものの脇に降り立った。
特に形に意味はないのだが、不思議なことに、ブルーが知らぬ間に建てられていたと。精霊が見張る中、それを掻い潜って何者が立てたのだろう。
そして、鳥居もどきの横には、アキラの感覚と記憶では、パネルトラックにしか見えないものがあった。
「自動車があるのか」
「失われた技術だ。百年以上の昔、これを作った男がいた。魔術を学び、精霊に願って動かしていたのさ」
呼び名はキャリアー、作り上げた最初の頃は、問題なく動いていたのだが、やがて、精霊達が願いを聞かなくなり、動かなくなった。
作った男は、王国に支援を求めた。大量に荷が運べるというだけで、有用性が分からなかった当時の王国は、男にドラゴンにたずねてはどうか、守護地境界まで運ぶのは助けようと提案した。
すべての手を打ち尽くしていた男は、その提案に乗った。
「それで、ここまで持ってきたのはいいが、精霊達が拒んだ。そうなると、俺はどうしようもない。それから、これはここにずっと置かれたままになってる」
「燃料が精霊達の力か……」
「何にしても、精霊達は拒みはしたが、面白がって、保管はしていたのさ」
だから、百年たっても朽ちずに残っているのだと。
明らかなるオーパーツ。
作った男は、アキラは自分のいた、元の世界からの転生あるいは転移者なのかもと思った。おそらく、個人で出来るものではないため、国家レベルの支援があったのだろうが、今ここで調べる術はない。
リーネは興味がないのか、ツキと連れだって離れた場所に座っており、キャリアーの前にはアキラとブルーしかいない。
二人は黙って、時代を飛び越えようとしたものを見つめていた。
少しの沈黙、その後。
「アキラ、聞いておきたいことがある」
その真剣な声色に、うなずき返す。
「お前は人を斬ることに、ためらいがない」
なぜだと。
天を仰ぐアキラ。
「……人は魔力に覆われている。それを教えてもらった、だからだよ」
「それを信じろと」
「そうだ」
「……分かった。お前を知って、間もないが、信じてやる」
ちょっとした騒動があるかもしれん。だから、聞いておきたかったのだとブルーは告げる。
あえて、口にせずともアキラには感じる事ができた。何かの時、ツキとリーネを守れと、この偉大なるドラゴンが、言葉にせずに頼んでいた。
「ありがとう、ブルー」
わざと呼び捨てにする。
それに、ブルーはにっこりと笑う。
「それじゃ、ログハウスへ帰るか」
ほんの僅かな時間でつくだろうと。
「何か落下したのを、調べにいかなくも良いのか」
「俺が忘れていたのは事実だが、続けて、精霊達が何も言ってこないからには、たいした事はなかったんだろう」
普通は、事が解決するまで、精霊達は騒ぎ続けるはずだ。
守護地に戻って、何かあるかと考えていたが、精霊達の反応はない。だから、急ぐこともないだろうと、一旦はログハウスへ戻ることとなった。
ログハウスに戻った一行は、普段の生活を再び始めることとなった。
次回、明日午前に投稿できると思います。