6-18
引き続き、
第6章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
モス帝国 帝都ロンデニオン 近郊 連合部隊本陣
魔王の宣言をエンから受け取ったアキラ達は、急いで本陣へと戻ってきた。あの場からシルは帝都へ状況を知らせるために戻り、エンも共和国へと戻った。
アキラ達は戻る途中、バス司令達と合流、勝ったのかと喜びそうなのを抑え、魔王の宣言を簡単に説明して、一緒にこの本陣へと戻っていた。
本陣の天幕に戻ると、改めて魔王の宣言を主たる者達に説明をしたのだが、今ひとつ現実味がないようだ。
やはり、大精霊のエンあたりでも一緒に来てもらい、説明させれば良かったかアキラは思ったが、本陣に残っていたブルーが口を挟んできた。
「いや、事実のようだ。今、大精霊のネットワークが大騒ぎになっている」
「なら、どうするよ。今度は魔王と戦うのか?」
そのフォイルの問いかけに、アキラは答える術はなかった。
「分からない。俺は戦うつもりでいるが、それは個人としての感情だ。国には国の方針というものがあるだろう」
「ならよう、俺は……」
それ以上は言うなと、アキラはフォイルを制止する。今は、各国の大精霊と首脳部が検討を始めているはずだ。その方針に従うべきだと。
「フォイルの言いたいことは分かるが、今度は俺が勝手に戦いに飛び込むんだ。その個人的なものに、人虎は巻き込めない」
族長である限り、自分の種を守る義務があり、戦争に加わるにしても利を計算しなければならない。まずは国で魔王の宣言について考えるべきだろうとアキラは言う。
「それより、帝国の責任はどうするんだ。今度の事については帝国の責任は重い」
たとえシルが言い出したことであっても、ドラゴンを殺すと言ったのは帝国であり、その罪はどう償うのかとカロニアは聞いているのだ。戦いは終わりました、はいそうですかと言うわけには各国はいかないのだ。
「狙われた俺が言うのも変だが、何らかの責任は取らせるつもりだ。しかしな、今じゃない。今は魔王対策だろう」
ブルーは、そのあたりは自分が処理してやると告げると、カロニアは渋い顔ながらも頷いた。目標は達していたが、その成果を得ようとしているのだ。元ではあっても、武人であり、政治家でもあるカロニアとっては当然であろう。
ただし、現実主義者でもあるカロニアは、今ここで何を言っても無駄であろうとも考えていた。ただ、なんとかするという、ドラゴンの言質を取って良しとした。
協同国の代表となっているフォイルは、アキラの麾下である想いがあるため、何も言い出さないし、バス司令は国からの命令でここにいるのであり、根っからの軍人であって、命令がない限りは終戦処理に加わりそうになかった。いや、リータあたりが処理するだろうと考えているのだろうが。
「よし、撤収準備を始めようか」
その言葉に、人々は天幕を後にするが、アキラはその中からローダンを呼んだ。
「俺たちも一旦は守護地の中心に戻る予定だけど、物資の用意をしておいてくれないか」
「支払いは?」
「俺の金でしてくれ。後でアキラから取り立てる」
それなら良いと、ローダンは借金かと嘆くアキラと、笑うブルーを眺めて笑った。
だが、その笑顔はすぐに消え失せ、真剣なものになった。
「シルから聞いたわ。壁になるって」
「そうありたい」
じっとローダンはアキラの顔を見つめていた。
アキラもローダンから目をそらさない。
「個人でやれることなんて、多くはないわ。特に今回は魔王につく国がでるかもしれない。すべての国が味方にならないわよ」
この世界は帝国周辺だけではないのだ。共和国や協同国の向こうにも国はあるのだ。
ただ、魔王の支配する地域に面しているのが、帝国や王国、そして共和国であるに過ぎない。
「それはそれで仕方ないと思う。俺は政治に首を突っ込むつもりはないよ。俺は俺で守りたいから守るだけだ」
「個人の力で?」
ゆっくりと頷くアキラ。
それを見たローダンに微笑みが戻った。
「分かった。なら、ローダン商会は坊やの味方よ」
「すまない」
「いいのよ、自分の従業員を守るのも、会頭の仕事よ」
そうだったと、アキラは笑った。
「早く、商いに戻りたいな。戦争は嫌だよ」
もちろんと、ローダンは笑って姿を消すのだった。
天幕に残ったのは、アキラとブルーだけになった。リーネとツキは、すでに精霊馬に装備をつけたり、食料などの準備のために、ここにはいなかった。
「なんか、古の盟約ってのに踊らされてないか?」
「なんでそう思う」
立っていたアキラが、手近の椅子を引き寄せて、音を立てて座り込む。テーブルに用意してあった、水差しを傾けてコップへと水を注ぎ入れた。
飲むでもなし、アキラはじっとコップを見つめていた。何かを考えるかのように。
