7-1
新しく第7章を始めさせていただきます。
どうか、よろしくお願いいたします。
モス帝国 王都ロンデニオン 王宮
息詰まる空気に満ちていた。
ここはエリオットの執務室。ソファにて、主であるエリオットと対峙して座っているのはシルであった。
怒りの籠もった眼でシルを睨むエリオット。それを身じろぎ一つせずに受け入れるシル。
やがて長い時がたち、全身を弛緩させたエリオットが、身体をソファの背もたれに預けた。
「俺も同罪か……」
「馬鹿なことは言わないで」
懐からエリオットは書簡を取りだし、テーブルの上にそっと置いた。
「ローダン商会を通じて、アキラとスカイドラゴンの署名が入った書簡を受け取った」
署名といっても、アキラはやっと自分の名前を書けるようになったばかりで、子供が書いたような文字であり、ブルーに至っては足裏を押しつけた、肉球の足形であった。どう見ても、王族へ差し出す手紙には見えなかった。
読んで欲しいと、エリオットは指先でシルに向かって、テーブルの上の紙を滑らせる。
テーブルから書簡を拾い上げ、紙が触れ合う音と共に開いたシルは中を一読する。そこには今回の一連の出来事についてが書かれていた。そして、エンが交わしていた別の盟約によって、古の盟約は止められたことを。
そっとため息をつくシル。
「坊やとブルーらしいわ」
書簡の最初、時候の挨拶の後に真っ先に書かれていたのは、シルを責めてやるなとあった。
しかし、シルにとって、いかにアキラとブルーがかばい立てようとも、自分のしたことがなくなるものではないと知っていた。いかに星の精霊との盟約に従って行った事であったとして、帝国とその民に迷惑と苦労をかけた事は事実なのであるから。
これから、帝国は外交上で苦しい立場に置かれる事であろう。参戦した協同国、王国、財団からは賠償金を求められるかもしれない。
帝国は間違いなく大国である。少々の賠償金の支払いをしたとしても、財政は揺るぎもしないものの、痛手であることには間違いない。それに、外交は大国であっても小国に足をすくわれることだってある。
シルが責任をとって、我が身を差し出そうとしても、すでにシルは帝国の統治者であり、帝国と大精霊が交わした盟約により行ったことで、それを間違っていましたと取り消すことは出来ない。また、帝国の民も信奉する大精霊であるシルにそこまでは求めないであろう。
ただし、帝室と貴族階級からは怨嗟の目を向けられているが、シルは謝罪をしなかったし、する必要も感じなかった。
盟約に従ってのこと、だから責任などはないとは言わない。ただ、星の精霊が訳なくシルと盟約を交わしたわけではないと信じている。必ずこの世界のために、必要であったからだと、シルは信じていた。
「統治の方針は?」
「しばらく私は前に出ないで、今まで通りを帝王にお願いするわ」
そのシルの言葉に、エリオットはどうにもむず痒いものを感じていた。これが実はシルの素であると聞かされていてもだ。たまに漏れていたのはふざけていたのではなく、素に戻っていただけのことだった。
「問題は対外政策だな」
そのエリオットの言葉にシルは頷いた。
各国では、シルの姉妹であるリータやディーネ、それにサインが各国首脳部や指導層にシルを責めぬように申し入れてくれているが、それが簡単に受け入れられるものではないことを、エリオットとシルはよく知っていた。
いかに大精霊といえど、各国の政治に度を超えて口を挟むことなど出来なかったからだ。だからこそ、シルは帝国の統治を宣言したのであったが。
「それに、加えて魔王の宣言だ。頭が痛いな」
言葉通り、エリオットは痛みを堪えるように、こめかみを手の平で揉みほぐすのであった。先の戦いの後始末はもちろん、魔王とは戦わざるを得ないだろうから、それらにかかる費用をどうするかであった。
エリオットは、馬鹿父と馬鹿兄二人が多少無茶な浪費をしたとしても、大丈夫なように帝国の財政を行ってきたが、立て続けての戦いは予想していなかった。
「帝国は魔王の前面に立つしかないな」
地勢的に、帝国がもっとも砂漠に面しており、その砂漠を越えて魔王は攻めてくるはずである。一部共和国も砂漠と面してはいるが、線として見れば、やはり帝国が一番長く面している。
先の戦いの償いとしても、前面に出て戦うしかなかった。それに、甘んじて魔王の言うように、滅ぼされるわけには行かない。
魔王の宣言を聞いた時、一瞬、エリオットの頭には魔王に下って配下、あるいは属国となることが浮かんだが、それは下策として振り払った。
「しかし、何故魔王は人や獣人を滅ぼそうとする」
「厳密には、すべての人や獣人を殺すわけではないわ」
エリオットはシルにその先を促した。
シルが言うには、魔王は自分と共にあるものは、すべて守るだろうと。殺し滅ぼすのは宣言通り、惰弱で魔王と一緒に戦い、あるいは支える事が出来ない者達だ。
「では、魔王に降伏して、協力を求めれば助かるのか?」
「恐らく、魔王は降伏を惰弱と断じて、滅ぼすでしょうね」
なんだそれはと、エリオットは息を吐いた。降伏はおろか、話し合っても無駄そうである。何がそこまでさせるのであろうか。
「苦しい時代がくるのでしょう」
「それを乗り越えるために、魔王は試練を化そうというのか。何様だ!」
分からないと、シルはゆっくりと頭を左右に振った。
あるいは、密かに魔王と交流のあったエンならば、何かを知っているのかもとシルは思うのだった。
社畜男:「えっ、章をまたいで天丼?」
幼女もどき:「また出番なかったねー」
大太刀:「もう、本当に主人公交代ですね」
わんわん:「次回から、わん公○語にタイトル変更です。いつまでも主人公を待つわん公……」
しゃれになってない。
ちなみに嘘です。
次回、明日中の投稿になります。