「エンが言っていただろう。シルは魔王に、古の盟約を超えたら、魔王は死ぬって」
それはまるで予言の類いのようだ。
その古の盟約はシルが果たしたに違いない。そして、アキラであれ、シルであれ、手を下すのが誰であれ、魔王は死すべき運命にあるのだと。
「何故、星の精霊は古の盟約なんて、シルと交わしたんだろう」
「さあ、何故だろうな。俺もその盟約を交わした時は、存在しなかったからな」
今まで、地面に座っていたブルーが、椅子の一つに飛び上がった。そして、じっとアキラを見つめた。
「俺はニアを知っている。ニアはこの世界が大好きだ。精霊も、人も獣人も獣もだ。全部、ニアは大好きだから守りたいと言っていた」
「そうだな。好きなものは守りたい」
「アキラ、ニアと一緒だな」
そう言い残して、ブルーは椅子から飛び降り、天幕の入り口へと向かっていった。
そして、出て行く間際に足を止めた。
「お前は、ニアに似ている」
そう言い残して、天幕の外へと出て行った。
残されたアキラは、手にして弄んでいたグラスから一気に水を飲むのだった。
魔王支配地域 岩窟内部
慌ただしく、岩窟内部の砦では人や獣人が動き回っていた。
もちろん、魔王であるオベロンが出撃準備を命じていたからだ。
それら慌ただしい中の廊下を、オベロンはフレイを従えて大股で歩いていた。
「準備はどの程度進んでいる」
「旗艦トロイアを始めとして、エーテル炉が安定しません。現在調査中ですが、技官はエーテルの乱れが生じていることが原因と予測しています」
律儀なフレイが、明確な時間日数で答えぬと言うことは、いつ準備が整うかは分からないということであった。
「予定を組み直して、提出しろ」
「分かりました」
その言葉を聞きつつ、オベロンは一つの部屋に入った。そこは外の慌ただしさを上回る喧噪にあふれていた。
オベロンの姿を見た人々は、頭を下げるが、オベロンは作業の手を止めるなの言葉に従い、していた作業へと戻っていく。
部屋の奥に設けられた、一際大きな机に設けられた椅子に、オベロンは座り、周囲を見回した。
ここは、特に魔王オベロンの執務室という訳ではなく、いわば魔王軍の中枢、指揮所といったところだ。
オベロンは自分の執務室や、いわゆる謁見の間を作ることを禁じていた。一時フレイを筆頭にして、必要であるから作るべきだという意見があったが、それをオベロンが必要なしと一刀のもとに斬り捨てたのだ。
実務を優先すべしとも。
テーブルに置かれていた多くの書類を、オベロンは拾い上げ、中身を確認しては署名を行っていく。その手を止めずにオベロンは口を開いた。
「この書類の多さ、どうにかならんのか」
「申し訳ございません。オベロン様の裁可が必要な件が多くて」
「優秀な指揮官、官僚がまだまだ必要か」
その指摘に、はいと答えるフレイ。同様の事を考えていただけに、代案も提案できず、渋い表情になるフレイだった。
書類を消化していく中で、オベロンは一枚の書類で手を止め、それをフレイに差し出した。
「これをフレイは見ていたか?」
差し出された書類に目を落とし、一読したフレイが驚いた表情を浮かべた。
「これは、私に報告はございません。知らぬ事です」
「まさか、共和国が艦隊を作り上げておったとは」
それは、魔王配下の暗部からの報告であった。フレイが知らぬのも無理はなかった。基本、暗部からの情報はオベロンに直接上げられる。直接、口頭で行われる場合もあり、今回のように通常の書類に紛れている場合もあった。すべて、情報を守るための手段であった。
「ただの砂漠船を武装させただけでは?」
「いや、あのエンの住む共和国だぞ。我々と同程度の性能と考えておいた方がいいな」
「では、情報が漏洩したと」
そのフレイの疑問を、オベロンは首を左右に振って否定した。
「恐らく、くそ親父が関与している」
その言葉に、フレイは悔しげな顔を浮かべた。それに比べて、オベロンは若干だが、楽しそうな表情であった。
「どうやら、艦隊戦とやらを体験できそうだな」
そう言って、にやりと笑うのであった。
リシア共和国 隠蔽砂漠軍港
そこは、ただ広いだけの細長い場所であった。
怒号漂う、慌ただしく人が行き交う中にあって、そこだけが静謐な空間であった。
その空間の中心にいるのは、エンであった。
人々は佇むエンを避けて、そのために空間が出来ていた。
「さて坊や、作ってあげたから、後は任せますよ」
上空からの風がエンの髪をすくい上げて、慌てて髪を抑えるエン。薄衣の裾がひらめいていた。
にっこり笑って、風を起こした原因の空飛ぶ物体を見上げるエンであった。
これで第6章が終了いたしました。
次回からは第7章となります。
どうか引き続き、
よろしくお願いいたします。
次回、明日中の投稿になります。